S3-8「コスパの問題」
「むぅ……」
「……どうしたのよ?」
銃(バッドポリスマン)を手に、辺りを警戒しながら先導する飯田をブスっとした表情で見つめる空に、セインはやや困惑気味に話しかけた。
「べーつにー」
聞いても子供っぽく頬を膨らましてはそっぽを向いてしまう。セインは頭に疑問符を浮かべながら空と飯田を交互に見やる。
「アタシの時は渋ってたのにー……」
空が小さく呟いたその言葉にああ、とセインはようやく合点がいく。
空が今持っている武器、血捨(ちぇすと)という名のトンファーだが、実はこの武器を渡される前に一度空はセインに対して要望を言っていたのだ。
『じゃあ銃がいい! 派手でカッコいいやつ!』
『ごめん、それは無理』
即答で断られたことにより、それならばと元より心得のあった空手の動きを活かしやすいトンファーという武器を選んだのだ。にも関わらずこの飯田に対してはセイン自ら強力な飛び道具である銃をプレゼントしたせいで、完全にヘソを曲げてしまっていた。
「あー、えーっとね空ちゃん?」
「むー……」
セインは飯田を一瞥すると、彼に聞こえないようにそっと空へ耳打ちする。
「実はね、飛び道具って
セインが飛び道具を空に渡さなかったのにはもちろん理由があった。飛び道具型の武器は近接武器に比べて非常に
元よりセインの武器は本来の武器としての機能に人体エネルギーを変換させた魔力を纏わせることによって、物理、魔法、両面での攻撃を可能とさせた武器である。しかし、その仕組みで飛び道具型の武器を作ろうと思えば弓矢の矢なり、銃の弾丸なりは本物を用意する必要がある。だが矢はともかく弾丸を相当数用意するのは国や地域にもよるがかなりハードルが高い。ならば、弾丸部分も魔力で生成してしまえばいい。そうすれば反動無し、リロード不要の超兵器が完成する。が、しかし、そこで発生するのがエネルギー効率、コスパの問題である。
弾丸を魔力で補うということはつまり発射される時の推進力、実物の弾丸で言うところの火薬の爆発部分も魔力で補うことになる。すると、武器に魔力を纏わせているだけの近接武器に対して、一回の攻撃で消費する魔力の量は明らかに飛び道具の方が大きくなる。加えて飛び道具はそもそも当てるだけでもかなりの技量が要求される上に、もし外した場合、弾そのものと推進力用の魔力が同時に何の役目を果たすこともなくただ失われる。と、リスクリターンの面でも正直釣り合っていない。
それらのことから飛び道具型の武器を扱おうとした場合、第一に数打ちゃ当たるを前提としているフルオート式のタイプはまず除外。次に狙いを定めて一発の弾を放つライフルタイプだが、外した際の損失が大きすぎるのとハンドガン以上に取り回しが悪く技術を要求されるため、あまり実用的とは言いにくい。これらのデメリットを兼ね備えたショットガン等は問題外もいいところだろう。
そうなってくると必然的に、中型以下のハンドガンを銃の心得がある人間が扱う。これが銃系の魔法武器を扱う際ギリギリ実用圏内にはいる条件となる。
「……と、まあそういうわけでね」
「ふ~ん……ねえおっちゃん!」
セインの話を聞いて納得したのか、そもそも理解したのか定かではないが、空は前方を歩く飯田を引き留めた。
「ん、なんだ?」
「おっちゃんって銃の扱いどれくらい上手いの? ケーサツて一応銃の訓練とかやってんでしょ?」
「おいおい侮ってくれるなよ、こう見えても俺は……っ!」
空の問いに答えようとして飯田の表情が強張る。すぐさま向きを反転させて前方の闇の中へと銃を構える。
ズリズリ、ズリズリと何かを引きずりながら何者かが近づいてくる音がする。懐中電灯の光が闇の中へ潜むものを照らす。
「グウゥオォォォォ!」
照らされた瞬間獣のような声をあげたのは、首元から大量に血を流した跡のある死体。白目を向いて歪な歩き方をするそれは、有り体に言えばゾンビというものに近かった。
「どうやら腕の見せ所みたいよ? アホ刑事!」
「飯田だ! バカ女!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます