S3-4「既読スルー」
大型ショッピングモール『エオン』。なんでもあると言われるその中の小さなカフェ店内。そのまた一角に二人の少女が対面して座っていた。
「…………」
「……チッ!」
(ひぃぃぃ!)
少女は心の中で悲鳴を上げた。目の前でスマホの画面を見ながら不機嫌を体現させる相手を見つめながら。
「なあ櫻笛」
「は、はぃい!?」
魔力と見まごう程のどす黒いオーラを放つ鈴江に声を掛けられ、高音は子犬のような悲鳴を上げる。周りの見ず知らずの人ですら高音に憐みの表情を向ける。
「集合時間って、何時だった?」
「じゅ、十二時です……」
「今何時だ?」
「一時、です……」
何やら意味深な質問に高音の顔はますます強張っていく。
「そうだ。そこにこれだ」
鈴江は自身のスマホの画面を高音の顔前に突き出す。高音は困惑交じりにその画面の中身を見つめる。そこには、
原田鈴江:お前今どこにいる(12:42)
空ちゃん@ファンタジー珍道中:ゴメン今起きた!(*^^)v(12:58)
「どう思う?」
(ひぃえぇぇぇぇ!)
吊り形の目を細めて高音に意見を求める。一方の高音は泣きそうになりながらオロオロすることしかできずにいた。
もう誰でもいい、助けてくれ。死を目前に神に祈る信徒の如く、高音は心の中で密かに叫びをあげていた。
ちなみにセインは最初こそ行動を共にしていたもののいつの間にか、具体的にはゲームセンターの前を通り過ぎた時点で行方を眩ませていたため助けを求めることはできない。肝心な時に救いがないのはどこの神も同じか。
「うーむ……」
そんな二人の様子を遠くから覗き見る二つの影があった。
「どう、様子は?」
「よくわかんない!」
人々の往来のど真ん中で双眼鏡を覗きながら
「それにしても味な真似するじゃない。鈴江と高音ちゃんの距離を縮める為に一芝居打つなんて」
隣で同じように双眼鏡を覗きながら言うセインはさぞ楽しそうな様子だった。
「ムッフッフ~、鈴江のやつ本当にアタシが寝坊したと思ってるな~? さすがにアタシもそこまで間抜けじゃないっての!」
「ちなみに実際は何時起き?」
「11時!!」
「わーお!」
何が『わーお』なのか知らないが、二人はなんとも楽しそうな様子で鈴江たちの様子を覗き続ける。
(ねえ、ちょっと……)
(なにあれ……)
(怪しいわね……)
その二人もまた、周りから見られていた。
(うえぇぇん!)
一方、そんな二人の身勝手な善意で窮地に立たされている高音。
もう誰でも何でもいい、とにかく何か変化をくれ!
半ば自暴自棄になりながら心の中でそう叫んでいると、
「あれー? 奇遇ですねぇ?」
「……あ?」
そこに現れたのは思いもよらぬ人物だった。
「ヒッ!」
思わず身を引く高音。その視線の先には高音をいじめているグループ、その主犯格の少女だった。
(何でこんな時にぃぃぃ!!)
誰でもいいとは言ったがお前じゃない! 高音はもはやパニック寸前だった。
「……一体何の用だブスアマ」
「――っ! い、いきなり言ってくれますね」
苛立ちや敵意などをもはや隠す気もない鈴江は、少女を今にも滅多刺しにせんばかりの目で睨み付ける。
相手も一瞬それに怯むが、すぐさま得意気な顔になってフフン、と鼻を鳴らす。
「別に大した用じゃないですよー? いやーじつはー、この間そこの高音ちゃんのことでお世話になったことで
人を騙すのに適した笑顔でそんなことを言う少女。するとそれが合図だったかのように、近くの席に陣取っていた、見るからに柄の悪そうな男たちが二人の元へと近づいてきた。
「……ねえ、あれ何か絡まれてない?」
「絡まれてんねー……」
遠くから覗き見ていた二人も様子の変化に気づいたようだった。
「どう? 私たちも行った方がいい?」
「あー、ん? あれって……」
「その事をうちの兄に話したらー、是非先輩にお会いしたいと言うもんですからー?」
「…………」
男の集団の内、周りの振るまいからおそらくリーダーらしき男が、ズイっと鈴江の目の前へと出てくる。
「…………」
「…………」
男と鈴江の視線が交差する。そして……
「お久しぶりです! 鈴江さん! 相変わらず麗しゅうようで何よりです!!」
「「「オース!!」」」
「帰れぇ!!」
「「えぇぇぇぇ!?」」
それぞれの声が店内を突き抜けていった。
「……あれ諏訪(すわ)っちじゃん」
レンズ越しに空は呟いた。
「知ってるの?」
「あーうん。諏訪(すわ) 奥人(おくと)って言って同じ中学だった」
「へー、……ちなみに関係は?」
「何て言うか、鈴江の……何? 舎弟? 宿敵? みたいな感じ」
ハッキリしない返事にセインはえー? と首をかしげた。
(ち、ちょっとお兄ちゃん! 何急に頭下げてんの!)
(バッカ! お前鈴江さんの前だぞ!)
(いやいや意味わかんないし! 何なの? 私の仇打ってくれるんじゃないの!?)
(んなわけねぇだろ! なんで俺がそんなことするんだよ!)
(だってお兄ちゃん、こいつとは因縁があるって!)
(……聞こえてる)
言いたくなるのを我慢しながら高音は、未だ頭を下げたまま静止し続ける取り巻きの男たちに教育の偉大さを一人感じていた。
「鈴江さん!」
喚きたてる妹を振り切り兄、奥人の方が改めて鈴江と向き合う。
「俺との約束、覚えてますか!」
「…………」
(約束……?)
両者のやり取りを不思議そうに見つめる高音。因縁やら約束やら、一体この二人に何があったのだろう。そう思っていると奥人が意を決したように息を吸い、
「俺とタイマンで勝負して勝ったら、付き合ってくれるって! 約束しましたよね!」
「「うぃえぇぇぇぇぇ!?」」
今日は嫌いな相手と妙に息の合う日だと思う高音だった。
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