S2-19「風神拐」
「
感じたのは、風。そしてそれは目の前の少女を中心に渦を巻き始める。その在り方はまるで台風の目のようだった。
「うっしゃぁぁぁ!」
空の雄叫びと共に彼女を中心とした空気の渦は四方へと展開される。
「なにぃ! ぶわっ!」
まるで壁が正面から突っ込んでくるかのような圧倒的エネルギーに、襲いかかってきた少年はその身を大きく吹き飛ばされる。
「空、それは……」
唖然とする鈴江。空の手には緑色に淡く輝く一対のトンファーが握られていた。
「ふっふっふーん! ビックリした?」
まるで子供のような顔で笑いかけると、武器と共に現れた腰部の収納ベルトにガシャンとそれを納める。
「いやー、こういうの一度やってみたかったんだよ! 今でもちょくちょく見てんだよね、ヒーロー物の特撮とかああいうの!」
ケラケラと危機に瀕しているのが嘘のように笑う。そんなヒーローに対して黙ってはいられない者がいた。
「ふざけやがってぇ!」
吹き飛ばされた敵は怒りを露にしながら空を睨む。その体はいくらか
「なんか予想外に効いてるっぽいね、さっきの」
声を荒らげる敵を見やりながら意外そうに言う空。
「……なるほど、そうか」
するとしばらく黙りこんだ後、何か合点がいったと言うようにそう呟く鈴江。
「空、少しいいか?」
「うん?」
「うへぇ~、すなまみれだ~」
「あのチビぜったいタダじゃおかねぇぞ」
「ていってもつぎどうすんの?」
形態的に半人半妖の状態で各々言葉をもらす悪役一同。敵の助っ人の予想外の反撃に次の一手を決めかねていた。
「おーい! そこのガキんちょ三人組!」
そこへ降ってきたのは揚々とした声。見るとそこには何とも得意気な顔でニヤニヤとこちらを見つめてくる空がいた。
「もしかしてもう降参かー? あたしゃそれでも構わないよー? ナッハッハッハ!」
明らか見下した態度で相手を挑発する空。その内容はお世辞にも高度なものではなかったが。
「あぁ!? なんだとこのチビ!」
「すっごいムカつくあのかお! チビのくせに!」
「あのコなんねんせいなんだろーねー?」
「チビチビ言うな! バカ!」
煽ったと思えば煽り返されご丁寧にもそれに反応する空。
「こう見えても高校生じゃいアタシはぁ!」
「はぁ!? うっそだろ! おれよりちっちゃいじゃん!」
「うっさい雑魚のくせに!」
「だれがザコだクソチビ!」
「またチビっていった!」
「チビだろうがバーカ!」
「お前がバカだバーカ!」
売り言葉に買い言葉、悲しいほどに見た目相応のやり取りを繰り返す両者。最初は一緒になって煽っていた他の二人も、既に一歩ひいた位置から見ている。
「ああ! もういい! ぶっころしてやる!!」
「上等だかかってこいガキんちょ!」
言い争いの終着点は案の定喧嘩、否殺し合いである。
「おい! おまえらもてつだえよ!」
「はーい」
「わかったー」
激昂する仲間に言われ、方や若干引き気味に、方や待ってましたと言わんばかりに答える。
「これについてこれるか!」
声を上げると同時に形態は完全に人ならざるものへと素早く変化、そのまま地面を猛スピードで滑走、空の背後へと回り込む。
「いっくよー! ちっちゃいおねえちゃん!」
残る二人も形態を変化、二手に別れる。結果、三方向から空を囲む形へと陣形を変える。
三体は空の周りを周回しながら徐々に空へと近づいていく。
「…………」
その様子を見ながら空は腰部のベルトから
「おわりだ! しねぇ!」
盤上の
「突風!!」
しかし、その攻撃が当たることはなかった。空が
「んなぁにぃ!」
「――!?」
「うぇ!?」
反応は三者三様、しかしその視線はみな同一、一点へと吸い込まれていく。そして気づいてしまう。
その視線の先にいる者がこの上ないほどのしたり顔で自分達を見下ろしていることに。
「ヘイ、鈴江ちゃん! やっちゃってぇ!」
「――!」
その言葉に敵の一人が慌てて振り返る。そこには胸の前で刀を横に構えた状態で立つ鈴江の姿があった。そして、その刀は
「水は切っても切れないんだったな? ……なら! これでどうだ!」
鈴江が刀を
「ウオォォォ!」
迫り来るそのエネルギーを前に、とっさに水の防壁を張る。遅れて残りの二人もそれに続く。が、しかし、そのエネルギーは防壁に接触するとまるで水面に立つ波紋のように壁を沿い
「「「ウゥグアァァァ!」」」
獣のような悲鳴をあげてスライムの怪物達に致命的な損傷が与えられる。
「やれ、空」
「アイアイサー!」
再び頭上から聞こえるその声。なぜだ、なぜこんなことに、あそこまで優位にたっていたのに、所詮こいつらを嬲るのなんざただの遊び、暇潰しでしかなかったのに、鬼は自分達、追い詰めるのはこっちのはずだったのに。
「「「ウゴアァァァ!!」」」
不満と憎しみと好奇と腹立たしさと、それぞれがそれぞれ様々な感情が入り交じった叫びを上げる。そんな彼らの目に最期に写ったのは天から地を突かんとする一人の風神の姿だった。
「
吹き抜ける風の中、水影は塵となって消えていった。
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