S2-16「捜索」

「――見つけた!」

「わーみつかった~!」

 遊具の影から現れた少年は見つかったにしては嬉しそうな表情で、鈴江の元に歩み寄ってくる。

「それじゃあヒントおしえてあげるね! おたからは、『たくさんならんでるところにあるよ』!」

 そう言い残すなり少年は、もう用は済んだと言わんばかりにどこかへと軽快に駆けていった。


「――今ので……思いの外単純な隠れ場所で助かったな」

 鬼面の少年を撒いた後、鈴江は今のを含め二人の子供を発見した。二人目は木々の間で息を潜めていたところを、三人目は遊具の影で縮こまっていたところを発見された。

の言っていたヒントはたしか……『石がある所』だったか」

 この時点で鈴江が手に入れたヒントは、宝は『広場にはない』、『石がある所』、『たくさん並んでいる所』の三つ。

「石、たくさん並んでいる……のどこかに石が並んでいる所があるのか?」

 鈴江は不自然に広がる、もはや森と化している回りの風景を見やる。

「……考えてる暇はないな、急がないとまたあいつが襲ってくるかもしれない」

 十数分前、砂場に突っ込ませることで足止めに成功した鬼面の少年。さすがに彼もすでに復活を果たし、鈴江の捜索を再開した頃だろう。

 鈴江は残る三人を見つけるため、足早に森へと進んでいった。


 森の中は広場に比べ、いっそう暗くまるでどこまでも続いているかのような錯覚を覚える。否、この場合錯覚ではないのかもしれない。

「この奥に隠れているとすると厄介だな」

 鈴江は辺りに注意を払いながら木々の間を進んでいく。

 すると視線の先、腰丈程の高さに延びている茂みが不自然に揺れた。

「――! いたか!?」

 その声が聞こえたのか、それは一目散に鈴江から逃げ出した。

「なっ! まて!」

 逃げるそれを追いかけようと茂みの中へ足を踏み入れる。その時、足元に違和感。

 ――シュルルル、と何かが擦れ会う音。

 慌てて一歩ひいた鈴江の眼前に肌色の物体が降ってくる。

「――!! こ、これは!?」

 それは人の首だった。首下と切り離された苦悶の表情を浮かべる顔が、細いロープに括りつけられた状態で宙に吊られている。

 そして気づいてしまう。これは作り物ではない、本物の人間の一部、恐らくは鈴江よりも先にここへ訪れてしまった者のなれの果て。

「――お前もこうなるとでも言いたいのか?」

 鈴江の表情が驚きから別のものに変わる。しかし、それは恐怖ではない。

「イタズラにしては度が過ぎてるな」

 それは怒りだった。

 鈴江は再び逃げた相手を追うため、駆け出した。


 ――ガサガサ、ガサガサと周囲の草木が揺れる。

(右前方、いや左手奥側? 後ろからも?)

 連続して他方向から明らかに人の手によるものであろう音が聞こえてくる。

 耳をすまし、音を聞き分ける。すると突如、後方から大粒の石が飛んでくる。

「……どうやら隠れるだけじゃ飽きたらないらしいな!」

 気配を察しそれを躱す。すると続けざまに二発、三発と飛んでくる。

 ほぼ直線に近い軌道。石と言えどそれには確かな殺傷力があった。

「うおっ! 危なかった! だが、今ので場所は割れたぞ!」

 ギリギリでそれを躱し、石が飛んできた場所、やや小さめの、それこそ子供でも頑張れば登れそうな木に向かって走る。

「でやあ!」

 その木に向かって思い切り蹴りを放つ。衝撃が木と鈴江の足に広がる。

「うわわわあばぁ!」

 大きく揺れた木の上から小さな少年が落ちてきた。背中から落下した少年は痛みに悶えている。

「見つけたぞ!」

 鈴江が逃がさないために少年に掴みかかると、先程まで鈴江が向いていた方向にて、二つの影が音を鳴らしながら森の奥へと消えていった。

「あー! あいつら! オレをおいていくなよー!」

「……やっぱり複数で行動してたか」

 遠ざかる影を見て少年が叫ぶ。

 鈴江それを見やった後、ぎゃあきゃあと吠える少年を視線で制する。

「ちぇー! わかったよ! こうさんするよ!」

 鈴江のに気圧されたのか、少年はしぶしぶ大人しくなった。

「ヒントだろ? おしえてやるよ。ヒントは『たからは』だよ!」

 不貞腐れながらそう言うと少年は立ち上がる。

「のこりふたりはオレなんかよりあたまもいいしすごいんだからな! せーぜーがんばれよ!」

 最後に捨て台詞を放つと少年はどこかへと走っていった。


「森の中には無い? どう言うことだ?」

 少年の背中を見送りながら鈴江は頭をぐるぐるとさせていた。

 最初の少女が言っていたヒント『宝は広場にはない』そして今の少年が言った『森にはない』。となると場所は限られてきそうだが、そうなると他のヒントと合致しそうな場所が思い付かない。

「やはり残り二人も見つける必要がありそうだな」

 空いたピースを埋めるため、鈴江は残る二人が逃げたであろう方角へ進みだした。


「これは……」

 しばらく同じ方向に進んでいると、それまでの草木生い茂る道なき道から、人二人分くらいの幅はありそうな獣道に出た。

「……どうにも進む気にならないな」

 その獣道は不気味なほどにまっすぐだった。まるで舗装された道のようにまっすぐ、延々と続いている。


「ねーほんとにこっちきたのー? いないよー?」

「ほんとうだって!」


「――っ! この声は!」

 どうしようかと思考を巡らす鈴江の耳に聞こえてきたのは二つの声。一つは先程鈴江に捕まった少年、そしてもう一つはあの鬼面の少年だった。

「あいつあのふたりおいかけていったから、ぜったいこのちかくにいるって!」

「――っ!あいつ!!」

 仕返し、というべきだろうか、木から振り落とされた少年は鈴江への報復に鬼の力を借りることにしたらしい。

「じゃあもうちょっとさがしてみようか」

 少年二人は獣道の方とは違う方向に歩いて行った。


「……こうなったらもう悩んでいる時間も無さそうだな」

 続く道を見つめながら言う。早く残りの二人を見つけなければいずれあの鬼面の少年に見つかってしまうだろう。

 一度離れて二人をやり過ごすと言う手もあるが、合流されて待ち伏せでもされたら面倒どころの話ではない。

「……行くか」

 警戒を強めながら鈴江は道を進みはじめた。

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