S1-11「再会」
「ぐっ…………」
鈴江の身もろとも教室を包み込んだ激しい閃光は徐々に収まっていき、しばらくすると辺りは元の暗さと静けさを取り戻していた。
「何だったんだ今のは……」
鈴江の視界も少しずつ本来の色や形を取り戻していく。と、ここで思い出す。
「そうだ! セイン!」
教室の外でセインが本体以外と交戦中だったのを思い出し、桜花を手にしたまま教室を飛び出す。
「セイン! 大丈夫……か?」
廊下に出た鈴江が目にしたものは、肩を大きく上下させながら息をし、今にも倒れそうなほど疲労したセインと、その後ろに広がるまるで火事でもあったかのように黒こげになった廊下の姿だった。
「ぁあ――ぜぇ……スズ……エ――はぁ……無事だ……た――ぜぇ――ぜぇ」
「あ、ああ。私は無事だったけど……アンタの方が大丈夫か?」
明らか大丈夫じゃなさそうには見えるが、一応聞いておく。もはやこの時点で何があったか大方想像がつく。
「報告があるんだが、しゃべれるか?」
「ごめ――ゼヒュ……ムリ……」
「……だろうな」
その後セインが回復するまで待ち、お互い何があったかを報告し合う。
「つまりアナタが教室の中で戦ったのが本体で間違いないってこと?」
「たぶんな。今までの他の連中に比べて明らかに動きや態度が違っていた。私たちをここまで誘導したのもそいつの仕業だろう」
「……人じゃなかったのよね?」
疑念の表情でセインがそんなことを言った。鈴江はそれに対しああ、と特に気に留めずに肯定の意を表すが、セインは何かが引っかかるのか顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「倒したの?」
「いや、逃げられた。だけどあの様子だと、向かった先は屋上の可能性が高いと思う。」
「ふーむ……まずいわね……」
「うん?」
ふいにセインの口から出たまずいという単語を聞いた鈴江は、どういうことだと言葉には出さないがセインに問う。
「あー、いや……ねぇ。見ての通りアタシさっき大技ぶっ放しちゃったわけじゃない?」
親指で背後の黒こげになった廊下を指さす。さっきの強烈な光とセインの声、そして廊下内にひしめき合っていた雑魚腕たちが跡形もなくなっており、それらがいたであろう場所は見るも無残に炭の塗装が施されている。おそらくは窮地に陥ったセインが出し惜しみしてはいられないと、自分の持つありったけの力を解放してあの集団を消し飛ばしたのだろう。
「で、もう冗談抜きに一切の後方支援できそうにないのよこれが」
「……それは確かにまずいな」
鈴江はそういったまま黙りこんでしまった。今まで敵に襲われた際、セインはあの不思議な力、魔法とやらで交戦していた覚えがある。それが一切使えなくなったとなればセインの戦力としての期待はほぼ無と化すことになる。
「……自分用の武器は持ってないのか?」
ふと思いつきざまに聞いてみる。セインが自分に桜花を渡したときに他にも武器があるような素振りを見せていた。ひょっとするとその中にセインが使うものもあるのではないかと思ったのだ。
「一応あるにはあるんだけどねー……」
そういいながらセインがいつぞやの光を出し、その中に手を突っ込む。今度は割とすんなり目的の物を手にすると、それを引き抜く。
引き抜かれたソレに鈴江は思わず
薄暗いこの空間でもはっきりとわかるほど美しい光沢を放つ刀身に、柄の部分にはめ込まれた宝石に入り込んだ光が幾重にも反射し、まるでその宝石そのものが光源であるかのような錯覚を覚える。聖剣、そう呼ぶのがふさわしいであろうそれを、鈴江はまじまじと見つめていた。
しかし、それを手にしている本人は不満そうな顔で自身の剣見つめている。
「これさー、たぶんすごくいい物なんだろうけどもねー……一回も使ったことないのよ」
「こんな見るからに強そうな武器って雰囲気醸し出してるのにか?」
セインのその言葉に呆気にとられる。貰ったものにケチをつけるのはどうかと思うが、どう見ても桜花よりもすごそうな剣だというのに、出し惜しみしてるならともかく使ったこともないとはどういうことだというのか。
「だって、宝剣って普通
「確かに……」
以外にもまともなことを言われて黙り込んでしまう。確かにこれを武器として使うよりかはガラスケース等に入れて飾っておいた方が映えるような気がした。しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。
「……というか、私だって今日初めて刀持ったんだから無いよりマシだろ」
「まーそうなんだけどね」
はぁ……と一つ溜息をついて
「あとコレ重いし、正直資金源にするために持ってきたようなもんなのよねー」
「…………」
そんなことを言うセインの姿を見て、宝の持ち腐れとはまさにこういうことを指すのだろうと内心思いながら鈴江は溜息を吐いた。
「――ついたぞ……ここだ……」
二人は南館最上階のさらに上、屋上の扉の前に立っていた。
「へー、屋上って案外簡単に来れるもんなのね」
この先に敵がいることを想定し、緊張の面持ちの鈴江に対して、あっけからんとした様子でいうセイン。しかしその眼はいくらか先ほどまでにはない雰囲気を醸し出していた。
「…………」
鈴江はそれに反応を示すことはなく、ただぼーっと目の前の固い扉を見つめていた。
「……アナタの気持ちもわかるけど、今はその友達を探すことより敵の本体を叩く方が先決よ」
「……ああ」
セインは鈴江の意図することを察したのか釘をさすつもりで鈴江に言う。
先ほど家庭科室で敵本体を逃がした後、セインが空を探すのを後回しにし、敵本体を叩くことを優先したのだ。鈴江は難色を示したが、今奴を逃してしまうと後が面倒なことになると説明され、渋々承諾したのだ。
「――ふぅ……よし、行くぞ」
「布陣はどうする?」
「私が先に入るセインは後ろを確認してから入ってきてくれ」
「OK」
お互いに武器を取出し、いつでも戦闘可能な状態になる。鈴江は扉をセインは階段の方を向いた状態である。
「……鈴江」
「なんだ?」
今にも入るかというところで不意にセインの声がかかった。
「さっき一切の支援ができないって言ったけど、本当はあと一回、あと一回だけ何かしらの支援ができるわ」
「……本当に一回なのか?」
「こればっかりはゆすっても叩いても一回だけよ」
「……わかった」
会話を終えて暫し沈黙が流れる。そして、
「――いくぞ!!」
鈴江の声と共にドアがバンっと勢いよく開かれた。その勢いのまま屋上へと足を踏み入れる。
「いたな! さっきの!」
そこには家庭科室で見た一回り大きい腕の化け物。敵の本体が人でいうところの背中を向けた状態で佇んでいた。
「セイン! そっちは大丈夫か!」
階段部分へ残っていたセインに大声で声をかける。鈴江からは今敵にとっておそらく背後であろう黒いモヤの部分しか見えていない。下手に仕掛ける前にセインを近くに呼んでおくためだ。
「大丈夫よ! 問題ない!」
背後からの奇襲が無いことを確認したセインが例の剣を構えた状態で突入してくる。それに合わせるように役者はそろったと言わんばかりに悠々とこちらを向く本体。が、しかし、その姿は何かを抱え込んでいるかのように複数の腕が前面に覆いかぶさるようになっている奇妙な姿だった。
「また何か隠し持っているのか? セイン、気をつけろ!」
迂闊に攻め込むわけにはいかない。奴は何をしてくるかわからないのだ。二人と一塊がお互いに睨みを利かせている。
「――フッフフふふふ……アハハハハ!」
するとそこへどこからともなく別の声が聞こえてきた。
「声?」
突然聞こえてきた声に驚くセイン。いったい何なんだとふと鈴江の方を見た。その鈴江は唖然とした表情で目を丸くしていた。
「この……声は……」
鈴江の口からかろうじて絞り出したような声が発せられる。それを見た敵はゆっくりと折り重なってる腕を退かし、その中をあらわにする。
「サッキはホんト……ヨくもやっテクレたネェ!!」
そこから現れたのは紛れもない、
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