Stage1「学校編」
S1-1「遭遇」
「……ん……んぅ…………?」
闇の中で鈴江は目を覚ます。そして、しばらくして自分がさっきまで意識を失っていたのだと理解する。
(ここは……?)
見渡してみるが、自分の手足ですら視認するのが困難なほど暗く、周りがよく見えない。ならば触ってみる。自分が今いる地面を触れて感じてみる。
「……床?」
床。その感触から自分が今いるのは先ほどまでいた外ではないことを悟る。もし仮に駐車場の上で目を覚ましたのであれば、アスファルトか整備されていない部分の土に触れるはずである。そして、鈴江にはこの床の感触に覚えがあった。
「教室……」
記憶が正しければこの感触は学校の教室の床と同じ感触であるはずである。つまり、彼女は学校内のどこかの教室、その床に意識を失った状態で倒れていたということである。
(……さっきまで外にいたはずなのに)
思考を
「理科室?」
グループごとに座るための大きな机、机と一体型になった水道とガス栓、教室の端にきれいに整頓されている様々な実験道具、不気味な人体模型。彼女の記憶に間違いがなければそこは間違いなく学校の理科室だった。なぜ外にいたはずの自分が理科室に倒れていたのか、誰かが運んできたのか、だとしたらいったい誰なのか……考えている時、ここであることを思いだす。
(っ! ……そうだ、空!)
自分が気を失ったであろう瞬間、目の前にいた親友のことを思い出す。
「空! いるか? いたら返事をしてくれ!!」
叫ぶが返事はかえって来ない。その場で立ち上がって辺りを見渡す。が、やはり空の姿は見えない。
(どこかへ連れて行かれた? それともどこか近くの教室にいるのか……?)
空の安否を心配し、さまざまな可能性を考える。その時、鈴江は窓の外を見た。そして、ある違和感を感じた。
(真っ暗……)
暗い、窓の外が真っ暗だったのである。しかし、それは何ら不思議ではない。夜とは暗くてしかるべきものなのだから。だがしかし、違和感を感じたのはそこではなかった。
この学校は、東西に伸びる細長い形状の2つの校舎が北館と南館として並行して建っており、その中間辺りと西側にそれぞれの館の2階を結ぶ渡り廊下が存在する。
今いる理科室は北館の最東部。そこの窓から見ることができるのは北館と南館の間にある中庭と、学校の敷地外の住宅街であるはずなのだ。なのだが、
(灯りが全くない……!?)
家の灯りはおろか、街灯の光すらも見えない。目が慣れたことと、月灯りにより中庭は視認することができる。だというのに、学校の敷地外はまるで
(深夜まで気絶していた?いや、だとしても不自然だ)
窓から離れ、教室の出口へ向かう。直感的に何かがおかしい、そう感じた故の行動である。教室を出るために出入り口の扉に手をかけた。
瞬間、背後で不気味な物音。
「――!?」
……慌てて振り返るも何もいない。目を凝らしてよく見ると理科室内から理科準備室へと通じる扉が半開きになっていた。
(さっきのはあれの音か……)
ほっと胸を
(暗い……)
暗い、暗すぎる。本来なら窓からグラウンド越しに住宅街の灯りが見えるはずの位置である。だが先ほど同様、廊下に出ても窓から入ってくるのは月灯りのみ。他にわずかながらある光源は非常用階段の場所を知らせるパネルと消火栓の場所を示すランプのみ。教室内よりはいくらかマシというレベル。
(たしかこの辺に……)
鈴江は理科室の出口付近にあったと記憶している廊下の電灯のスイッチを探す。
「あった!」
暗闇の中で感触を感じ、スイッチを押す。廊下にスイッチを切り替える音が不気味に響く。だが、反応はない。何も変わらない。依然辺りを闇がつつむ。
(……つかない……なんで! くそっ!)
変化がないことに対する動揺よりも、憤りの方が激しい。この辺りから徐々に予感が確信に変わりつつあった。
(……とにかくまずは一旦この建物から出よう)
学校には正面玄関の他に複数の出入り口がある。ここから一番近いのは、北館の中央一階にあるグラウンドへ抜けるための通路である。
「やっぱり鍵がかかってるか……」
一階に降りて目当ての出口に来てみるものの、侵入者防止の目的ために無駄に強固で重く作られた扉は、それまた侵入者を拒むためにガッチリと鍵がかかっている。
しかも、よりにもよって中から開ける場合でも鍵が必要となるタイプの扉。
(……窓から外に出るか?)
扉がダメなら窓から外へ出ようと試みる。が、
「……いや……無理だな」
決して彼女が窓を開けられないほど非力なわけではない。問題は窓の形状にあった。
今、彼女のいる廊下はグラウンドから目と鼻の先の位置にある。そのため、球技系の
(南館の一階ならフェンスはないけど、それなら職員室に行って鍵をとってきた方が早いか……)
職員室の鍵は、本来なら校長及び教頭が管理をすることになっている。だが実際は、部活動等の理由により教職員の勤務時間にズレが生じるため、代わりの職員が戸締まりをするか、そもそも鍵がかかっていないことが多い。
(職員室はここの二階だし、空を探すために鍵が必要になるかもしれない)
そう考え、鍵を取りに行くため二階へ上がる階段へ差し掛かった時、ヒタリ……ヒタリ……という音と共に何者かの気配を感じた。
(っ! 何の音だ?)
それは非常に
その音は二階から聞こえてきた。
(……誰かいるのか?)
鈴江はこの音が誰かの足音であると考えた。しかし、仮に足音であるとするならばおかしな点が生じる。ここは学校、仮にここで足音が立つのであれば、その音の主は何かしらの靴などの履き物を履いている可能性が高い。が、しかし、今聞こえてきたのはまるで
「…………」
恐る恐る二階を覗きこむ。
……誰もいない。自分の気のせいだったのか。極度の緊張によりいよいよ幻聴までも聞こえ始めているのか。鈴江は自分の五感が徐々に信用ならなくなり始めていた。だが、何もなければそれに越したことはない。気を取り直し二階への階段を上りきった。その時だった。
「――!? ……これは!?」
目にした光景に息を飲む! 二階の階段すぐ横に設置されている大型鏡、その鏡に
(そんな、さっき降りてきたときはなんともなかったはず!)
先程まで
(やっぱりここは……!!)
やはりここは何かがおかしい。先程の音は決して勘違いなどではなかった! ここには誰かが、
「くっ!」
慌てて自分の周りを確認する。だが何もいない。先程の音ももう聞こえない。
(早くここから出ないと!)
焦燥感に駆られ、周りの安全を確認し次第急いで職員室へと向かう。幸いにも、職員室は鍵がかかっていなかった。
職員室に入るとまず何もないことを確認。鍵のある場所へと急ぐ。
「……あった!」
目的の鍵の収まっているガラス戸の棚を見つける。ガラス戸を開けようと手をかけようとした、その時。
ヒタリ……ヒタリ……と不気味な音が反響する。それは階段で聞いたあの音。
(さっきよりも大分近い!一体どこにい……る…………?)
鈴江は目を見開いた、目に写ったものはガラス戸、そしてそのガラス戸が写すものは、彼女の手とは異なる
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