第2話 統一の始まり

 北西にある小さな国〈ロフェウス〉、そこの城で国王であるアドレフ=ヘイトラルは笑みを浮かべ大勢の兵士の前に立ち高らかと言う。


「我が国ロフェウスは! 今ここにより全国家に宣戦布告をする!! この世界を統一し! 我が物とするのだ!!」


 うおおおおお!! と響き渡る歓声。兵士たちの戦意は高い。宣戦布告を書き記した紙は鷲や鷹によって各国に送られていく。演説は終わり、ぞろぞろと帰っていく中、魔法隊隊長の〈ヴィクトリア〉は自分も帰ろうとしたとき、アドレフに呼び止められる。


「如何なされましたか国王陛下」


 したたかな、気品のある様子の彼女は跪いた。


「ついて来たまえ、君に頼みたいことがある」


 そう言われアドレフの後ろを付いていくと王室に招かれる。一体何なのだろう、まさか夜伽の頼みだろうか。そんなことを考えていると兵士が手足を縛った男性を連れてくるとヴィクトリアの前に投げる。


「いってぇ! 何すんだ!」


 男性はジタバタと暴れて抗議する。歳は自分と同じくらいだろう、髪は黒く肌も黄色い不思議な人物だ。そう言えば最東端にある〈ヤマタイト〉という島国の人間に似ている。


「国王陛下、この方は? まさか拐ってきたのですか?」


 拐われてきた男性の世話をしろと言うのだろうか、正直断りたいが。アドレフは依然としてヴィクトリアを見て言った。


「いや、拐ってきたわけではない。強いて言うなら新兵器の〈副産物〉とだけ言っておこうかな。お前にはこいつに兵士として育ててもらいたい」


「こ、国王陛下・・・・・・お言葉ですが私に教育など少々荷が・・・・・・」


「魔法隊隊長であるお前には容易いことだと思ったが、そうか、ではこの男は魔法生物の実験にでも――」


「わ、私が育てます! 兵士として!」


 それを聞いたらそう言わざるをえない、ヴィクトリアは男を引き取り、足枷を外して歩かせる。アドレフはニヤリと笑ったまま王室を出るヴィクトリアの背中を見送った。

 ヴィクトリアの部屋に着くと男を椅子に座らせた。正面に向かい合うように座るとヴィクトリアは質問を開始する。


「あなたどこから来たの?」


「日本だよ! 何なんだお前ら、外国かここは?」


 日本、聞いたことのない国だ、それにあまり見ない人種。少し興味が湧いてきた。ヴィクトリアは手枷も外し自由にする。痛そうに擦る彼に名前を訊く。


「俺? 俺は白谷 幸」


 シロタニ コウ・・・・・・聞きなれない名前だ、服装といい文化も何もかも違う国なのだろう。


「私はヴィクトリア=フリーパよろしく」


 とにかく、剣の扱い方も知らないであろう彼に剣術を教えるため広場へ行く。


「さあこれを握れ」


「ええッ! これを!?」


 重い剣を握らせると案山子に向かって振らせる。持ち方、振り方を教え日が暮れ始める頃、アドレフが特訓をしている二人に近づいてくる。


「こ、国王陛下!」


「いや、そのままでいい。どうやら剣の振り方は覚えたようだな突然だがお前には新兵器を使って戦ってもらう」


「戦うって・・・・・・戦争か!? 俺に!? 勘弁してくれ!」


「貴様! 国王陛下に向かってなんだその口の利き方は!」


  ヴィクトリアがたしなめるがアドレフは笑顔のまま兵士二人に大きな鎧を運ばせて、見せる。


「これは・・・・・・?」


 かっこいい鎧だ、幸は触ってその鎧が作り物ではないことを確認する。冷たく、重い。


「しかし、このように巨大な鎧は・・・・・・」


 ヴィクトリアが心配そうに言う。巨大な鎧は防御力があるがその分重量があり、よっぽど屈強な男でもないと動くことすらままならないだろう。


「言っただろう新兵器だと、これはただの鎧ではない。実地で使い、確かめて見るんだな」


アドレフは兵士を連れて鎧を運び去っていく。


「なぁ! 戦うってなんだ! まさか戦争してるのか!?」


「・・・・・・ええそうよ、この国、ロフェウスは全国に宣戦布告をしたの」


「全国!? 何してんだ!?」


「知らないわよ! 国王陛下は何か策があるんでしょう、あの新兵器もそうよ、ある日突然ああいうのが作られていったの」


 何か不思議な能力があの鎧にはあるのだろう。しかし問題はそこではない、なぜ自分が戦争に巻き込まれなければならないのか。

 逃げ出そうと走り出した足を数歩で止める。どこに? この何も知らない世界でどこへ行こうというのだろうか。


「どこへ行くの、悪いけどこれから輸送任務があるのよ、手伝ってくれる?」


 幸は諦めたように頷く。いまの自分にはどうすることもできない。この人に付いていくしか無いと。

 城の入り口へと行くと、剣を持たされ巨大な馬車を何個か引き連れて複数の兵士たちがぞろぞろと歩き始める。恐らくこの馬車のなかに輸送するものが入っているのだろう。


「なあ、これなに入ってるんだ?」


 ヴィクトリアに聞いてみたするとすんなりと答えてくれる。


「お前も見たでしょう、あの鎧と新兵器だそうよ、これを前線基地まで持っていくの」


 ちらりと馬車を見る。このなかにそんなものが入っていると思うとどこか不思議な感覚だ。それにこの護衛の数ということはもちろん襲われることもあるのだろう。幸は剣の柄をギュッと握る。僅かの時間だが振り方は教えてくれた、だがそのときは殺し合いをしなければならないと思うと心が壊れそうだ。


 ガラガラと大きな音を立て馬車は暗くなった森を突き進んでいった――










 


 翌朝、ハイルピタ学園ではアケイレスから兵士が数人訪れ、欠けた兵士の補佐をしてほしいと生徒たちに頼んできたのだ。

 生徒たちは名誉勲章のためとあれば喜んで志願した。そして兵士に付いていくのを聡はなんとも言えない表情で見ていた。どうしてそんなものに命を賭けられるのだろうといった表情だ。そんな風に見ているとルティアが話しかけてきた。


「あなたは行かないの?」


「当たり前だ、死にたくないからな」


「変なの」


 そう呟きルティアは付いていこうとする。それを見た聡は慌てて追いかける。


「ど、どこ行くんだ、まさか補佐に?」


「ええそうよ、敵の将軍でも倒せば名誉でも貰えるんじゃないかしらね」


「危なくないか? 死ぬかもしれないんだぞ?」


 そこまで言った時、ルティアは立ち止まり振り返る。その表情は怒りの表情だ。


「あのねぇ! あなたの国とは違うだろうけど私達には名誉勲章っていうのは何よりも大切なものなの! それこそ命よりも!」


 その剣幕に押され何も言えなくなる聡。「ごめん」と謝り黙って付いていく。生徒たちは兵士に付いていき、持ち場へ向かう。その時、兵士があっと小さく声を漏らすと身を縮めて隠れるようにした。

 

「あれを見ろ、幸運だぞ」


 指差す先にはロフェウスの兵士が大きな馬車を連れて歩いているではないか。そしてその兵士のなかに、聡は気になるものを見つける。

 服装が他とは違う、男性がいるのだ。そう、まさに現代の服装と言うべきものだ。


「あれ、あなたと似たような服を着てるけど・・・・・・」


 ルティアもそれに気が付き言う。聡はまさかと思っていると兵士が生徒を連れて先頭の馬車に飛びかかったではないか。


「くっ! 見つかったか!」


 剣を抜く音が響く。ロフェウスの兵士たちとの乱戦が始まった。それにルティアも参戦する。魔法を唱え兵士を攻撃し始めた。


「ええと、俺も!」


 聡も後方の馬車に飛びかかり剣を振る。当たりはせず、簡単に避けられ、こちらに飛んでくる剣は必死になって避ける。


「うわああ!」


 恐ろしい。当たれば痛いし死ぬだろう。命の危機というものに泣き出しそうになると剣を弾き落とされてしまった。


「フッフッフ、ここまでのようだな」


 兵士が勝利を確信して笑う。


「うわああああ!!」


 聡は馬車に背を付き追い詰められると無我夢中で馬車の中に手を突っ込んだ。何か、何か武器を。その一心で探っていると何を掴んだ。勢い良くそれを取り出すとそれは聡にも見覚えのあるものであった。


「しまった! だが、お前に扱えるわけないだろう、俺達にだって使えないんだからな」


「これは・・・・・・」


 それはよく知るものだった。電動でソーを回転させ木々を切断する。チェーンソーと呼ばれるものだ。それがなぜこんなところにあるのか不明だが――聡はなんとか起動しようと紐を引いてみる。動かない。それを見た兵士は憐れむように笑った。


「残念だったな! 死ねえ!」


 剣を振りかざす。死んだ。聡がそう思ったときだ。


『俺を呼び起こすか少年!』


 どこからか声がしたときだ。独りでにチェーンソーが唸り声を上げ活動すると剣を防ぐように前に飛び出たではないか。


「なにぃ!?」


 火花を散らし剣を切断すると呆然と立ちすくむ両者。


「急げ! 先に行くぞ!」


 ロフェウスの兵士の声で二人が我に返ると兵士は先に逃げていく馬車を追いかけていった。


「くっ、逃したか・・・・・・だが何かしらの物資が送られたのを知れたのは幸運か」


 アケイレスの兵士が逃げる馬車を悔しそうに眺めると怪我をした生徒がいないか確認を済ませ先に急ぐ。そのとき聡が手に持ったチェーンソーを見て驚いた様子で聞いた。


「その武器はどうしたんだ」


「これ・・・・・・あの馬車から取ってきたんだ、でも俺・・・・・・」


「凄いじゃないか! 見たところ君は平民だね? それでも勇気を持って戦い、敵の兵器を奪うとは!」


 切断された剣先を見て褒める兵士。だけどこれは自分がしたことではない、このチェーンソーが独りでに動いて。などと言えず愛想笑いをするとチェーンソーを眺めた。


「大丈夫だった?」


「あ、うん――」


 どこか上の空のような聡を見てルティアは不思議そうに首を傾げた。

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世界を統べるは電動鋸〈チェーンソー〉 兎鬼 @Toki_scarlet

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