第五節; Never complete.

「やも、叶うなら海辺へ行きたいのじゃ」

白く細い人差し指が、遠くでキラキラ光る水面へ伸びる。

「うん、行くよ!」

「うわわ……うわあ!まるで風なのじゃ!」

滑空して砂浜に降りた。

人はいない。

ザザア……。

ザザア……。

波打ち際で海水がのんびりと往復を繰り返す。

気づくと、背から離れた結魚ユナが左足を引きずっていた。

「ごめん、挫いちゃった?」

「古傷ゆえ心配無用なのじゃ」

小柄な少女は左の革靴を砂上でズズッと動かす。

「大丈夫?」

「事故なのじゃ。平気なのじゃ」

聞き分けの良い子が強がってるみたいだ。

「ありがとう。世界の為なら人前でも飛ぶよ!でも、初めの一回は結魚とじゃなきゃ永遠にダメだったと思う。好きだったはずなのにね」

結魚はブンブンと首を振る。

両手を胸に重ねて、すがるように見上げた。

「こちらこそありがとうなのじゃ。呪うだけだったわしにとって、好きでいるやもの姿は希望なのじゃ」

「の、呪うって何!?」

「事情はそれぞれなのじゃ。たまたまわしのは他心律タシンリツだったというだけの話なのじゃ。やも……」

「うん?」

「その……来てくれるかの?本当に、わしと一緒にやってくれるかの?」

「勿論!今ならいくらでも飛べる気がするよ!」

「ありがとうなのじゃ……。これで、やっと……始まる……ううっ……」

ボロボロと泣き出した。

「だっ大丈夫!?君、どれだけ思い詰めていたのさ!?」

「うううっ、うううっ」

止まらずに溢れてるみたい。

この感じ。

初めて会った時の印象と同じだ。

脆くて今にも泣き出しそうで。

「君ね、まるでサイの河原で石積みしているみたいだったよ」

「ゆゆゆゆ……?」

「器用に泣くね」

賽の河原で子供達は石を積み、完成すると願いが成就するという。

けれど必ず途中で鬼に崩されてしまう。

そうと知っても、子供達は願いを込めて石を積む。

完成しないはずの石積みを永遠に。

ねえ。

結魚にはそんな気配があったよ。

君は本当にこの時代の人?

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