第四節; Fly me to kindness.

夕暮れの交差点で、黒髪ツインテさんは更に指示した。

「背を向けてしゃがむのじゃ」

「え?君って唐突……」

「いいから、するのじゃ!」

駄々っ子みたいだ。

言われた通りの姿勢を取ると、ポスッと割りと乱暴に結魚ユナが背へおぶさってきた。

ゾッとした。

軽い。

こんな軽くて平気なの?

「一緒に行くのじゃ」

「これ、意味あるの?」

「世界を変える第一歩なのじゃ!」

「そうなの……?」

ここで超常を使うのか……。

周りは、コウベを垂れた稲穂が並ぶ。

向こうの山からアカく染まる空は、相変わらずやたらと広い。

信号が青に変わるタビ、人も自転車も車も動き出して、結魚と僕だけ時を止めたように留まっていた。

世界の為だ。

能力を使って救うんだ。

でも、こだまする。

あの日、超常を見たクラスメイト達の非難する声。

『やべえよ、こいつ!』

『来ないでよ!……来ないでよ!?』

冷たい視線が浮かび上がる。

やらなきゃと思うのに一ミクロンも体が動かない。

ああ、ダメだ……。

「結魚、ごめん。やっぱりここでは……」

「やも……!やも……!」

結魚が左後ろから顔を突き出した。

見ると張り裂けそうな顔だった。

「今やらねば百千繰り返せど世界は変わらんのじゃ!凍えたままなのじゃ!わしも神律シンリツで辛かったから、苦しみを除きたいのじゃ。やもに、受律者ジュリツシャとしてのやもを好きになってもらいたいのじゃ」

「嫌われ者だよ……!」

「何の為にわしがおるのじゃ!?超常を喜ぶ者がここにおることを、知ってほしいのじゃ!」

細い腕に弱く強く抱き締められた。

そうか……居てくれるんだ……。

「結魚、しっかり掴まって」

「やも……」

全ての音が遠ざかる。

静かに強く念じた。

「飛べ」

バヒュウウウン!

すごい加速で上空へ向かう。

ジャンプというレベルじゃない。

一瞬で信号機が遥か足元に小さくなった。

「移動の神律、〝神足律シンソクリツ〟じゃ……!」

「結魚……、やった!飛べたよ!」

「見事なのじゃ」

泣き声だった。

山向こうの海へ太陽が沈むのを、雲に届きそうな高さから結魚と眺めていた。

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