田舎の風と海の匂い

次の日、いつものように部活にいくと、すでに健斗がコンクールの絵を描いていた。

「あれ?大丈夫なの。体調は」

話しかけてみるなり健斗は私を見て筆を止めた。

「ああ、全然大丈夫。それより今日お前、遅くないか?いつもより」

「私はいつも通りだよ。健斗が早いんだよーだ。ところで、何描いてるのかやっぱり教えてくれないのー?」

私はキャンパスを除き込もうとしたが、見るまえにとられてしまったため、見られなかった。

「よし、希望。これから見に行きたいところがある。勿論この絵のためだからついてこい。」

はあ!?と、驚く私の顔を無視してスケッチブックや筆をなかに入れた。どこにいくのと聞いても聞こえるのはセミの鳴き声と五月蝿いクーラーの音だけ。そして最後に冷蔵庫から飲み物を2本しまった。

「なーにぼーっとしてんだよ。おいてくぞ」

「まってまって。はやいよはやいって」

私は麦わら帽子を被って外へ出ていく健斗を追いかけた。

黒板にちょっと出掛けてきます。と書いて。



電車に乗り、ほどよいテンポで走り出す。方面からしてすごく田舎の方だ。まるで健斗がどこにいこうとしてるのか、私にはわからない。

「ねえ、どこまでいくの?」

「如月」「如月!?」

如月駅と言えばド田舎だ。コンビニも駅付近しかない。お店も何もなく、観光客が少ない。そんな場所に健斗が何のようで行くと言うのだ。しかもコンクールの絵に関係するところが特に。

一人黙って考えてる間にいつのまにやら時間は過ぎてしまっていたようだ。気付けば健斗の肩にもたれ掛かっていた。どうやら寝ていたようだ。

「やっと起きた。ほらいくぞ。」

顔をお越し立ち上がった。ドアが空くととたんに暑い風が入ってきて、立ちくらみを起こす位だった。たが、いざ電車から降りてみると空気はとても美味しく心が洗われるような気持ちよい風がなびかせていた。

「これから10分くらい歩くぞ。熱中症になんなよ」

「わかってるよー」

改札口を出て真っ直ぐ道を歩く。こんな海に囲まれているのだと言うのに、海に行こうとしている観光客は全然いなくて、道路のど真ん中を二人で歩いていた。

「健斗ー。コンビニ寄らなくても良いの?飲み物とか食べ物とか…」

「大丈夫。ちゃんと持ってるぞ。お前の好きな冷たいゼリーもな。」

「本当!?って言うことは、肉まん持ってるの…?」

「なっ…いくら俺の好きな食べ物だからといって夏に肉まんはないだろ!」

だよね~。と笑い、素早く歩く健斗の隣を歩く。

やっぱりここは田舎なのか。亦部中学校の部室よりも多くの蝉の鳴き声が聞こえた。

やがて、私より背丈の高か草木の間を通り、農家さんの畑を通り、やがて健斗の足が止まった。

そこは見下ろす限り海が広く見渡せる橋だった。

「ついたぞ」

「海、凄い綺麗だね。健斗よくこんなところ知ってたね~」

まあな、と言うと同時に私と同じように橋に腕をのせて海を見下ろした。しばらく健斗は動かなかった。



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