自分が選んだもの

翌朝、私は12:00まで部活に顔をだし、コンクールの絵となる物を仕上げた。

今回は色の作り方を中心にやっているため、少しでも色が薄かったり濃かったりすると、絵が台無しになるかもしれなかった。危機感を保ったまま絵を描くのはさすがに疲れる。私は、12:00になった時計と、12:00に鳴ったチャイムの音をぼんやりと聞きながら、腕を上にあげ伸びをした。

「やっと今日だな。祭り」

後ろからやって来た健斗は今日もエプロンが絵の具まみれだ。私も人のことは言えないのだが、色の違いの差が激しい。私のエプロンは明るい色で、健斗のは暗い色。暗い色といっても、所々赤やピンクも見えるので、何を書いているのか全くわからなかった。

「そうだね。絵は順調なの?」

「ああもちろん。見ての通り、こんな色だからな」

たしかにね と笑うと健斗は窓の外を見た。なにかが気になるのだろうか。私が聞くと、なんでもないと答えたので、私はその場を後にし、家に帰った。



「ただいまー」

玄関のドアを開けると、姉が勢いよく走ってきた。

「希望。着替えるよ。」

「はい?」

姉は私の靴をぐちゃぐちゃに脱がし、腕を引っ張って二階へ上がった。そして、向かいの姉の部屋に入っていった。

「お姉ちゃんってば、何に着替えるの?」

訳もわからず私は適当な床に自分の荷物を置くと、ベッドに座った。

「え、あんた今日 夏祭りにいくんじゃないの?夏祭りといったら浴衣でしょ?」

「浴衣……って、私、小学校以来来てないよ?」

いいからいいから、と姉は何種類かの浴衣を持ってきてどれがいいかを聞いてきた。

候補は三つ。

一つ目は、全体的に明るくて、アクセントやグラデーションが使われているものだった。基本的にオレンジや黄色、赤色が目立っている。

二つ目はなかなか暗い感じのものだ。私がかつて書いた小説「陰口交換日記」に出てくるお寺にいた美女が着ているような服のイメージにそっくりだった。黒い無地に、赤や灰色の花柄が描かれている。

三つ目は、いたってシンプルで、ベージュの無地に、水色やピンク、オレンジなどの様々な模様が描かれている、鮮やかなものだった。

「早く選びなさいよ?自分が直感でいいなと思ったものでいいんだって。いつも考えすぎなんだから」

私はどれでもよかった。でも今回は選んでみる価値があるような、そんなよい選択肢の場所にいるように感じられた。だから私は手に取った。

「これにするね」

姉は微笑んで、じゃあ着替えよっか、と言った。

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