いつのまにか

皆が帰ったその日の夜、その日の勉強を終わらせリビングでニュースを見ていた。

「__続いてのニュースです。昨日、新たに出版された、矢田弥生さんの新作、『恋愛RPG』が、発売してまもなく社会に異変が起きていることがわかりました。この物語では__」


「へぇ、弥生さんまた本だしたんだね」

私はテレビの音量を大きくして耳を済ませた。弥生さんが主に書いている恋愛のジャンルは私には苦手で書いていない。いいや、むしろ書くことができないのだ。


そんな理由なんて考える間もいらず思い付く。私は一度行ったことがあるのだ。原稿用紙を出して、物語の構成を大まかに考えた。ちゃんとできているつもりだった。だがしかし、いざ主人公や相手の気持ちを変えていくか、いかに情景描写が表現できるか分からなかったのだ。いつのまにか、どれも箇条書きのようになっていた。恋愛という感情が分からないから、このように書こうとしてもあやふやな文になってしまう。そう気づいた。まあ、いずれにせよ書くことなどないのだから、気にすることではない。


「主人公__愛が最後にRPGの中で共に過ごした宏と再会。いままで溜めていた思いを歌にして相手へ告白。そのシーンが読者による一番の見所であり、このシーンに感動した読者達を中心に相手へ告白することを決意したきっかけどもになったのです。これを__」


「あぁ、これ告白ブームでしょ?」

最後の台詞を遮るようにお母さんが平然とした顔で答えた。母が持っているお皿の上には、美味しそうなご飯が並んでいた。

「お母さん。知ってるの?」

「知ってるもなにも、有名じゃない。あんた、長期休業してから、小説業界に関する情報に鈍くなってるんじゃない?いくら受験生だからといってそのくらい見とかなくちゃ、また復活したときに流行に乗れないよ?」

やっぱりそうだよね。と食卓の椅子に座った。

階段の方からドタドタ姉の足音が聞こえる。今日も徹夜で何かをするようなので、早く食べるために一生懸命だ。……どうせ溜めていた課題だろう。ご飯が揃い皆で挨拶をしてから、一口麦茶を飲んだ。飲んだあとのコップに写っていた私の顔は何故だか暗かった。

「希望、小説書くことが恋しくなったんじゃない?あたしも大変だよ~。皆いってる。瀬戸優月長期休業ってことでクラスの皆が騒いでんの。校長先生までファンだったらしくて、朝会で話題にしてたんだから。あんたどんだけ人気なのよ。」

「私の方が学校で大変な気がするんですけど~」

それから、今後の私の活動と、お姉ちゃんの学校の話を聞かされ、味噌汁の最後の一口を飲んだあと、挨拶をしてからまた部屋へ戻った。


部屋に入って目の前に自分が今までに書いた本や、インタビューされた雑誌の本が並んでいる。私はその中から、休業する前 最後に出した六作品目の「恨みの手紙~最終章~」を手に取り、しばらくそれを見つめていた。


少し時間がたち、気が戻ると慌てて本をしまい、

「絵の下書き仕上げなきゃ」と、勉強机へ走った。


恋愛小説をすらすら思い通りに書く、弥生さんが少しばかり羨ましかった。

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