七 赤い記憶
満天の星空。その星に負けないくらい幻想的に揺らめく、舞台に飾られた、地上の星々。それを取り巻く人々は、
「――今年、最も美しい星を創り出した者は――フラン!」
一瞬にして、爆発的な歓声が上がった。
「やったね、お兄ちゃん! 千歳さんも!」
ヘルダが跳び上がって喜んでいる。
「フランと、この星の主は、舞台にあがられよ。創り出した者に、栄誉を与えよう。そして、星の主には、汝の願うものを」
「行きましょう、千歳」
満面に笑みを浮かべたフランが、私の手を引っ張った。「あなたの願いを、叶えてもらえるんですよ。どんなことであってもね」
ヘルダに背中を押されるように舞台に上がったフランと私を、もう一度巻き起こった歓声が祝福した。人々を手で制して、長老が言う。
「客人よ、千歳どのと言われたな。何なりと、願いを仰せられよ。我らマーロの者、全力を持ってその願いを叶えよう」
そして、じっと私を見つめた。いざこのときが訪れるまで何も考えていなかった私は、たじろいでしまった。
「あ……わ、私の願いは……」
皆が、息をひそめて、私の口から出る言葉を待っていた。私の願いを聞くために。私の願いを、叶えるために。
――嘘だ。
最初から、それしかなかったはずだ。そのために、私はここへ来たんだもの。この、魔法村へ。この、世界へ。
私の願いは――
「……私の、逢いたい人は――」
「――この世界は偽りだらけだ。偽りは長くは続かない」
ささやくような、しかしはっきりと聞こえる声が、広場の静寂を貫いて響き渡った。その場にいた全員が、思わず声のしたほうを振り向く。
夜の闇に紛れるように人々の後ろに立っていたのは、全身黒ずくめの、仮面の男。仮面の奥に、夜よりも昏い瞳を持つ男。
「だが、いつまでも続くと言うなら、俺が、この手で壊す。この世界を」
「〈闇の目〉……」
その瞳は、まっすぐに私を捕らえている。その眼差しに、吸い込まれそうになる。
「しっかりしてください、千歳」
視線を遮るように、フランが私の前に立った。はっと、私も我に返る。
「……千歳は僕が守る。千歳はずっとここにいればいいんだ、何も思い出さなくていいんだ」
フランの言葉に、〈闇の目〉は口元に冷笑を浮かべる。
「『何も思い出さなくていい』。それが、お前の安全装置というわけだ」
「訳のわからないことを……!」
フランがくってかかったが、その後ろで、私はずきりと胸が痛むのを感じた。
知っていた。私は確かに、〈闇の目〉の言葉の意味を、知っていた。心のどこかで。
けれど、それは――
「――ならば、その安全装置を壊せばいい」
「!!」
フランが、炎の魔法を撃つよりも、早く。
〈闇の目〉の手から閃光が放たれた。
それは、私ではなく――まっすぐに、フランを狙っていた。
「お兄ちゃん!」
ヘルダが悲鳴をあげる。
閃光が襲いかかった。フランの身体はまるで紙のようにふっとばされ、舞台の上に叩きつけられ、転がっていった。真っ赤な血を周りに撒き散らしながら。
「フラ……!」
――違う。
違うわ。
あのとき私の目の前を、夜を真っ赤に染めながら横切っていったのは、あれは、あれは……
「……か、
その、瞬間。
舞台の上の、硝子の星が、はじけた。
閉じ込められていた赤い記憶が、血を流す。
全てが、甦る――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます