第16話 不死鳥の卵
年は明け、月日は経ち、アヤさんも妊娠7カ月に入り、お腹も大きくなってきた。そんな中、俺はここ数日あることに頭を悩ませていた。
「そこでお前の出番だ。
「
「暇なときにネタになりそうな言葉を探してるからな。しかしよく『寿限無』に対応できたな。元々知ってたのか?」
「いえ、予習して暗記しました。私も仕事のときに、ネタにされそうな言葉を探してますから。どんな名前ボケにも対応できますよ」
「いや、仕事しろよ」
いつものごとく昼食に勘解由小路を呼び出し、ランチを報酬に相談をお願いした。ただひとつ違うところを挙げるなら俺が食べてるのが愛妻弁当ではなく、社食の日替わり定食になっていることぐらい。身重のアヤさんの手を煩わせまいと切り替えたが、もうすっかり板についた。
「それで、今回はどんな相談ですか?」
「実は、この前生まれてくる子どもが女の子だと分かってな。そろそろ名前を考えようと思ったんだけど、これがなかなか難しくて」
「女の子ですかー、ちなみに出産のご予定はいつですか?」
「8月ごろらしい。もし生まれそうなときは、仕事抜けるからよろしくな」
「私も仕事抜けたいので、出産立ち会っていいですか?」
「いいわけないだろ!? 立ち会って何するんだよ!?」
「カメラを回して出産を実況します。『先輩が奥さんの手を握る。先輩はすでに感極まって涙を流している。奥さんと息を合わせてラマーズ法だ、ヒッヒッフー。そして奥さんが……いきんだ!! 生まれたー!! ホームラン!!』」
「なんだホームランって!! 来んな!!」
でも映像を残しておきたいから、カメラが欲しいな。成長記録を撮ろう。初めて立ったときとか、歩いたときとか幼稚園に入学したときとか。やばい、想像しただけで涙が……。どうも俺には親バカの才能があるらしい。
「でも名前ですか…意味、響き、姓名判断、いろいろ考えなきゃですよね」
「そういえば勘解由小路って下の名前なんだっけ?」
「小さな
「小百合子!?
「 私だって気にしてるんですよ!! 小百合子なんてちょっと古臭いですし、長いですし? だって苗字と名前合わせたら9文字ですよ!? テストとかだったら名前書く時間で他の人よりハンデありますよ」
笑ったらいけないんだろうけど、それはちょっと面白い。鉄板の自虐ネタに使えると思う。
「でもなんで小百合子?」
「親が好きな女優にちなんで付けたらしいです。小百合さんのように美しく純潔な子に育って欲しいって。でもおかげで名が体を表してるでしょ?」
名が体を表してるかどうかはともかく、なるほどそういうパターンもあるのか。最近では好きな芸能人のみならずアニメキャラからつけた、なんて話も聞く。でもアニメキャラだとキラキラネームっぽくなるからなぁ。
「先輩の下の名前の『
「なんだっけ、仲間を思いやれる優しい人になるようにだったかな」
「だったら親の名前からちなむパターンも使えますね。先輩の場合ならトモ
「なんで例えが欧米風なんだよ。せめて朋子とかだろ」
「まぁまだ時間もありますし、奥さんとじっくり話し合ってください」
結局、なんの結論も得られないまま昼食が終わってしまった。仕事が終わってからも、俺は名前について頭を巡らせていた。名前は一生付き合っていくものだからな。慎重に考えないと。子どもの名付け本とか買ったほうがいいんだろうか。
そんなことを考えると、あっという間に家に着いた。アヤさんともう一度話してみるか、と無理やり結論づけながら鍵を回したがドアが開かなかった。
「えっ?」
もう一度鍵を回すとようやく開いた。
「ただいまー。アヤさーん?」
返事はない。家の中の電気はついてる。不思議に思いつつも家に上がって、部屋を見回るがアヤさんの姿はない。
「出掛けてんのかな」
声に出して自分を落ち着けようとするが、嫌な予感しかしない。鍵は開いていた。電気もついていた。でもアヤさんはいない。出掛けてたとしても、アヤさんがそんなドジをするはずがない。試しに電話を掛けてみたが、繋がらなかった。
妙な胸騒ぎが止まらず、心臓から送り出された血液が頭の回転をより一層早くする。
突然いなくなったアヤさん、子ども、不死身、不死鳥、人体実験。
そして最悪の答えを導き出した。
「……研究所だ」
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