第15話 不死鳥が生まれた日
大学卒業して、俺が就職した会社は、絵に書いたようなブラック企業でサービス残業、休日出勤当たり前。泊まり込みなんてざらだった。
「しかも上司が典型的なパワハラ上司で、罵詈雑言暴力なんでもありだったんだ」
「……ちょっとソイツ殺してくる」
「そんな『ちょっとコンビニ行ってくる』ぐらいの感覚で殺しに行かなくていいから。気持ちは嬉しいから。ありがとう。でも俺はそんな状況の中、死にもの狂いで働いてたんだ」
「転職しようとは思わなかったの?」
「生きる意味を失ってると、まるで光を失ったように視界が狭くなって、未来が見えなくなって目の前のことしか見えなくなる。しかも光を灯す気力すらなくなる」
やるせない気持ちになったのか、アヤさんが俺の手を包み込むように力強く握りしめてくれた。俺はそれに応えるように握り返して、話の続きを始めた。
社会人3年目の5月のある日。いつものように泊まり込みでした仕事にキリをつけ、シャワーと着替えのために帰ろうとエレベーターに乗った。
エレベーターが止まり、ドアが開くとそこは出口がある1階ではなく、最上階だった。疲労と眠気でよく覚えてないけど、押すボタンを間違えたんだと思う。もう目の前すら見えなくなっていたんだな。
俺はなぜかエレベーターのドアを閉めずに降りた。ドアの窓から漏れる陽射しに吸い込まれるように力なく歩き、そのドアを開けた。
そこは屋上で、ポツンと吸殻入れが立ってる以外は何もなかった。
「俺は『せっかく屋上に来たし、飛び降りて死のう』と思った。そして遺書に会社とか上司の恨みやら母さんたちへの謝罪やらを書いて、死ぬ前にタバコを吸うことにしたんだ」
「タバコ吸ってたの?」
「昔は吸ってたけど、あれっきり吸ってないな。タバコを吸い終わって、柵を越えたんだけどそのときの景色は今でも覚えてる。いまだに夢に出てくる。ちょうど目の前に朝日が登っててさ、それに向かって鳥たちが飛んでいくんだよ。……そして俺も飛んだ」
多分、無意識に光を求めていたのかもしれない。俺は鳥たちに付いていくように、太陽に向かって飛んだ。でも俺は鳥のようには
走馬灯なんか見る余裕なんてなかった。物凄い速さで近付いてくる地面しか見えなかった。死の恐怖に耐えきれず目をつむった。
「でも……死ななかったのね」
「うん」
俺の身体は地面に叩きつけられ血は噴き出していたが、傷はみるみるうちに治った。あらぬ方向に曲がっていた手足も元通りになった。
「通行人が通報して、そのまますぐに救急車で運ばれた。まぁ治すところなんかないけど、とりあえず検査入院したんだ。それで病院で一泊して、起きたらいつのまにか研究所に拉致られてた」
「どこからか嗅ぎつけたんでしょうね。もともとあの研究所は人体実験を行なってたらしいから」
それから俺は、検体名
でも「死」という生きる上で最大の敵がいなくなった俺には答え出すことができなかった。
『だったらワタシがアナタに生きる意味を与えてあげる』
「そんな俺をアヤさんが助けてくれて今に至るってわけ。まぁつまり、もし俺たちの子どもが生まれたときから不死身だったら俺より大変な思いをするだろうなって」
「なんだ、そんなこと悩んでたの?」
「えっ?」
あっけらかんとした反応に、思わず拍子抜けしてしまった。
「トモをワタシが助けたように、子どもをワタシたちが助ければいいじゃない」
「でも……」
「何かあったときはコレで黙らせるだけよ。だから安心して生まれてきなさいね」
そう言って、アヤさんはどこから取り出したのか分からない銃をテーブルに置き、愛おしそうに自分のお腹を撫でていた。
そうだった。我が家にはアヤさんが、最強の
「なるべく穏便に済ませるようにパパ頑張るからな」
そう我が子に決意表明を伝えるように、俺も一緒にアヤさんのお腹を撫でた。
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