第13話 箱の中身は何じゃろな(クリスマスVer.)
紫苑寺は肩を震わせたかと思えば、膝を叩きながら大笑いした。
「なんて顔をしてんだよ、トモ。冗談だよ、冗談。この前驚かされた仕返しにな、ちょっとからかってみただけだ。ほら、ちゃんと画像は消すから」
驚かされたってのはあれか。温泉旅行で、俺が紫苑寺にナイフで刺されたときのことか。紫苑寺はスマホの画面が俺に見えるようにしながら、偽の浮気写真を消した。
「この世の終わりみたいな顔してたぞ。つーか菖蒲を出し抜いて浮気なんかできるわけないよな。できたとしてもすぐにバレて殺される」
「まあな。死なないけど、アヤさんが本気出せば殺せそう」
「ハハッ、それは言えてる」
「だったら何の用で俺を居酒屋なんかに連れ出したんだよ?」
「菖蒲の昔の話を聞きたがってたのはトモだろ?それに せっかくのクリスマスだってのに、家に一人ってのも寂しいだろうしな。ひとりもの同士楽しく飲もうぜ」
「紫苑寺……」
なにこのイケメン。思わず抱かれてもいいって思っちゃう。
「まぁ、俺は結婚してるけどな」
「それはオレに対する当てつけか、コノヤロー。じゃ、あらためて乾杯」
「乾杯」
そして互いのビールジョッキをぶつけてから数分後、紫苑寺の様子がおかしくなった。つまり酔いつぶれてしまったのだ。
「おい紫苑寺しっかりしろ、ビールジョッキすら空いてねぇぞ」
「うるさい‼ 酒が強いから偉いっていうのか⁉ いいよなトモは、菖蒲に晩酌してもらっているんだろ⁉」
あんなかっこいいセリフを言っておきながら下戸かよ……しかも絡み酒なんて
翌日、12月25日。有休を取っていたので、アヤさんを迎える準備をする。でもクリスマスに出迎えるのは初めてだから、どうすればいいか分からない。とりあえずプレゼントは買った、ケーキも買った、そしてちょっと豪華な夕食もできた。でも何かが足りない気がする。
そうだ。自分がされて嬉しいことをすればいいんだ。だとしたらアレしかない。
「ただいま」
「おかえりアヤさん。ご飯にする? お風呂にする? それとも俺?」
「そうね、まずなんで裸エプロンなのか教えてくれる?」
「自分がされて嬉しいことをしようと……あ゛あ゛‼」
アヤさんがドアを開けたことで、クリスマスの冷たい風とアヤさんの冷たい視線が俺の肌を直に突き刺す。自分にされて嬉しいことが、人にとっても嬉しいとは限らないということが分かった。いや、分かっててやったんだけど。俺が服を着たところで気を取り直して、アヤさんとクリスマスを楽しんだ。
「はい、クリスマスプレゼント。アヤさんだったら絶対に似合うと思って」
「ありがとう、まさかミニスカサンタのコスプレ衣装とかじゃないでしょうね」
「……」
図星だった。もしかしてアヤさんはエスパーで透視能力でもあるっていうのか。
「透視はできないけど、トモの下心はスケスケに見えるわ」
……読心術は使えるかもしれない。もちろん、この後に本命のプレゼントであるアヤメをかたどったネックレスを渡した。すぐにつけたところを見ると、気に入ってくれたみたいだ。
「トモ、私からもクリスマスプレゼント」
そう言って渡されたのは手に乗るくらいの大きさの長方形の箱だった。ラッピングはアヤさんがしたっぽい。腕時計とかか。それにしてはさほど重くもない。
箱を開けると、ペンのようなプラスチックの棒だった。少し平べったく、片面には穴がふたつ空いていて、その横にはそれぞれ『判定』と『終了』の文字。そしてその二個の穴には両方とも縦線が引いてある。
「アヤさん。これって?」
「知らない? 妊娠検査薬よ」
「それってつまり……」
「子どもができたっちゃ」
「ラムちゃんかよ!? いやツッコんでる場合じゃない。えっ!? まじ!? じゃ、俺はパ、パパになるのか?」
「あんまりそわそわしないで」
「いや、これはするって!!」
俺は思わずアヤさんを力強く抱きしめた。アヤさんも応えるように腕を回す。今年のクリスマスにやってきたのはミニスカサンタでもなく、虎柄のビキニを着た宇宙人でもなく、コウノトリだった。
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