第11話 ホワイトクリスマスは身にしみる

 12月24日の定時ごろ、部長から少し早いクリスマスプレゼントをもらった。


「藤見くん」

「どうしたんですか? 部長」

「今日はもう帰っていいよ。藤見くんは新婚なんだし、せっかくのクリスマスイブだ。奥さんとゆっくり過ごしなさい」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、お先に失礼します」

「勘解由小路さんも、早く帰りなさい」

「本当ですか? ありがとうございますー‼ 実は彼氏とデートなんです」


 キリの良いところで仕事をやめ、荷物をまとめて勘解由小路と一緒に出社した。社内でクリスマスイブを過ごさせた、俺が前に働いていたブラック会社とは大違いだ。ホワイトなクリスマス。


 会社の外ではイルミネーションが光り輝き、クリスマスソングが流れている。しかも、雪まで降ってきた。ホワイトクリスマスだな。でも今日に限っては、むしろ残業していたかったんだけどな。それはさておき、先に重要事項について勘解由小路に確認を取ろう。


「なあ、クリスマス行事?」

「……勘解由小路かでのこうじです。もはや『うじ』しか合ってないです。原型をとどめてなさすぎて、反応が一瞬遅れましたよ。なんですか先輩?」


「勘解由小路って彼氏いたっけ?」

「いますよ。なんならもうすぐ結婚します」

「マジか、お前⁉ えっ、おめでとう‼ でもいつの間に⁉ どんな人だ?」

「背が高くて細マッチョで年収1000万以上。家事もできて、性格も良いイケメンでイケボなんですよ」

「そんな理想的な完璧超人がこの世に存在するのか⁉」


 そうか、勘解由小路にもついに結婚か。名字が変わったら、いつものやり取りができなくなってしまうな。それとも寿退社で会うこともなくなるのかな。なんだか俺の後輩がどんどん離れていく気がした。先輩は寂しいぞ。


「まぁ次元が一つ足りないのが玉にきずですがね」

「二次元かよ‼ きずどころか、玉を叩き割るほどの欠点じゃねぇか‼」

「いまやってる乙女恋愛ゲーム、あと少しでプロポーズイベントが来るんですよね」

「知らねーよ」


「先輩の知り合いの完璧超人を紹介してくださいよ」

「いねーよそんな知り合い‼ 某正義超人にキ○肉バスター掛けられろ‼ そしてその高い理想をぶっ壊してもらえ」


 そんなことだろうとは思ったけど、よかった。でも、俺の知り合いに勘解由小路に紹介できるような男がいたっけ。イケメンといえば紫苑寺が思い浮かぶけど、アイツは殺し屋だから、完璧超人というより残虐超人だからな。


「一人でクリスマスイブってのも寂しいだろ。合コンとか行けばいいのに」

「残業するよりかマシでしょ。それに、合コンに行くような軽い男なんかこっちからお断りです」

「軽い男ばかりとは限らんぞ。俺の嫁だって、合コンじゃないけど婚活で俺と出会ったんだぞ」

「それは初耳です。披露宴では『運命の出会いにより……』、としか言ってなかったですし」


 あれを婚活と言っていいかどうかはよくわからないけど。俺たちの場合、運命の赤い糸によって引き合わせれたというよりアヤさんが糸を手繰り寄せて俺が引っ張られたようなものだからな。


「運命の出会いはあるかもしれないけど、待つばかりじゃなくて積極的にいくのもいいんじゃないか? 運命の赤い糸を手繰り寄せるくらいに」

「そうですね。私も運命の赤い網で完璧イケメンたちを手繰り寄せますね」

「お前は漁師か。せめて一本釣りにしろよ」

「ところで先輩、早く家に帰ったほうがいいじゃないですか? 奥さんが待ってるでしょうに」


 そうだよ。後輩の人生相談に乗っている場合じゃなかった。俺がいま直面している問題のことをすっかり忘れていた。俺が残業していたかった理由。

「今、家に嫁がいないんだ」

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