第10話 ダイエットの秘訣は…

 5分後。言われた通り着替えて玄関に向かうと、鬼嫁もとい鬼軍曹が腕を組んで仁王立ちで待ち構えていた。


「遅い、5分前集合が基本でしょ?」

「マム‼ 5分前に帰宅したのですが、マム‼」

「時空捻じ曲げてでも来なさい。あとマムはもういいから」

「スゲー理不尽‼」

「近くの公園に行くわよ。公園を10周走るから」

「マジか……」


 それから公園に移動して準備体操から始めているわけだが、俺の目はアヤさんの胸に釘付けだった。向かい合って一緒に体操しているため見える屈み胸チラ、そしてジャンプで上下する胸に俺の心も弾む。体育の授業を思い出した。


「胸のガン見が最高10秒だから、公園もう10周追加。チラ見は12回だから、家に帰ったら腹筋と腕立て伏せそれぞれ120回ね」

「しまった、ハニートラップか‼」

「まずは公園20周ね。よーいドン……って言ったらスタートから」

「そんな使い古されたボケを。体育の先生かよ」

「はい、二人組を作りなさい。え、余ったの? じゃあ先生とペアになりましょ」

「そういう心にくるヤツやめて‼」

「準備はいい? 今日は最初の10周はジョギング、もう10周はランニングよ」


 スタートの合図と共に俺たちは走り始めた。こうやってただただ走るなんて何年ぶりだろ。学生のころはいくら食べても太らなかったし、一人暮らしをしていたころはお金がなかったり忙しかったりでろくに食べてなかったからな。


「ごめんな、俺のダイエットに付き合ってもらって」

「いいのよ、一緒に走った方が張り合いがあるでしょ」

「アヤさん、ありがとう」

「礼を言うなら胸じゃなくて目を見て言いなさい。もう10周追加されたいの?」

「すみません」


 何とか20周走り切り、地面に大の字で倒れこんだ。不死身とはいえ疲労はある。体力が落ちたのは運動不足か歳のせいか。でも歳のせいなら、俺は不死身だが不老ではないってことになるのか。いや、これ以上考えるのはやめよう。


「やっぱりキッツイ。楽して痩せる方法とかないかな」

「ワタシが子供の頃にやった方法を応用すればできるかもしれないけど……」

「子供の頃? どんな方法?」

「ぬいぐるみでやった方法だけど、おなかを切って綿を取り出すのよ」

「グロすぎるわ‼ 脂肪どころかはらわたまでえぐり出す気か!?」


「でもそのくらいで弱音を吐くなんてたるんでるわね。徹底的に鍛え上げて、そのスリーパックをシックスパックにしてあげる」

「スリーパックってもしかして三段腹のことか ? そこまでたるんでねぇよ」

「せっかくだしバッタの能力を持つくらいまで肉体改造しましょ」

「仮面ライダーかよ。それって肉体改造というより、むしろ改造人間だろ‼」

「じゃあ家に帰ったら腹筋と腕立て120回ね」


 こんな調子でダイエットを続けた甲斐もあり、体重は減っていった。しかし、低カロリーな食事とトレーニングを継続しているにも関わらず、体重がまた増えてきてしまった。このことを後輩に相談してみた。


「――というわけなんだよ。 こめこうじ

勘解由小路かでのこうじです。私を脂肪燃焼や疲労回復に効果がある万能食品みたいに呼ばないでください。ついに苗字じゃなくなりましたし、ボケまでヘルシーになってますよ」

「それでなんでだと思う?」


「なんでって自分のマッスルボディに聞いてください。筋肉が増えて重くなったんですよ。どうやったら短期間で匠もびっくりのビフォーアフターできるんですか?」

「嫁監修の適度な食事と適度な運動」

「先輩の奥さん何者ですか?」


 何はともあれダイエットは成功である。もともとアヤさんの中で俺の肉体改造の野望はあったらしく、今はトレーニングに加え、時々だけど格闘術も教えてもらっている。アヤさんは俺を悪の秘密組織と戦わせるつもりなのだろうか。







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