春③
「ねえ、鳴海君!」
「おい、鳴海!」
あれから一週間も経たないうちに、鳴海君の周りには人集りが出来るようになっていた。
「すごい人気だなあ、あいつ」
次の授業の用意をしてからなんとなくその様子をじっと見ていると、上から声が降ってきた。顔を上げると、佐々木君が苦笑を浮かべながら私と同じ方向を見ている。
「ね。最初はみんな避けてたのに」
鳴海君は始業式の翌日から、私が言ったことをちゃんと守ってくれて、制服をきちんと着て登校してきた。……まあ、少し崩れてはいるけれど、許容範囲内だ。
「あいつ、すごく人なつっこいというか、なんというか……。人間関係作るの、うまいよな。少しうらやましい」
私は思わずじっと佐々木君を見つめてしまう。別に彼は、全く人をほめないというわけではないし、自分に絶対の自信を持つような人でもない。だけど、誰かをうらやむことはあまりしない人なのだということを、三年間同じクラスだった私は知っている。うらやむよりも先に、自分を高めようとする人なのだ。
「珍しいね」
本人もそれは分かっていたようで、小さく笑った。
「まあ、あれは経験なんだろうな、と思う」
「経験?」
訊いてから、ああそうか、と思い出す。そういえば、鳴海君は何度も転校をしているのだ。何回も住む場所が変われば、それだけすぐにその地に順応しなければならないこともあるのだろう。
「ねえ」
トントンと軽く右肩を叩かれる。なんだろうとそちらを向けば、鳴海君がこちらを見ていた。
「なに?」
「この高校って部活に入るの絶対らしいけど、俺って入らなきゃなのかな」
もちろん、と頷こうとして私は止まった。私たちは三年生だ。早いところはもう既に引退している部活もあるらしい。
「うーん、どうなんだろ。帰りに訊いてみようか?」
「あー、いいよ。それなら俺自分で訊きに行くから。悪いし」
ふわりと彼は笑う。無邪気な笑みに、こっちまで笑顔になってしまう。
「ううん、大丈夫。進路のことでちょうど竹林先生に相談したかったし」
「そうなんだ? じゃあ、お願いしようかな」
「ん、わかった」
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