第44話 気がかり

 付き合い始めてからわかった事ですが、琴美はかなり甘えたな所のある人でした。

 やたらとくっつきたがったり、頻繁に連絡を寄こしたり、しょっちゅう会いたがるのです。


 相手をこの状態に持っていくのは人によっては結構時間がかかるのですが、最初からこの状態というのなら、それはそれで好都合です。


 無理の無い範囲で適度に彼女の希望を叶えてやりつつ、僕は琴美との距離を縮めていきました。

 そうする事で色々と相手を御しやすくなるからです。


 しかし、ちょっとした事で随分と喜んだり、ふとした瞬間に寂しそうにする琴美に、僕はだんだんと彼女の事が気になるようになっていきました。

 もちろんそれとは同時進行で紗希さんや元々付き合いのあった溝口さん達等との関係も続けていましたが。


「一真くん聞いて、私ね、昨日彼と別れてきたの! 結婚後の事で色々と揉めて、俺の話が聞けないようなら婚約破棄だ~みたいなこと言い出したから、私いい加減頭にきちゃって、いいよ~って言って別れちゃった」

 三月の初め頃、紗希さんは上機嫌に僕に言いました。


 どうやら、浮気の証拠を見せつけるまでもなく、目的は達成されたようです。

 その後、いつも通りに食事をしてホテルに行って別れた後にその事を長谷川さんに報告すると、一応事実確認するので、それまでは彼女との関係を完全に絶つのは少し待ってくれと言われました。


 僕としてはその方が待っている間に紗希さんとメールなどをやり取りして更にお金が貰えるので一向に構いません。


 一週間後、長谷川さんから貰った連絡によると、彼の方は紗希さんと別れるつもりはなかったらしく、いま少しケンカをしてへそを曲げているけれど、マリッジブルーになっているだけだと母親に説明したようです。


 依頼主であるお母さんから北原さんと僕がホテルから出てくる写真を見せた所、彼は激怒して一時は北原さんを訴えるだなんだと揉めたようですが、最終的には母親の説得により、無事穏便に婚約破棄となりました。


 後日、僕には成功報酬が支払われました。

「それにしても、まさか出会いの打ち合わせをする前に下見でターゲットを見つけてお持ち帰りするとは思わなかったよ」

 僕に分厚い封筒を渡しながら、おどけたように肩をすくめた長谷川さんが言います。


「あれはたまたまですよ」

「一応期限は一ヶ月とは言ったけれど、一ヶ月以内に出会って距離を縮めるには結構苦労する人も多いんだよ」

「それは僕も同じですよ。今回は最初から相手の方も乗り気だったから上手くいっただけです」


 僕は封筒を受け取って明細と中身を確認しながら答えます。

 思った以上に割のいい仕事に、内心僕はかなり驚いていましたが、最悪訴えられたり痴情のもつれに巻き込まれて危害を加えられるかもしれないというリスクを考えれば妥当な金額なのかもしれません。


「それでも大したものさ、探偵は目立たない見た目の人間の方が向いているが、やっぱり別れさせ屋みたいな仕事になると、篠崎くんみたいなタイプの方が色々と成功しやすいんだろうな」

 長谷川さんは随分と今回の僕の働きを評価してくれているようです。


「それはどうも」

「もしまた篠崎くんの力が必要そうな仕事があったら、また頼んでもいいかい?」

「ええ、その時はまたいつでも声をかけてください」

 もし次の仕事があるのなら、僕としても是非話を聞かせてもらいたいところです。


 紗希さんとは別れるなり付き合うなり好きにしたらいいと言われました。

 彼女は結構いい会社に勤めていたので、あわよくばパトロンに仕立て上げるために関係を維持するのも悪くないかもしれません。


 しかし、どうも紗希さんの職場が琴美と同じ会社の同じ部署らしいと最近知ってしまったので、とりあえず紗希さんとは少しずつ連絡頻度を落としてそのままフェードアウトした方が良さそうです。

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