第3話

その日の夕食はWバーガーで済ますことにした。上機嫌で喋るミチルを見て胸騒ぎを感じていた。

「どうしたの?葉月?暗いな~」

「ちょっちね」


やはり、何かが違う……でも、何が違うのか分からない。


「それでさ、12組の男子に告白されてね……それで言ってあげたの……私より成績下なのに、勉強教えてあげるだよ……ねえ、聞いているの?」

「えぇ、ミチルはモテるな」


そう、ミチルがモテる話なんてどうでもいい。この違和感は何?そして、食べ終わり外に出る頃には辺りは暗くなっていた。


♪~♪~♪~

聴こえる、ピアノの音だ、生と死の狭間の様な音色。間違いない魔女が弾いている。しかし、ミチルには聴こえないようだ。


「ミチル!急いで帰ろう」

「何で?夜の闇は始まったばかりなのに?」


ミチルの違和感、魔女のピアノ、点と点が結ばり線になっていく。まだ、間に合う。私はミチルの手を取りアパートへ走った。そう、まだ、間に合うはず。


私は走りながら昔の事を思い出していた。それは闇の一族の末裔としての定めであった。幼き頃には独り立ちし、闇の妖術を覚え。人々の闇を喰らことで、生きていく。

何時からだろう?こんなに心が弱くなったのは。そう、ミチルと出会った時からだ。でも、それはきっかけにすぎない。ミチルと出会ったのは神様のいたずらだろうか?

アパートに着く頃にはミチルが特別な友達であることが確信に変わっていた。


「葉月、何で走って帰らなければならないのよ?」

「あははは、ちょちね」

「何が、ちょちね、だよ」


もちろん、言えなかった。魔女がミチルを探していたなんて。そして、私の存在も気づいている。


「それより、お茶でも飲む?」


部屋に着き少し安心した瞬間だった。


「私ね、魔女の居場所なら知っているの」


それは、ミチルではなく闇の片隅から聞こえた気がするほど暗い声であった。それから、数日は何事にも無かった。アパートの部屋の中、ミチルが隣で寝ている。

魔女は死の使い、安らかな死を望むミチルを見れば……。しかし、何故、ミチルは魔女の居場所が分かったのに会いに行かないのだろう?考えても仕方ないのに、今日は月明かりが無い。こんな夜は少し外に出よう。

―――

何時の公園で私は闇を浴びる。静かだ……心まで静かになる。闇を感じ、闇と一体となる気持ちだ。


うん?誰か来る。


「眠れないの?」

ミチルだ、ミチルが声をかけてくる。

「ミチルこそ、眠れないの?」

「ええ、こんな楽しい気持ちは久しぶり」

「楽しい?」

「私、ゲームをしようと思うの。貴女が私の闇に魅かれて来たように。魔女も私に魅かれて現れるのを待とうと思うの」


ゲームか……自らの命を賭けた死のゲーム。


「よろしくね、葉月」


そうか、私がミチルの言うゲームのキーパーソンになるのね。



それは思い出だった。何故、ミチルとの言う少女にここまでこだわるのか?私は昔、一人の少女と出会った。そして、彼女は言った。


『何故、人は生きていくの?』


少し寂しそうに言った。彼女の闇もまた深い持ち主であった。彼女はミチルとは違い大人しい性格であったがどこか似ていた。それは奇妙な出会いであった。月の明かりしさえ隠す葉月の名を持つ私には彼女の笑顔は光に見えた。しかし、彼女の命の炎は重い病気のため消えようとしていた。


それでも彼女は『何故、人は生きていくの?』と私に尋ねてきた。

それは私にも分からない答えだった。

私は深夜の公園で闇に身を浸し生きる意味について考えていた。

そして彼女の葬儀を見送った後、涙なる物が初めて目から出た。

彼女を失い私はまた一人になってしまった。

そう、それは思い出……。


ミチルは漆黒の闇に包まれている。それでも、闇の一族の末裔として闇を喰らうことが出来ないでいた。なによりミチルは紅に染まりつつあった。

紅はミチル狂わし魔女とのゲームまで提案してきた。ゲームのルールは簡単。魔女がミチルを見つける前に私が魔女を見つけなければ……。


私は少し明かりが欲しい気分であった。


「珍しいわね、葉月が月を眺めているなんて」

「そうね、たまには、光も良いものよ」


アパートの窓から見える月は彼女を思いださせた。

遠い昔に私が心を開いた少女のことを……。

もう、大切な人を失いたくない。



日曜日、私は魔女と話しをつける為に魔女の手がかりを探して街を彷徨っていた。一度だけ聴こえたピアノの音色が手がかりだ。ミチルを連れてくるか迷ったがエサにするようなまねはしたくなかった。そもそも、魔女とは私と同じ血族で人とは違う時間を生きる存在である。また、人の命を気分しだいで喰らうので魔女と呼ばれている血族である。

―――

「お嬢様、お茶が入りました」

「ありがとう、ハイゼ」


ラピスはピアノを弾くのをやめテーブルへと向かう。その肩には黒い蝶が止まっていた。


「お嬢様、その黒い蝶は……」

「人の闇の結晶のようね」

「退治しますか?」

「あら、可哀そうに……でも、こんな蝶が作れるなってすごいわ、さしかし喰らったら美味しかろうに……そう、今度の獲物が主みたいよ」

「はい、お嬢様、全力でこのハイゼが探してきます」

「ありがとう、お茶も今日は美味しくてよ」


ミチルの作り出した黒い蝶は静かに羽を動かしていた。



初めて人の闇を喰らったのは12歳の時だった。刃物で刺すのなんかに比べて罪の意識は無く。あっけなかった。そう、闇にノマレた人間は数日以内に自ら命を絶つ、それが早くなるだけ……。

私は同じ血族である魔女何が違うのか迷った時期もあった。されど、この世からの去りぎわ闇から解放された人の安らかな表情は私から罪の意識を取りさっていった。

そして孤独な血族である私にトモダチは……トモダチは……。昔、出会った少女。そしてミチルはトモダチである。

私は深夜の公園で満月に妖術で水を出すと月が二つに増える。

闇の中の光、月明かりさえ葉で隠すと願いを込められて名付けられた、私は誰よりも光に憧れていた。

トモダチは光なのかもしれない。


「何?月下姫をやっているの?」


ミチルだ。また、起こしてしまった。私は頭をかきながら戸惑うしかなかった。


「月下姫か、私に月は似合うか?」

「えぇ、美しいわ」


そして今夜もミチルと月の下で語り合う、私は永遠が欲しかった。

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