第2話

私はミチルと共に授業を受けていた。あいからずミチルはつまらなそうに空を眺めていた。私は左手に闇の妖術をこめる。しだいに左手に闇が集まり先生に闇を解き放つ。すると、先生はミチルの前に行き。


「気分が悪そうだな、保健室に行きなさい」


ミチルが驚いていると、私は手を上げて先生に言う。


「はい、私が連れて行きます」

「星野 葉月か頼んだぞ」


私達は教室を出ると保健室には向かわず、屋上にきていた。


「葉月?何の真似?」

「ちょっちね、ミチルが退屈そうだったからね」

「それで?」

「ま、見ていて……」


私は闇を左手にこめ。闇の水滴が屋上の床に落ちる。すると、闇は屋上の床を小さな池に変える。透き通る綺麗な水であった。


「さ、暑いから水、遊びしよ」

「え?濡れたくない」

「大丈夫、闇で作ったまぼろしの水、術を解けば消えるわ」


そう言うと私は池の水をミチルにかける。それから、私達は誰もいない屋上で水遊びをしていた。そして、闇からできた水を消そうとした時である。


「この綺麗な水も闇に帰るの?」

「えぇ……」


それは紅とは違う、ミチルの闇であった。おかしなものね、あんなにもミチルの闇に魅かれていたのに、今は……。私は頭をかきながら水を消す。屋上の床は元にもどり、濡れていた制服も何事もなかったようになる。夏の空が私達を包む。


「暑いから帰ろ」


私の呼びかけにミチルは……。


「私は闇に落ちる水滴の様ね、紅の心に闇が同化している」


私は何も言えなかった。


「葉月、ありがとう」

「違う!私は友達として接したいの!ミチルは闇にも紅にも落ちないで」

「友達か……」


うつむき、目を閉じるミチルであった、それは悲しげであった。

今は……。

今は……。

少しミチルを一人にしてあげることにした。


それから、ミチルは風邪をひいたように咳をする。ミチルはずぶ濡れになったからだと機嫌が悪いが幻の水なので風邪などひく訳がなく。それだけ、ミチルが弱っているようだ。


「どうしてくれるの?次は体育の授業じゃない」


いつも以上に勝気なミチルだが、その存在の炎は消えそうであった。


「本当に保健室で休みましょう」

「いいえ、これ以上、休めないわ、体育は出るわ」


仕方ない、闇の妖術でミチルを少し休ましてあげるしかないか。私が左手に闇を集めた瞬間である。


「そうね、保健室も良いかも」


ミチルの言葉に驚き私の左手の闇が散る。気づかれた?いいえ、そんなはずはない。


「きっとこれ以上ごねると強制的に保健室に行きそう」


見抜かれていた。そう、ミチルとはそうゆう事なのだ。私は寂しさとも嬉しさとも違う不思議な気持ちでいた。きっとこれが友情なのかもしれない。


今宵は満月であった。

私はミチルのアパートを抜け出し大きな広場のある公園に来ていた。

私は広場の中心に立ち。


『葉月の名のもとに月よ、欠けろ』


左手に闇が集まり、やがて、数匹の黒き蝶になり蝶は月へと飛んでいく。しかし、満月は輝き何も起きなかった。


「何をしているの?」


ミチルがゆっくりとこちらに歩いてくる。


「ちょっちね、いにしえの大技を試してみたの」

「いにしえ?」

「本当は数万の蝶が満月……いいえ昼間の太陽すら隠すという技をね」


私は再び左手から蝶を作り出す。そして、ミチルの前でヒラヒラと舞う。


「闇なのに綺麗ね」


ミチルが蝶に触ると紅色に変わる。私は急いで蝶を消す。


「今の何?色が変わったけど」

「え、何だろね、私にも分からないや」


そう、私の闇がミチルの心に反応したのだ。闇よりも暗い紅に……。


「ささ、良い子は寝る時間だよ」


何とかごまかして、アパートに戻ることに。

 


その夜

私は夢を見た、浅い幻のような不思議な夢。七歳位の少女が両親と共に親子三人、花畑で遊んでいる。少女は幼いミチルであった。

これは?ミチルの夢?先ほどミチルが私の闇の蝶に触れたからミチルの心の断片が流れ込んできているのかもしれない。楽しそうな幼いミチル、これがミチルの求める世界……。

一瞬のノイズと共に場面が変わる。

ミチルが墓標の前で涙を拭いている。


「ミチルちゃんこれからどうするの?」

「私はもう高校生よ、一人で生きていくわ」


回りの大人たちはヒソヒソと話し合っている。大人なんて信用できない。例え世界で一人になってでも生きてやる。

ミチルはカッターを取り出し自分の手首を切りつける。大騒ぎになる大人たち。しかし、手首の治療が終わるころにはミチルの回りに大人は誰もいなくなっていた。


『これでもうひと泣き出来る』


ミチルの流す涙が紅色に見えたのは気のせいだろうか。


再びノイズが走り。


もとの花畑に今のミチルが一人で立っている。


「葉月、私ね、闇の蝶を出すことが出来るようになったのだよ」


ミチルの指先に羽を動かす黒き蝶……それは幻想的で美しかった。すると、黒き蝶は紅色に変わっていく。


「いけない、ミチル!ミチル!!!」


布団から飛び起きる。そう、夢だったのだ。あたりは薄く明るさを増していた。

私はミチルの様子を見に行く。何事も無かったように寝ている。私は何をしているの?ミチルが闇にのまれて……喰らう、はずだったのに。



それから、ミチルは変わっていった。無視していたクラスメイトと話したり。ミチルの闇が減った?違う、むしろ紅が増えている。

ミチルの闇は透き通る水のごとく人を引き付け。純粋な思いゆえに人を引き付ける。


「みんな見て、見て、私手品できるのだよ」


ミチルは椅子に座り周りには人だかりができていた。


「黒い蝶を出すことができるのだよ」


私は慌てて止めに入る。私とミチルは屋上に行きミチルに蝶を出さないように言う。

すると、ミチルは笑顔で語り始める。


「葉月、私ね、見つけたの」

「え?」


ミチルは黒い蝶を使い魔女の居場所を見つけたと話し始める。


「ミチル!!!」


私はどうすればよいのかただ困惑するしかなかった。


「嘘だよ、黒い蝶は制御まではまだ出来ないわ」


―――――

「お嬢様、お茶が入りました」

「ハイゼ?ご機嫌が悪いようね」

「すみません、昨日、黒い蝶を見かけまして」

「血族の末裔の妖術?」

「それが正体不明なのです」

「正体不明の闇の蝶ね……」

―――――

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