闇月

霜花 桔梗

第1話

 私の名前は葉月、闇の一族の末裔である。月の明かりですら葉で隠し闇に覆う存在。気高き闇をまとい永遠の時を生きる。その全身は妖艶な衣で包まれていた。


 闇の香りがする。夜の公園に一人泣いている少女がいる。一瞬の迷いを捨て、私は声かける事にした。


「お嬢さん、月明かりすら届かない、この闇で何をしているの?」

「貴女、綺麗ね。貴女は死の使い?」


高校生くらいの少女は泣きながら言葉を出していた。


「私は死の使いではない。闇の使い手、いえ、闇そのものと言える」

「私は孤独……家族は幼い頃に事故でいなくなったわ」

「それで、死を求めていたのか」

「えぇ、私の名前はミチル、お姉さん、私を消して……」

「それは出来ない私はただ、闇から見守るだけの存在。そういう事は魔女に頼んでくれ」

「なら、その魔女を一緒に探して……」


 それは思いがけない提案であった。そして、いつの間にか私は彼女と話し込んでいた。夜も更けていき私はミチルと共にアパートに向かった。

ミチルはアパートの二階角部屋に一人で暮らしていた。そう、最初は気の向くまま。でも、彼女と行動を共のする事となっていた。



「葉月?明日普通に学校行くけど貴女どうするの?」

「学校制服なら妖術で出せるけれどね」

そして―――

「転校生を紹介する。『星野 葉月』さんだ」


 しかし、ミチルはつまらなそうにしていて、窓から空を眺めていた。私はミチルに近づき「よろしくね」と挨拶をする。


「はい」


 返事は簡素なものだった。それでも、あのミチルが返事を返したと教室はざわついていた。そして放課後、私達は教室に残り雑談をしていた。

「ミチル、孤独だからって死を望むのは安易だと思うけどな」

「この紅色に私の心はオカサレテいるの」

「私は闇の一族の末裔として生まれて、それなりの孤独は知っているつもりだけど死にたいとは思わないわ。ま、死をつかさどる魔女探しにはそれなりに協力するわ」

「貴女にとって私は暇つぶしって事ね」

「ちと、違うけれど似たようなものね」


ミチルはあからさまに不機嫌そうになり。


「帰る」


突然教室から出て行き、私一人残されてしまった。


「あ、待ってよ」


 私は慌ててミチルを追いかけていった。そして、帰り道で私はミチルについて考えていた。そう、私はミチルに興味があった。目を閉じれば誰にも見える闇そんな闇は沢山見てきた。しかし、自ら死を望み『心は紅にオカサレテいる』とまで言い切る彼女に。闇から生まれ闇に帰るだけの存在の私の心に……。


「ミチル、コンビニ寄ろ」

「何、買うの?」

「アイスとアイスとアイス」

「仕方ないな」


 私はただ心のままにミチルの結末を見守る事にした。でも、それは残酷なのかもしれない。ミチルがもし、超新星の様に大きな闇を放つ事が有れば、その闇を喰らう事になろう。せめて、死の使いである魔女が見つからない事を願うだけだった。


その夜

 月が出ていた。月明かりですら私には眩しい。でも、嫌いじゃない。そして、月明かりが雲に閉ざされると少し寂しい。でも、私は葉月……月明かりですら、葉で闇に変える存在。


「葉月?月が隠れてしまったわ。もう、寝ましょ」


ミチルと共に月を眺めていたが隠れた月を見てミチルがアパートの窓を閉めよとする。


「ミチル?私には光は出せないけれど、闇ならば……」

「葉月、月明かりすら無い闇に闇は無力ね」

「それを言わないで欲しいな」


ミチルはクスクス笑っていた。そう、時に闇は無力である事をミチルは知っていた。



学校の帰り道、私は不意に花に魅入られていた。


「菜月なにを見ているの?」


それは小さな野花であった。


「綺麗な花ね」

「えぇ」


私は花に触れるか迷った。それは、私は闇そのものだから。花でさえも闇に染まる気がした。


「ミチル、私の代わりに花に触れてみて……」


 ミチルはそっと野花に触れると、ひらひらと花は散ってしまった。ミチルは何も言わずに手を戻す。


「それよりも魔女探しの方は……」


ミチルは動揺し明らかに話題を変えようとしてした。


「ミチルしっかりして」


しかし、この花、私が触れるとどうなるのだろう?


「私も触れてみるよ」


 残りの花にそっと手を伸ばす。手が花に触れた瞬間、何も起きなかった。私は己の闇を呪ったことは……しかし、今は違っていた。私が安心していると。


『朝焼けよりも紅く、心にオカサレシ紅、我のもとへ』


 ミチルが意味深な言葉を呟く。この花、魔女の道具か……。近くに魔女がいる。闇……いいえ、紅を持つものを探しているのか。きっとこの花のトラップを見てミチルを狙うに違いない。渡さない、ミチルは私の友達だもの。


―――

 小さな洋館からピアノの音が奏でられていた。紫色のゴスロリ身につけている小さな少女がピアノを弾いていたのだ。


「ラピス、お嬢様……お茶が入りました」


 少女はピアノをやめアンティークなテーブル座ると、執事が少女のもとへと紅茶のカップを運んで行く。


「お嬢様、今日は一段とご機嫌がよろしいかと」

「死を求める香ばしいかおりがするの、魔女である私を求める香りがね」


ラピスは紅茶をすすると。


「美味しい。ハイゼ、貴方私に仕えて何年になるかしら?」

「50年ほどです」


少し髪の長めの色白な青年の執事は静かに言う。


「時の経つのは早いものね、私が魔女になって何年経つのかしら、永遠の時も美味し紅茶と魔女としての務めがあれば、あっという間に流れてしまう」

「はい、わたくしもお嬢様に仕え幸せです」

「ハイゼ、ありがとう。紅茶のおかわりはあるかしら」

「はい、ただいま」


そう、今は紅茶を味わって、ゆっくりと獲物を待つとしよう。

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