第15話 鵜

鵜兎沼は、興奮した。

世間でいうお嬢様だった彼女は、幼い頃から親の言いなり以外の事が出来なかった。その為、何時しか他人の顔色を読むのが上手くなり、何時も相手の望む態度や行動をとるようになった。しかし彼女は、そんな自分を忌み嫌っていた。本当にしたい事、本当にやりたい事、本当に言いたい事を我慢している自分を心底呪っていた。そんな彼女も成長して、大学卒業後の自分の人生は自分自身で決めたいと強く想い、初めて親に反抗した。

彼女の両親は、彼女が大学卒業後、花嫁修業をさせ、1、2年後に結婚させたかった。しかし娘が、「就職をしたい」と口にした時、初めて親子喧嘩をした。散々お互いを罵りあった結果、父親が頭取をしている銀行に身分を偽って入る事で、話がまとまった。ここでも彼女は、自分自身の力の無さを憎んだ。親の影響が及ばない生活を望んでいたはずが、また親の傘の下から出ない選択をし、自己嫌悪に陥った。そんな気持ちで日々を過ごして2年、転機は突然訪れた。

目の前に強盗が現れ、ガードマンが撃ち殺されるのを目の当たりにし、お金を鞄に詰めろと言われ、鵜兎沼は言われた通りに、鞄にお金を入れていった。ただ彼女は、この状況に興奮を感じていた。いきなり人が死ぬ瞬間を見て、初めは悲鳴を上げる程驚き怖かったが、それが要らぬ緊張をほぐしてリラックス出来、寧ろ未体験が次々起きて彼女を興奮させた。

強盗の急死。支店長の豹変と事実。鳩山社長の考えや本音の吐露。先輩行員・鶏冠井の提案と勧誘。雛形という人の豹変と事実。鶏冠井の勧誘に応じる自分。郭公という人の本当の目的。そして、鷹田という人の参加と告白。現在鵜兎沼の目の前に起きている全てが、彼女の刺激になった。そして鷹田の告白された彼女は、自分でも気づかぬ内に、自分が色気を放っている事に気づき、更に悦びを感じて思った。

「この人は、次に私に何をして、私を悦ばしてくれるかしら?」

鵜兎沼の心は、期待で一杯だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る