第2話

灼熱地獄と化した街を抜けて、鷹田ようやく目的地-A銀行Z駅前支店出張所に辿り着いた。

「ハァー、生き返るー!」

鷹田は銀行に入るなり、はっきりと言った。その台詞に銀行内にいた人間全員が、鷹田を見た。その視線の集中に鷹田は萎縮し、周りにペコペコ頭を下げた。その態度を見た人々は、次々と奇声の主への関心が薄れ、各々のやるべき事に戻っていった。一方鷹田は、ペコペコ頭を下げて周囲を見たおかげで、何人か気になる人間を見つけた。

窓口カウンターの向こう側、奥にある応接するエリアで、2人の男性が言い合っているのが見え隠れしていた。1人は高価な背広を着ていて、もう1人は作業服を着ていた。そしてれぞれが支店長、社長と言い合っていた。おそらく融資のやり取りだろうと、鷹田は思った。その近くのデスクでは、三十路半ばと思われる女性が、軽快にキーボードを叩いているのが見えた。かなり集中している為か、周りの騒音が聞こえていない様子だった。そして窓口カウンターには、銀行の制服を着ていないと女子高生と間違えそうな小柄な女性が座っていた。その姿を見て鷹田は、可愛いらしいと思った。

そのカウンターを挟んで近くに警備員が立っていた。顔つきから六十代半ばと思えたが、体格と立ち姿からとてもそうは思えなかった。鷹田は、この人は間違いなく警察OBで、定年退職後にここの警備員をしている、と確信した。その警備員は満遍なく銀行内を見ていたが、特に鷹田とソファーに腰掛けている2人の男性を注視しているようだった。一方はサラリーマン風で、かなりの細身というよりやつれた感じの男性で、妙にそわそわしていた。鷹田から見ても、明らかに怪しく思えた。もう一方は学生風の今どきの男性で、鼾をかいて眠っていた。ここには明らかに涼みに来ている、と鷹田は思った。

そして、銀行の外にも気になる人間がいた。見た目から明らかにチンピラと思わせる男性が、銀行を覗き見ていた。誰か探しているのだろうか、それとも誰かを待っているのだろうか、どちらにしても関わらないほうが良い、と鷹田は思い、窓口カウンターへ向かった。

「いらっしゃいませ。今日は、どの様なご用件でしょうか?」

窓口カウンターに着くと、先程の可愛いらしい小柄な女性行員が、鷹田の顔を見ながら挨拶をした。鷹田は、照れを隠すためにワザと素っ気ない態度で、用件を伝えた。女性行員は、そんな鷹田の態度を気にも止めず、

「暫く、あちらでお掛けになって、お待ち下さい。」

と教科書通りの返事をして、後ろのベンチを勧めた。鷹田は、態度を変えずにそのままベンチに向かったが、内心はドキドキしていた。鷹田のこれまで出会った人間の中に、彼女のような可愛いらしい女性はいなかったからだ。鷹田は、自分が恋に落ちそうになっているのを実感していた。しかし、そこから抜け出させる出来事が目の前で起きた。

鷹田の前に、いつの間にか小汚い坊主頭の男が立っていた。その男は鷹田と目があった瞬間、懐から何かを取り出した。取り出したモノは、出てきたと同時に火を噴いた。火を確認した鷹田は、反射的に横へ飛んでかわした。鷹田が床に転がり落ちると同時に、爆発音と何かが衝突する音と悲鳴が一斉に上がった。鷹田、は直ぐに立ち上がって身構えた。そして何が起きたか、この時理解した。

鷹田は、銀行強盗と鉢合ってしまった。

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