第4話 それって好きって事でしょ?。

本当は、恋愛に興味が無いんじゃない


彼女は“別れ”を怖がって


恋を“始めよう”としていないだけ。


だって、始めなければ、終わらないから…

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最近、理央の様子がおかしい。

絶対おかしい。


残業なんて気にしないでガツガツ仕事をするタイプ


それでも理央は、

・いつも綺麗に手入れをされた良い匂いの髪

・オフィスカジュアルの綺麗めな服装

・メイクも派手でなくナチュラル、

 それでいて綺麗で可愛い

・嫌味のない笑顔

・相手によって態度を変えたりしない優しい性格


モテない訳がない


当たり前に先輩後輩関係無く男性からモテる

会社の飲み会に参加したら男性陣のほとんどが

理央の隣の席を狙ってる。


自分で言っちゃうけど、私だってモテる方。

だから、理央と私は入社以来“華の2人組”と言われて

男性陣からも女性陣からも憧れられている…


理央は、

「そんな出来た人間じゃないからそれ嫌だ」

って言ってたっけ。


どんなにイケメンでも

エリート相手でも振り向かなかったのに

最近の理央はおかしい。



「絶対恋してる」


「してないから」


「おかしいもん最近。残業しなくなった!」


「そんな事ないよ、仕事ちゃんとやってるよ?」


「今日金曜日、今週1度も残業してないよね?」


「……そうだっけ?」


「うん!」


「急ぎの仕事とか無かったから今週…」


「怪しい、怪しすぎるから!」



どうしよう

美彩が面倒くさい。



「何もないから」


「嘘ついてたら怒るからね」



なおの事言ってないから怒られるの確定だ…



「いや、あの…ね、」


「まぁ、いいや。今日は帰る。また来週ね」


「え!? あ、うん。またね」



もっと追及されるかと思ったのに

美彩は意外とあっさり帰って行った



「さっきがなおのこと言うタイミングだったよね…」



タイミングまた逃した




確かに美彩の言う通り私は最近残をしていない

ほぼ定時で退社して帰宅している。


“早くなおに会いたいから”






「ただいま~」


「おかえりなさい」


「うん、ただいま」


なおの目を見て、もう1度言う

そうするとなおは優しく微笑んでくれるから。

やっぱりこの優しい笑顔が見たかった

早く帰ってきて良かった。



「あ、ねぇなお、こっち来て」


「どうしたんですか?」


「写真撮ろう?」


「写真ですか? 

 急にどうしたんですか?」



そう言ってまた微笑む

なおもなんか楽しそう



「ん~なんかね、

 なおと写真撮りたいなって」


「そんか照れますね」


「いいから、いいから。

 はい、撮るよ~」



カシャ



「理央さん可愛い。

 でも、撮り慣れてる感すごい…」


「ちょっと! 

 自撮りなんてそんなにしないから! 

 なおもカッコいいよ」


「ありがとうございま~す。

 でもこれカップルみたいですね」


「えっ…」



ドキッとした。

でも、確かに写真の中の私たちは、

“仲良しカップル”みたいで…

2人とも“幸せそう”


でもなんでかな、

少しだけ切なくなっちゃった。




「あ、洗濯物やってくれたんだ。

 ありがとう」



話題を変えたくて目に入った洗濯物に触れる



「どういたしまして。

 あ、でも…あの…」


「ん?」


「いや、あの…」


「なに?」


「……」


「なお?」


「……さ、さすがに下着を勝手に扱うことはできなくて、

 せ、洗濯できませんでした!」



下着って言うのが恥ずかしかったのか

なおは俯きながら真っ赤な顔でそう言った



なにこの子、可愛すぎる



「見た?」


「え?」


「私の下着……見た?」


わざと上目使いで

なおにもう1度ゆっくりと問う。

なおの肩がピクっと動いた


それからこれでもかって程、

またなおの顔は真っ赤になった。

また赤くなってる、可愛い


なんだろう

いじわるしたくなる



「変態」


「えっ!?」


「知らなかったな~、

 なおが女性の下着でそんなに顔真っ赤にするなんて」


「あ、いや…だって」


「だって、なに?」


「あ、あんな透け透けなの見たことないですよ!

 あんなの履いてる方が変態ですよ!」



お気に入りなのになんかムカつく

私の下着なんだから私の自由でしょ



「最低」



思わず普段より低い声で言ってしまった。


「……」




あれ…なお?


思ってたのと違う

帰ってきたら今日も2人でご飯作って

テレビ見ながら色々話して

今日も楽しかったね、おやすみって言って

今日が終わるはずだったのに


なおの反応が可愛くてからかい過ぎて

勝手に怒っちゃった


喧嘩なのかなこれ…


「今日ご飯要らないです」

なおは、そう寂しそうな表情で言ったあと

寝室に向かった。




気持ちが無くなったみたいな

思考が止まってるみたいな

私の中は今、空っぽだと思う。



でも、

気持ちとは関係なしにお腹は空くもので、



「……オムライス作ろうかな」



何作ろうかなって思ったらすぐに

オムライスが頭に浮かんだ。

なおの好きなオムライス

デミグラスソースじゃなくてケチャップ派

卵はトロトロよりもしっかり焼いて欲しい派

ケチャップライスは玉ねぎとグリンピースと鶏肉


そんな事を考えながら作っていたらすぐに出来上がった

オムライス2つ。


なおを呼びに行こうかと思ったけど、

ご飯要らないって言われたんだった

1つのオムライスにラップをかけてキッチンに置いておく。


久しぶりに1人で食べる

なおはこの家に居るのに

私はどうしようもない孤独感に襲われる…


食器を洗い終わったあと、

お風呂に入り寝室に向かう。



「なお?」



返事は無い

もう寝ちゃったかな



「ごめんね、なお。…おやすみ」





はっきりと聞こえた理央さんの声

泣いちゃいそうな声でごめんねとおやすみ。



嬉しかった

理央さんが僕と写真撮りたいって言ってくれて

2人で写真が撮れたことも

カップルみたいと言ったら

理央さんが少し顔を赤くしたことも


嬉しかった。


それなのにどうしてかな…

理央さんを怒らせちゃった。

洗濯しなければ良かった


変態


この言葉が理央さんから拒絶されてるみたいで

耐えられなかった。

僕の中の何かが壊れてしまいそうで

泣きそうになった


もし涙が溢れたら…

そんな姿見られたくない。

もう今日は寝よう。

早く今日を終わらせよう。


明日朝、理央さんに謝ろう

仲直り……したいから。





土曜日の朝、

今日も目が覚めると理央さんはベッドに居なかった。


リビングにも居なかった


どこにも居ない


「……理央さん」



もう9時だ

理央さんどこに行っちゃったんだろう

僕に会いたくなくて出て行っちゃったのかな


テレビを見る気にも何か食べる気にもなれず、

ずっとソファーに座ってボーっとしてる。


「…会いたいです」






目が覚めて時計を見たらまだ7時前。

隣ではなだなおが寝ている


どうしよう、

なおが起きてきたら何て声かけよう…


だめだ

ネガティブな事しか浮かんでこない

気分転換に散歩でもしてこよう


天気が良いし、朝は少しひんやりして気持ち良い

音楽を聴きながらゆっくり歩く。


謝ろう。

なおにちゃんと謝ろう

このままなんて嫌だ


色んなことを考えていたら9時を過ぎてた

そろそろ帰ろう。

もうなお起きてるかな…



ガチャ


ドアを開けて部屋に入ると静かだった

あれ、まだ寝てるのかな?


リビングに行くとソファーになおが居た。



「なお?」



なおはソファーの上で両膝を抱えて俯いてた



「なお? どうしたの?」


「理央さん」



顔をあげたなおは

今にも泣きだしそうだった



「ん?」


「ごめんなさい」


「えっ…」


「僕が余計な事をしたから、

 理央さんに嫌な思いをさせちゃって…」


「違う」


「ごめんなさい、

 だから嫌いにならないで…」



なおは俯いたまま今にも泣きだしそうな声で訴えた



「嫌いになんてならないよ。

 私の方こそごめんね」


「理央さんは悪くないです、僕が…」



そう言うとなおの目から涙が零れ落ちた



「…なお」




私はなおを抱きしめた


なおの涙を見て、

“守りたい”ってそう思った



「理央さん?」


「泣かないでなお」


「すみません、

 泣くなんてかっこ悪いですね」


「そんなことないよ、

 ごめんね、なお」


「僕もごめんなさい」


「うん…

 ねぇなお、仲直りしたい」


「僕も仲直りしたいです」



抱きしめたままなおの顔を見ると彼は、


泣きながら微笑んでいた


“綺麗”


不謹慎かもしれないけど、

なおはとても綺麗だった。



「理央さんにこうされてると

 なんだか落ち着きます」


「そう?」


「はい、

 理央さん良い匂いするし温かいしそれに…」


「それに?」


「きっと僕、理央さんのこと好きです」


「えっ……」


「でも、僕はペットですから

 付き合ってなんて言わないから

 安心してください」


「なお…」


「自分の立場とか分かってますから。

 だから…」


「…」


「…だから、

 理央さんが僕を好きになって告白してくれるまで

 僕はペットで良いです。」


「私は、」


「今は何も言わないでください」


「えっ」


「理央さんは今、

 僕を好きじゃないでしょ?」


「それは…」


「今はそれでいいんです。

 これから好きになってもらえるように頑張るから」


「…うん」



どうしようって思った。


嬉しかった

なおに好きって言われて嬉しかった

けど、

なおに対する気持ちがまだ自分ではっきりしなくて

“勇気”が出なかった。


たぶん私もなおが好き

でも、その好きにまだ自信が持てないの。


ごめんね、なお

もう少し時間をちょうだい。


それに、

私を惚れさせるためになおがどんな事をしてくれるのか

楽しみにしてるからね。





“理央さんが好き”

そう思ったのは初めて理央さんを見た時だった。

でも、一目惚れとは違う感覚

ずっと前から好きだった人にやっと会えたそんな感覚。


もしかしたら僕は、

記憶を無くす前から理央さんを知っていて

好きだったのかもしれない。

けど、理央さんは僕を拾った日に

初めて会ったって言ってたから、

記憶を無くす前の僕とは

出会っていなかったんだ

だから、


“ずっと前から僕の片思い”


前の僕の分まで今の僕が頑張るよ。




いつかペットじゃなくて、

僕を彼氏にしてください。

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