第3話 友達に嘘はつかないこと。

“好き”


ではなくて


“一緒に居たい”


って気持ちだけで私はあなたに嘘をついた

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「桜井さん、おはようございます」


「おはよう」


「おはようございます」


「おはよう」


会社に着いてからいつもみたいに仕事モードに切り替える。




「ねぇ、今日何かあるの?」



お昼休みに会社近くでランチ。

美味しそうなカルボナーラを食べながら

そう私に聞いてきたのは同期の美彩みさだった。



「ん? なんで?」


「なんか今日朝から急いでる感じだから。何か予定あるの?」


「う~ん、予定はないよ」


「本当!? じゃさ、今晩飲みに行こうよ!」



月曜日から飲みに行くなんて…



「週末なら良いけど、今日月曜日! 帰る!」


「え~いいじゃん、行こうよ」


「早く帰りたいからだめ!」


「理央が早く帰りたいなんて珍しい…何かあるでしょ?

 

 ……あ! ついに彼氏作ったとか!?」


「作ってません」


「じゃ何?」


「…」


「理央?」



可愛い顔で睨んでくる美彩は全く怖くないけど、

機嫌を損ねるとあとが大変…



「…ペット」


「ペット? ペット飼い始めたの?」


「うん」



嘘じゃないけど、色々と勘違いされる…



「ペットって何? 犬? 猫?」


「子犬みたいな…」


“みたいな青年”


「いいね子犬! 絶対可愛いじゃん。写真ないの?」


「写真? ない」


「え~いいな~私も見たい子犬! 今日家行く」


「えっ!? だめ!」


「何で?」


「部屋散らかってるし、それにまだ…人に慣れてないからだめ!」


「え~…じゃ人慣れしたら呼んでね?」


「うん、分かった」



美彩を家に呼べる日はいつくるのだろうか…

前は毎週末家に来て宅飲みしてたけど

なおをどう紹介するべきか…

きっとさっきみたいに「彼氏!?」って騒ぎだす

なおに迷惑掛けたくないし

変に誤解されるのも嫌だし

困った。




ランチの時はごまかしちゃったけど、

やっぱり美彩にはちゃんと話そう


どうして“彼”が家に居るのか。


嘘じゃないけど、本当のことでもない

それにどうしてもモヤモヤしてしまう。


初めから本当のことを言えなくてごめんね美彩



午後からの仕事も“早く帰りたい”を理由に集中できた

これなら定時で帰れる。



しっかりと定時で仕事を終わらせ急いで電車に乗った。


電車の中でふっと思った、



なおは家に居るのかな…

私が帰ってくるのを待ってくれているのかな…

記憶が戻って自分の帰るべき場所に帰っちゃったかもしれない



嫌だ


居て欲しい

なおに居て欲しい

記憶が戻っていてもいいからなおには居て欲しい。



もしなおが居なくなっていた時の

ショックを少しでも減らすために一応、


“なおが居ない”


を想定して駅からマンションまでの道を急いで歩く。



居るよね?

居てくれるよね、なお?


だめだ、やっぱり居て欲しい。


オートロックの入口を抜けてエレベーターに乗り

自分の部屋の前までやっと辿り着いた。


ドアの前に立つ

彼は居るのだろうか…きっと居るよね?



「ただいま‼」



いつもより勢い良くドアを開けて声を出す、な

おが私に気付いてくれるように…



「お帰りなさい、理央さん」



なおが微笑みながらそう言ってくれた。

嬉しかった

ただいまと言ってお帰りと返ってくることが

なおが居てくれることが

嬉しかった。




なおが沸かしてくれていたお風呂に入りながら

今日の事を振り返ってみる。


好きじゃない

なおは弟みたいな子供みたいな…

家族みたいなそんな感じ。

だから、居ないと寂しい。

だから、これは恋愛感情じゃない。


今日の寂しさと不安はきっと

家族が居なくなるのが嫌だったから…

楽しい時間を過ごせていたのに

急にその時間が無くなるのが寂しかっただけ


それだけ…のはず。



私が抱えていた不安をなおは簡単に消し去ってくれる。


その優しい微笑みで

勝手に居なくなったりはしないと言ってくれた

だから私は、その言葉を信じる。


なおの笑顔には魔法の力があると思う。

どんなに不安でも心配な事でも

なおが優しく微笑みながら話すと

なぜか安心する、大丈夫だと思える。


だから、さっきの“居なくならない”を私は信じるよ。

いつまで一緒に居られるかなんて分からない

そのいつかなんてきて欲しくないけど…

それまで私はなおとできるだけ一緒に居たい。



のぼせてきたかな、そろそろお風呂から出よう。



お風呂を出てからは夜ご飯の準備

なおに何が食べたいか聞いたら

「肉じゃが」と返事が返ってきた。



「一緒に作りたいです」



なおがそう言うから今夜は一緒に作ることに。

2人でキッチンに立つ

楽しい、そう思った。


「何すればいいですか?」


「じゃ、野菜の皮剥いて」


「はい」



ピューラーを使ってじゃがいもや

人参の皮を剥いていくなお



「不器用」


「たぶんあんまり料理したことないです」



不器用にも程がある

皮が大雑把にしか剥けてないし、

滑って野菜を何度もボールに落としている。



「不器用」


「どんな事も見た目が全てじゃないですよ。

 大切なのは目に見えない部分です」


「良い感じの事言って誤魔化さない。

 しかもドヤ顔‼」



へへって感じで笑うなお

その爽やかさがムカつく。



でも、さっきなおが言ったことは正しい。

目に見えるものだけが真実とは限らないし、

きっとそれが全てではない。

目に見えないものの方が大切だったりする。

例えば、“想い”とか…



もっとなおのことを知りたいと思った。

どんな趣味嗜好があって

どんなものが苦手なのか

何に感動して

何に怒るのか

あなたの思考も知りたい…




私はあなたを見つけたあの瞬間から

あなたに興味を持ってしまったの。


ねぇ、なお

あなたは私のついた嘘を知った時、怒る?

それともあの優しい笑顔で許してくれる?


私があなたについた嘘は……




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