第2話 飼い主が居ない間に。

あなたが優しく微笑んでくれるから


どんな事もきっと上手くいくんじゃないかと思える。


あなたが居ればそれでいい


そう思えた。

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記憶が戻るまで理央さんの家に

居候させてもらう事になったものの

記憶はいつ戻るか分からない。


何かの拍子に1分後に記憶が戻るかもしれない

でも、

1年経っても10年経っても記憶が戻らないかもしれない。

いや、

一生記憶を無くしたままなのかもしれない。


この状態がいつまで続くのかなんて誰にも分からない。



1人で居ると段々ネガティブな考えばかり

浮かんできてしまう。

理央さん早く帰ってこないかな…

理央さんが居ないとこの部屋は静かすぎる。


そう言えば昨日は寝る前まで騒がしかったな…





食事のあと順番にお風呂に入り

あとは寝るだけとなった時に問題は起きた。



「理央さん、

 リビングのソファー借りていいですか?」


「ん? ソファー?」


「あと何か掛けるものも…」


「あ~、だめ!」


「えっ?」


「ソファーで寝るつもりでしょ? だめ」


「じゃ、床で」


「うん、敷布団も掛布団もお客さん用のあるからそれ使っていいよ」


「ありがとうございます」


「布団こっちにあるよ~」



友人がよく泊まりにくるらしく

お客さん用の布団があるらしい。

布団あって良かった

直接床で寝るときっと体バキバキになるもんな。

それに寒い



寝室に案内されて布団を運ぼうと思ったら



「ちょっと待ってね」



そう言って理央さんはベッドの横に布団を敷き始めた。



「え!?」


「ん?」


「僕ここで寝るんですか?」


「うん。 さすがにゲストルームはないからね」


「いや、大丈夫です! リビングで寝ます」


「リビングはリビング。そこで寝るってなんか違和感」


「え、でも…」


「嫌なの?」



えっ…理央さん少し怒ってる? なんで!?



「いや、嫌じゃないです」


「よし、じゃ寝よう」


「はい」



理央さんはベッドに

僕は隣の布団へ入った。



「おやすみ、なお」


「おやすみなさい、理央さん」



下心なんてないけど、

さすがに理央さん無防備過ぎるよ…



そんな事を考えているうちに僕は寝てしまい

気付いたら朝になっていた。


時計を見ると6時半過ぎ


あ、理央さん居ない

もう起きてるんだ


枕元に新しい着替えが置いてあり

本当に優しい人だなと朝から優しさに包まれた。


布団をたたみ、

リビングへ行くと理央さんは朝ご飯を作っていて、

起きてきた僕に気付くと笑顔でおはようと声を掛けてくれた。


仕事用であろう水色のシャツに紺のストライプのスカート

腰には細めのベルト

目鼻立ちがはっきりしているからナチュラルメイクでも

十分過ぎる程、綺麗だ。



見惚れていたらまた微笑まれたので、

僕も笑顔でおはようございますと返す。



「寝起きでその爽やかさ凄いね、

 あと子犬感増してるよ?」



そう言ってまた微笑む彼女


彼女の言う“子犬感”が今だに自分では

どんなものなのか分からないけど、

一応褒めているらしい…

犬好きなのかな?

だから犬で表現?



理央さんが作ってくれたのは和朝食。

テーブルには、

白米

白みその味噌汁

卵焼き

鮭の塩焼き

ほうれん草のお浸し

お漬物


「これ全部朝作ったんですか?」


「全部じゃないよ、

 お浸しとお漬物は常に幾つか作り置きしてるの」


「でも、卵焼いて魚焼いて味噌汁作って…

 時間掛かりそう」


「ん~そうでもないよ? 

 鮭焼いてる間に味噌といて卵の味付けして

 一気にやっちゃうから」



凄いな~って関心していると



「美味しい?」



と、ニコニコ…

いや、にやにやしながら聞いてくる彼女



「今日も美味しいです」


「あ~良かった~。味噌汁白で大丈夫だった?」


「はい、美味しいですよ」



本当に美味しいからそう言っているだけなのに

彼女は僕が“美味しい”と言う度に笑顔で喜んでくれる。


大人っぽくて完璧な人だと感じる部分もあるのに

飾らない性格で接しやすい素敵な人だ。





「今日は7時には帰ってくるから」


「はい。お仕事頑張ってください」


「うん、ありがとう

 あ、そうだ

 お昼ご飯は冷蔵庫に入ってるからね」


「すみません…

 ありがとうございます」


「あと、テーブルにメモ置いてるから

 それ読んでおいてね」


「分かりました」


「じゃ、行ってきます」


「いってらっしゃい」



理央さんを見送ったあとすぐにメモを読むことにした。



なおへ


1.インターフォンが鳴っても出なくていいよ

2.部屋の中の物は自由に使ってOK

3.お昼は冷蔵庫に入ってるサラダ、肉野菜炒めを食べてね

 ご飯は炊飯器、味噌汁はコンロの鍋に入ってます

 冷蔵庫の中の物は自由に食べ飲みしていいからね

4.一応部屋のスペアキーも置いておきます

 何か外出の用事があったらしっかり戸締りしてね


   でも、絶対に帰ってくること‼


りおより



理央さんのメモはまるで、

家で1人留守番する子供に向けて親が書いた様な内容だった。


僕は子供じゃないんだけどなと思ったけど最後の


“でも、絶対に帰ってくること‼”


この言葉は凄く嬉しかった。



今の僕の帰る場所はここなんだ、と安心できた。

ありがとう理央さん

このメモ大切にしまっておきますね。




その後は朝の情報番組を観たり

お昼ご飯を食べたりしていたけど…


暇だ


掃除でもしよう。


本棚

テレビ周り

ソファー

キッチン

廊下

玄関

お風呂

お手洗い


やれる箇所は全部掃除した

うん、程よい疲労感。


掃除に集中していたら気づけば夕方になっていた


理央さんが帰ってきたらすぐ入れるように

お風呂沸かしておこう。




時計の針は午後7時5分を過ぎたあたり


やっぱり理央さんが居ないとこの部屋は静かすぎる。



ガチャ


「ただいま!!」


「お帰りなさい、理央さん」


「なお~! 良かった居ないかと思った」


「ん? どうしてですか?」


「記憶が戻って自分の家に帰っちゃったかもって…」


「残念ながら記憶は戻ってません。

 でも、もし記憶が戻っても勝手に居なくなったりしませんよ?」


「本当?」


「はい、こんなにお世話になっているのに何も言わないなんて

 そんな失礼な事はしません。

 寧ろ、その時は僕の家に理央さんを招待します!」


「本当~? それは楽しみだな~」



微笑む彼女を見て安心する。



「理央さん、お風呂沸いてますから先にどうぞ」


「えっ、お風呂やってくれたの?」


「はい」


「ありがと! ご飯あとでも大丈夫?」


「大丈夫です。お風呂でゆっくり疲れ取ってくださいね」


「うん、ありがとう」




朝、なおが玄関で「いってらっしゃい」って言ってくれた時、

なんだか気恥ずかしくなった。


私の中にあるなおへの思いは好きとは違う。

心配、不安、放っておけない、頑張ってほしい、助けたい


まるで親みたいだな…私。


なおを拾って今日で3日目

こっそり調べたけど、なおの捜索願は出ていなかった。

けど念のため1週間経ったらまた調べてみよう。


なおを待っている家族がいたら

私だけがなおを独り占めしているのは申し訳ない。


なおの家族はどんな人たちなんだろう

なおみたいに皆優しさとあの微笑みの持ち主なのかな…


きっと素敵な家族だろうな。




なお、私はあなたを拾ったこと後悔してないからね。



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