第5話 恋が恋しくなりました。

恋をしなくなったんじゃない


初めから誰にも恋をしていないだけ。


恋をしている=幸せ


恋をしていない=寂しい奴


こんな方程式誰が作ったのか…


私は、恋をしていなくても十分幸せなはず

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なおに好きと言われてから数日、

特に変わったこともなく2人で過ごしている。


ん~なんか物足りない

これから好きになってもらうって言ったのに

なおからの“好きアピール”が感じられない。

今までと何ら変化がない。


期待してる私が恥ずかしいじゃん…



今朝だって、

朝ご飯の準備をしていたらなおが起きてきて



「おはようございます」


にっこり子犬笑顔

可愛い…爽やか…可愛い


「おはよう、なお」


「今日の朝ご飯は何ですか?」


そう言いながら後ろから覗き込むように近づいて来た


「えっ、あ、味噌汁と卵焼きとひじきの煮物とサラダだよ」


「良い匂い」


近い

いつもより少しだけ近い気がする

おかずを盛り付けている途中だから、

顔だけなおの方に向ける。


ドキッ


近い!!!


振り向くとなおの顔はすぐそばにあって

あと少しでキスできそうな距離。


近い!!!


私は変に緊張して焦ったのになおは平気そう


「ん?」

って爽やかスマイルでまた覗き込んでくる


確信犯

絶対確信犯。


もう‼ やだ‼



「なお、わざとでしょ!」


「ん? 何がですか?」


「分かってるくせに」


「理央さん」


「ん?」


「ご飯食べましょう?」


「…うん」



またそうやって微笑む

もしかして私が過剰に反応し過ぎ!?

前からなおの笑顔は本当に可愛いし爽やかだし…

でも、わざと狙ってやってる気がする

私のツボ分かってる気がする。


こんなの誰でも好きになっちゃうよ

もしかしてなおって彼女いるのかな

もしそうなら私どうすればいいんだろう…


悩みが尽きない…



ピンポーン


「誰だろう」


「郵便ですか?」


「うーん、えっ!?」


「理央さん?」


「なお‼」


「はい」


「お、お風呂場に居て‼」


「えっ?」


「お願い‼ すぐ済むから‼ 終わらせるから‼」


「え、あ、はい」




その後、理央さんはマンションのオートロックを解除してたから

誰かが部屋に来るみたいだ。

誰だろう

僕が居るとまずい人?


彼氏?

それか好きな人?

いや、親とか?


誰だろう…

なんか隠されるのって寂しい…かも。




「どうしたの急に?」


「近くに来たから寄ってみた」


「来るなら先に連絡してよ」


「だって連絡したら部屋入れてくれないでしょ?」


「いや、それは…」


「美彩から聞いてるよ。最近様子が変らしいじゃん」


「美彩そんな事言ったの!?」


「だって本当のことじゃん。あ、トイレ貸して」


「あ、うん。いいよ。でもそんな急に来なくても…」


「見つけたー!」


「何を!? ……なお!?」




浴槽の中で体操座りをして理央さんを待っていた。

それなのに僕を見つけたのは、

僕の知らない綺麗な人。

この人も綺麗な瞳をしている

如何にも“年上のお姉さん”って感じで頼れる姉貴みたいな感じ。


綺麗なお姉さんと目が合って微笑まれた。

その後、人差し指を口に持ってきて“しー”って。

何がしたいんだろう?

そう思った次の瞬間、彼女は大きな声で


「見つけたー!」


と、リビングめがけて叫んだ。


その後すぐに理央さんが走ってきて


「トイレって言ったじゃん! ここお風呂場だから‼」


「やっぱり来て良かった。さぁ、話聞くからね理央?」


「あぁ……もう…」


「理央さん? 僕どうすれば?」


「なおも来て。 大丈夫、友達だから」


「はい」




なぜか理央さんはリビングに来てすぐ正座させられた。

僕は、ソファーに座り、両隣に理央さんのお友達。


左隣にさっき僕を見つけた佐藤美彩さとうみささん

右隣に綺麗なショートカットのクール美女の藤堂夏帆とうどうかほさん


美彩さんと夏帆さんは理央さんの大学の同級生らしく

美彩さんとは会社も同じらしい。

因みに夏帆さんはフリーのグラッフィクデザイナー

最近は大手企業と手を組んで忙しいらしい。



「で、理央? この可愛い子は誰?」


「な、なおです」


「なお君って言うんだ、宜しくね? なお君」


「はい、よろしくお願いします。美彩さん」


「宜しくね」


「宜しくお願いします、夏帆さん」


「なお、宜しくしなくていから」


「え~なんで? なお君と仲良くなりたい‼」


「美彩その前に理央の話ちゃんと聞こう?」


「分かった」


「で、なんで彼氏居ることずっと隠してたの?」



そう夏帆さんに聞かれた理央さんが

僕の方を見たから僕は少しだけ頷いた。



「彼氏じゃない」


「えっ?」


「弟居ないよね? え? どんな関係?」


「ペ…ペット!」


「「 ペット!? 」」



美彩さんと夏帆さんが2人声を合わせて驚いていた

そうだよね

普通驚きますよね

2人に挟まれた僕は苦笑いしかできません。



「り、理央ってそんな趣味あったっけ…」


「別に理央が幸せなら私は何も言わない…」


「ちょっと待って! 誤解。そんな趣味ないから。ちゃんと話すから」


「「 うん、話して 」」



理央さんは僕を拾ったこと

僕が記憶喪失であること

記憶が戻るまで一緒に暮らす約束をしていること

付き合ってはいないこと

を、2人に話した。



「ペットね…」


夏帆さんは不思議がっている。


「同棲ってことだよね?」


「…うん」


「なお君は理央で大丈夫なの? 私の家に来る?」


「えっ!?」



美彩さんはペットを羨ましがっている。



「美彩! 誘惑しないで!」


「誘惑じゃないよ、なお君に聞いてるだけ~」


「もう、美彩!」


「僕は理央さんが良いからごめんなさい」



誘ってもらって申し訳ないけど、

僕は理央さんと一緒に居たいから

美彩さんのお誘いは断った。

けど、理央さんの友達だから傷付けないように優しく。



「……何この可愛いさ」


「ん?」



また微笑んだ



「なお」


「はい」


「あんまり微笑むと美彩なおに惚れるから…」


「えっ…」


「でも、美彩のタイプって年上色黒マッチョじゃなかった?」


「僕真逆ですね」


「ううん! 子犬系良い! 可愛い!」


「え、あの…」


「私が守ってあげたいって思っちゃった。年下ありだね。」


「なお君狙われない様に気を付けてね」


「えっ!?」


「ばか」


「理央さん? 怒ってます?」


「別に」


「なお君、大丈夫。嫉妬してるだけだから」


「夏帆! 違うから!」



嫉妬してくれるなんて嬉しいな



「微笑むな!!」



注意と一緒にクッションが投げられて僕の顔面に的中。



「なお君大丈夫? 理央が嫌になったらいつでもうちにおいでね?」


「美彩のところじゃなくて、私のところでも良いよ?」


「美彩も夏帆も何言ってんの!」


「家出する時は、お2人にお世話になります」


「なお‼」


「冗談です。ずっと理央さんと一緒に居たいですよ?」



優しい笑顔でそう言うと、

美彩と夏帆の方が顔を赤くして照れていた。



「なお君って天然?」


「天然じゃなかったら小悪魔だよ…」


「うちの子……凄いでしょ」


「「 うん 」」


「なお君、お手!」


「はい」


「よし、よし、可愛いな~」



美彩さんの手に手を乗せたら頭をわしゃわしゃされた

これ前に理央さんにもされたな

やっぱり子犬感?



「そこイチャイチャしない!」


「もうさ、理央なお君のこと好きじゃん」


「えっ、いや違うから!」


「僕はまだペットですから」


「“まだ”なんだ」



そう言って夏帆に微笑むなお。



「でも、なんかすっきりした」


「そうだね、理央の変化の理由が分かった良かった」


「ねぇ、せっかくなお君とも友達になれたんだし

 今度の休み皆でどっか行こうよ」


「良いね、理央、なお君行こうよ」


「えっ…でも」


「いいじゃん。行こうよ!」


「なお君も、ねぇ?」


「理央さんが行くなら」


「だってよ、理央?」


「うん…分かった。行く」


「じゃ、どこ行く?」


「日帰りが良い? 1泊する?」





美彩さんと夏帆さんは、次の週末にどこに行くか

楽しそうに話し出した。


けど、休日は家でゆっくり過ごすのが好きな理央さんは

あまり乗り気じゃない様子。

理央さんが行かなければ、僕も行かない。

だから、どうするかは理央さんに任せよう。





好きじゃないとしても

あなたが嫉妬してくれたことが嬉しかった。

少しでも独占欲を持ってくれたことが嬉しかった。

少しずつでもいいから

僕を好きになってください。




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