第5話

キャタリーナの案内で書斎に向かう。

屋敷の廊下でばったりヴィランと遭遇したが、先頭を走るキャタリーナのこぶしが唸って沈んでいった。

本当に迷いは吹っ切れていた。

角を曲がり、大きな扉の前で立ち止まる。


「この中よ」


その扉からは微かに嫌な気配がする。


「開けるわよ」


「いや、ここは俺が開ける」


タオが一歩前に出る。

危険な役目をかって出ようとする。


「ここは私の家よ、私の許可なく扉を開けて欲しくないんだけど」


「それなら玄関からすでに無理だな、それに俺はディフェンダーだ。俺が開けた方が安全だぜ」


「……今回だけだから」


「はいよっと」


あまり納得していないキャタリーナ。

今は一刻を争うため、ふて腐れた彼女は放置して扉を開ける。


「! やっぱりな」


「どうやら、キャタリーナさんの推理は正解のようですね」


「あまり当たって欲しくなかったけどね」


書斎にはカオステラーがいた。

どこに隠れていたのか、わらわらとヴィランが沸いてくる。


「それじゃあ、もうひと踏ん張りと行くか!」


「ええ」


「はい」


「うん」


「……ちょっと待って」


栞を手にした四人に待ったをかける。


「なんだ、またかよ」


「またじゃないわ、今度は私も戦う」


「ええ!? でも、君のお父さんだよ?」


「そうね、むしろこんな機会じゃないとお父様を殴るなんて出来ないじゃない」


意気揚々と言い放つ。


「むしろ、いつも殴ってそうなもんだけどな……」


「タオ、しっ」


レイナも思っていたが、流石に口に出していってはいけないことは理解している。


「人数は多いほど心強いです」


「そうね、タオを倒せるほど強いものね」


「俺基準かよ」


緊張が解れたところで、四人は栞を『空白の書』に挟む。


「お父様でもこれから起こる『物語』の邪魔はさせないから!」


キャタリーナはメガ・ヴィランに迷いなく向かっていった。


***


キャタリーナの父ことメガ・ヴィランを倒すことが出来た。


「お父様……」


「君のお父さんは、ちゃんと君のことも愛していたんだね」


「やっぱりそういうことか」


「キャタリーナさんだけ何故か攻撃されませんでしたね」


「……されなかった、というより、出来なかったんでしょうね」


カオステラーと言っても元は人間。

しかもその不満は『娘が結婚すること』。

その大事な娘を傷つけるなど、カオステラーになっても出来なかった。


「きっと、キャタリーナの結婚も本当は反対だったんだろうな」


「ですが娘の幸せを願うなら、反対は出来ませんからね」


「良かったね、キャタリーナ。君は嫌われてなんかいないんだよ」


「うん……うんっ」


目に涙をため、それでも幸せそうに笑う少女。


「あのさ……」


タオが一歩前に出る。


「すごい今更だが、あの時は悪かったな」


キャタリーナに会ったら謝ろうと思っていたが、そんな雰囲気ではなかった。

だが謝らなければ気が済まないタオは、今のうちにと謝罪を口にする。


「それはもういい、むしろ私の方こそごめんなさい。それと――ありがとう」


妹を助けてくれて、父を助けてくれて、この想区を、そして私の心を救ってくれて――

満願の思いがつまった一言だった。

その全てが、エクスたちに伝わった。


「それじゃあ、始めるわね」


レイナが声をかけ、『調律』を始める。


『――混沌の渦に呑まれし語り部よ』


『我の言の葉によりて』


『ここに調律を開始せし……』


***


数日後、キャタリーナの結婚式が行われた。

それはとてもドタバタとしていて、見ていた四人は開いた口がふさがらなかった。


「なんだ、あれがキャタリーナの結婚相手か?」


「随分……その、個性的よね!」


褒める言葉がないのか、レイナはなんとかひねり出したがただ虚しいだけだった。


「毒を以て毒を制す、ということですか」


「大丈夫かな」


結婚式の最中に結婚相手にさらわれるようについていくキャタリーナ。

これが彼女の『物語』だとすれば、この先どうなることか。

エクスが心配そうに彼女を見つめると、ふと視線が合った。

するとキャタリーナは今までむすっとしていた表情が緩み、ふっと笑った。

それは一瞬だけで、すぐに視線は移ってしまう。


「お父様! ビアンカの結婚式にはちゃんと帰ってくるから泣かないで待ってて!」


「!」


「なんだ、覚えてんのか?」


「そうね、『調律』しても忘れたくないと思えば覚えているかも」


「……さっき、新入りさんを見て微笑んでましたよ」


鋭い感覚を持つシェインには全て見えていた。


「ホントかエクス」


「え、うん、何となくだけど」


「いえ、あれは完全に覚えてましたね」


きらりとシェインの目が光る。

その発言にエクスを囲んでワイワイと騒ぐ。


「それじゃあ、カオステラーを倒したことだし、次の想区に移動しましょう」


「おう!」


「そうですね」


「うん!」


『空白の書』を持った僕たちの旅は続く。

願わくば、僕たちが関わったことにより彼女の結婚生活が上手くいきますように――

(終)


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