第2話
タオが目を覚ました。
これからの行動と少女に謝る様に伝えると、不満げな顔を隠そうともしない。
「俺、そんな悪いことしたか?」
やはり自覚がなかった。
そのため何故彼女が起こったのか、そして殴られたのか理解できていないようだ。
「……シェインも戦闘で『女のくせに』とか言われたら黙っていられないですよ」
「うっ」
シェインは共に旅する仲間であり、タオの妹分だ。
そこら辺の男より数倍力がある。
それを『女のくせに』と一蹴したら怒るのも無理はない。
「……そうだな、俺悪いことしちまったな」
妹分のことと置き換えて考えると分かりやすかった。
「じゃあ、あの子とカオステラーを探しましょう」
「はい」
「そうだね」
「分かった」
レイナが先頭を歩こうとする。
まずは少女が去っていった方向へ行こうと決めていた。
そっちの方に街がある確率が高いからだ。
「……レイナ」
「ん? なにかしら?」
「そっちじゃなくてこっちじゃないかな」
エクスはレイナが行こうとしていた方向と反対側を指さす。
少女が去っていった方向はエクスが言っている方が正しい。
「あら、そうだっだかしら?」
「そうですよ」
「こんな時にお嬢のポンコツが現れるとはな」
方向音痴の自覚が足りないレイナに、三人は苦笑した。
***
思っていた通り、少女の去った方向には街があった。
まずは今夜の宿を取り、少ない荷物を置いていく。
「じゃあ、カオステラーの情報とあの子の情報を手分けして探しましょう。もし彼女を見つけたら広場まで連れてくること。それと何もなくてもお昼ごろにはこの広場に戻ってきて合流しましょう」
「了解」
「分かった」
「らじゃー」
レイナの指示に三人は返事をし、それぞれ四方へ別れた。
エクスは少女を探すため、聞き込みをすることにした。
「あの……」
「ん? なんだい?」
近くにいた男性に話しかける。
荷馬車に荷を積んでいる最中らしいが、快く話を聞いてくれた。
「えっと、女の子を探しているんですが」
「どんな子だい?」
「髪が長くて……活発?な」
何と表現していいか分からず、言葉をマイルドにして伝える。
活発というより乱暴だが、そこまで言うことは出来なかった。
「それってもしや、『じゃじゃ馬』か?」
「『じゃじゃ馬』?」
聞きなれない言葉に、疑問符を頭に浮かべる。
「なんだ、旅人か? このパドヴァの富豪でバプティスタ・ミノラってのがいる。そいつの上の娘がかなりの乱暴者でな」
話しを少し聞いただけだが、彼女だとすぐに分かった。
「悲しいことにそいつが『主役』だ。父親もあの『じゃじゃ馬』を飼いならせなくてほとほと困ってるとさ」
ふう、とため息をついて首を横に振る。
本当に参っているようだ。
「彼女が主役なんですか?」
「ん? そうだ。だがそろそろ結婚してヴェローナに行くはずだ」
それがこの『想区』の『物語』なのだろう。
彼女が『主役』なら、カオステラーに近い存在かもしれない。
「その子、いつもどこら辺にいますか?」
「どこってそりゃ、そこらじゅうしょっちゅう見かけるよ」
じゃじゃ馬だからな、と豪快に笑う男性。
「ええと……彼女がよく行く場所とか」
「ああ、そういえば最近だと、近くの森か街の反対側の外れに一人で出歩いてるみたいだな」
森、とは最初に会った森だろう。
よく行くというのは、ヴィランを倒すためだろうか。
考え事をしているエクスに、男性は何かを察して茶化す。
「アンタじゃ『じゃじゃ馬』にゃ勝てねぇよ、大の大人ですらコテンパンにされるからな」
「え、あはは……」
曖昧に笑ってその場を濁す。
既に仲間の一人がやられているため、彼女と戦おうとは思っていない。
「お話ありがとうございます」
「いいってことよ」
手を振ってその場を去る。
「(さっき森にいたから、街の外れの方かな?)」
エクスはそちらに向けて歩み始めた。
***
街はずれは荒野になっていた。
人や馬車が通る道だけ草は生えていなく、一本道が続いている。
この道をずっと辿るとヴェローナに着くらしい。
エクスは辺りをきょろきょろと探す。
「! あれは……ヴィラン!?」
遠くの方にヴィランの姿が見えた。
気づかれないよう、けれども急いで近づく。
「!」
エクスの視界に、あの時の少女が映った。
またヴィランと戦っている。
だが、今回は少し違う。
「くっ……」
ヴィラン相手に手こずっている。
それもそのはず。
今回戦っているヴィランは盾を持っている。
そのため防御力が高く、少女の攻撃が殆ど通っていない。
「(僕も……)」
手伝おう、と栞を手にする。
しかしふと思いなおす。
森の中でのことを思い出し、少女の前に顔を出す。
「あ、あの!」
「なに!?」
「えっと、僕も手伝っていいかな」
前は勝手に手伝ったから怒ってしまった。
そのため今回は正面から許可を貰おうと思った。
「っ! ……好きに、しなさい!」
少女はあまり余裕がない様子。
エクスはディフェンダーの栞を取り出し、運命の書に挟んだ。
***
「これで全部かな」
エクスが加わったことにより、素早くヴィランを倒すことが出来た。
少女はエクスを睨むように見つめ、はっとひらめく。
「思い出した、アンタさっき森であったヤツの仲間ね」
「あ、うん。あの時はごめん」
反射的に謝る。
少女は怒ろうとしていたのに行き場を無くし、それ以上文句が言えなくなってしまった。
「……別に、アンタに何かされたわけじゃないし、アンタに謝られる筋合いはない」
「でも僕の仲間が君を怒らせちゃったから、ゴメン」
頭を下げて謝るエクス。
その様子に何故かふんっと言う様にそっぽを向く。
正面切って男性から謝られたことがないため、少女はどうしていいか分からなかった。
「そういえば自己紹介もまだだったね。僕はエクス、よろしく」
「……キャタリーナよ」
まだ少し不機嫌そうなまま、けれど会話をする気はあるようだ。
「ねえキャタリーナ、少し聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「最近変わったことって何か起こってない?」
「変わったこと……この化け物が出るようになったとか?」
地面に倒れているヴィランを指さす。
「そう! 何か知らない?」
「別に……ここ一週間くらい前から出始めたってことしか知らないわ」
「そっか……それじゃあ、どうしてキャタリーナはヴィラン……その化け物を倒しているの?」
エクスの質問に、ふんっと嘲笑する。
「そんなの、ただのストレス発散に決まってるじゃない」
「……え?」
「ストレス発散」
「あ、うん……それだけ?」
「そうよ、お父様にあんまり暴れるなって言われてるからストレス溜まっちゃって」
ふう、とため息をつく。
「そしたらこの変な化け物が出てきて、あろうことかこの私に襲い掛かってくるのよ。これほど最高のストレス発散法は今のところないわね」
きっぱりと言い切るキャタリーナ。
その顔は晴れ晴れしく、まさに今ストレスが発散されたと言わんばかりだ。
まさかそれだけのためにヴィランと戦っているとは思わずエクスはどうしていいか迷う。
「(あ、そういえばもうすぐ集合の時間だ)」
日が高く上り、影が短い。
むしろお昼を少し過ぎたくらいだ。
そのことに気づき、少し焦る。
「あのさ――」
「待って」
広場に誘おうとしたところ、言葉を遮られた。
「アンタばっかり私に質問してずるいでしょ」
「え、あ……ごめん?」
「今度は私が質問する番よ」
悪そうな顔をしながら勝気に笑う。
なんだか嫌な予感しかしないな、とエクスは思う。
「でも僕、ちょっと用事が」
早く広場に戻らなくては、何と言われるか分からない。
「はあ?」
分かりやすく不機嫌な顔を隠そうとしないキャタリーナ。
「……なんでもないデス」
「そう、じゃあ場所を変えましょう」
くるりと踵を返して歩き出す。
その後ろ姿を見て、小さく息を吐き出す。
エクスに拒否権はなかった。
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