第4話 夢の想区

「このまままっすぐ進めば町を抜けて王都。そして大通りに出て北へ向かえば城にたどり着く」


ローブを纏い、二人にぼそぼそと呟くのは国王である。彼の情報から、そのままの姿で町を抜けるのはあまりにも危険と考え、身なりも旅人風に整えたのだ。先を急ぎたい王はずっと城までの順路を復唱している。ローブ姿に小声で呪文を呟く一種の怪しい魔術師のようだ。


「行きたいのはやまやまなんだが、城に行くまでに何とかしないといけないことがあるんだよなぁ」


「姉御がいないと調律できないのです」


本当はエクスのことも気になるが、どうしても必要な人物は調律が可能なレイナの存在だ。彼女がいないとたとえカオステラーを倒せたとしてもこの世界を元に戻すことはできないのだ。この数日、ずっと二人を探していたが、森はもう散策しつくした。もうそろそろ町で合流できるだろうと思い町の中を探す。


「おや?あれは」


森から町に入ったところすぐにある、森から町に続く川のところにいる見知った顔にシェインが気付く。まさかこんなにすぐに出会えると思ってなかったので拍子抜けだが、仲間の無事が確認できたことで安堵する。


「おーい、お嬢ー」


タオが手を上げながら呼ぶと、こちらに気付き駆け出してきた。そして、激突するようにタオの胸に飛び込んだ。衝撃で「うっ」という変な声と共にひっくり返りそうになるが、なんとか耐える。


「うわあぁぁあん!みんな無事でよかったあぁあ!」


周りの目も気にせずわめくレイナの肩に手をやるタオと、背中から抱きしめるシェイン。そして注目を浴びることに焦る国王。4人はそれぞれの思いと共に、しばらくその場で互いの無事を確かめ合った。

落ち着いたのち、話を合わせる4人は次の作戦を考えていた。気がかりなのはエクスの存在だった。レイナを助けたのは間違いなくエクスだ。だが彼はレイナに町までの道を教え、姿を消した。


「どこに行ったのかしら…」


「どこに…というか、どうしてだな。離れなきゃならない理由があったのか?」


「むぅ…」


シェインも考え込む。エクスのことと、そして初弟子のことだ。町で会おうと言っていたからには会えるとは思うが、革命家を名乗るからにはカオステラーと何かしらの繋がりがあるに違いない。もうしばらくこの町でエクスを探すであろうから、それと同時に弟子も探そうと思案する。


「まぁ、この町にもう来てるかもしれねぇ。探してから城に行こうぜ」


「これはこれは『調律の巫女』一行様。お久しぶりですね」


タオの背後から、一行が追いかけてきた人物が現れる。突然の出現に距離をとるタオと、戦闘の構えをとるシェインとレイナ。


「出やがったな…」


飄々とした態度で髪をかきあげながら一行に視線をやるその男は、引き連れた兵士を制止するように手を上げる。


「クフッ、落ち着いてください。今回は私たちの目的は達成されています」


「なんですって!?」


「その反応を見ると、まだ何が起こっているかはわかっていない様子ですね」


「何を言ってやがるんですかね…」


「この想区はいったい何の想区なのでしょうか?それはわかりますか?」


「…『シンデレラ』だろ?」


「え?」


「クフ、クフフ」


「この国王、どこかで見たことがあると思ってたんだよ。シンデレラの想区にいた国王だ。町から仕入れた情報でも、町娘を嫁にもらったとか言ってたしな」


「クフフフ、素晴らしい……といいたいところですが不正解です」


「…なんだっていうの?想区が何の関係があるって…」


「おや、青髪のお方が見当たりませんね。そちらのローブの方は違いますし」


国王の心臓が跳ね上がり、ローブをギュッと握る。


「さて、どこに行ったのでしょう」


「…てめぇ、何が言いてぇんだ」


不敵な笑みを浮かべ一呼吸置く。そしてロキは想区の正体を明かした。


「ここは彼が幼いころに紡ぎだした物語。彼の理想を主人公とした『夢の想区』なんですよ」


「んなっ…」


「エクスの…物語の想区!?」



【回想】

「いえいえ、まずはこの国の…事情を知っておいてもらわないといけませんから…」


兵士たちが道を作るようにその人物をエクスの前まで通す。そして、暗闇の中で話すその人物にエクスは目を見開いた。


「ロキ…」


「お久しぶりですね。私たちを追ってこられたのは知っていましたが、知っていましたか?実は誘かれていたことを」


「なに?」


自分を盾に、シンデレラを背後にやるエクスは本を片手に戦いの構えを見せる。だが、ロキにはその気はないようだった。


「この想区の主人公はだれか知っていますか?」


「…シンデレラがいるってことは、彼女がそうなんだろう」


「クフ、違います。正解はあなたです」


「え?」


「覚えていませんか?あなたが書いた、シンデレラのその後の物語を」


「何を…言っているんだ?」


「ここはあなたによって創造された世界。理想のあなたを主人公とし、そして王を討ち果たす物語」


「!」


「クフ、思い出されましたか。この世界の物語の結末をあなたは知っている」


「…物語自体は王を打倒して終わりだった…はずだ」


「ならばこのままにしておけばどうなるのでしょう。現国王が考える政策を打倒したあなたは、敵国から攻め込まれ、国が飲み込まれる…ということになるのではないでしょうか」


「それは……」


「クフ、クフフ、私たちは運命の鳥籠を脱する手段を知っています」


「……それはっ」


エクスが額に汗をにじませ、頬を伝うものを袖で拭う。シンデレラを一目見ると不安そうな表情を浮かべており、心配そうにエクスの目を見た。エクスはシンデレラを不安に駆らせないために、ロキの話を聞くこととなった。




ロキがこれまであった話を語り終えると、踵を翻して一行に背を向ける。


「とまぁ、お仲間さんがカオステラーになってるとは思いたくないかもしれませんが、あとはお城でお確かめください。では」


「待ちなさ…」


追いかけようとしたが、ロキは暗闇に吸い込まれるように姿を消す。一瞬の出来事に、強くこぶしを握り、くやしさをあらわにする。


「ロキ…」


「お嬢、急ごうぜ。奴の話が本当なら、城にいるのは間違いなく坊主だ。早くやめさせねぇと」


「ですね、正義の味方が悪に染まっているなんてことはあってはならないのです」


意気込むが、行く手を阻むのは操られた兵士たちだった。3人は即座にヒーローとコネクトすると兵士たちを圧倒した。ロキの話を認めたくはなかったが、個々に現れるヴィランたちがタオ達の苦手とする種類のヴィランだったことなども、エクスがカオステラーであれば説明がつく。今は3人いるため対応が可能であり、問題はない。そのため、戦闘も速やかに終了する。


「他愛ねぇ」


「さぁ、レッツゴーです!」


戦闘終了と共にシェインがコネクトを解いた瞬間、背後に倒れていた兵士が立ち上がり、斬りかかってくる。対応が遅れ、防御も助けも間に合わない。


「っ!」


ガアァン!大きな音と共に、兵士が倒れる。何者かに頭を打ち抜かれた兵士が崩れ落ちる。


「なに!?」


レイナが周りを見回す。すると―――可愛らしい少女が銃を片手にテテテッと駆け寄ってきたのだ。


「師匠!ご無事ですか!」


「おぉ、我が弟子よ!」


拍子抜けたレイナとタオは、駆け寄ってきたその子の頭をなでているシェインに唖然とした。


―――ややあって、シェインの弟子1号が笑いながら挨拶をする。


「初めまして!ちょっと前にシェイン師匠の弟子になったものです!」


「あぁ、聞いてるよ…ところで、さっそくだが聞きたいことがある」


「ハイなんでしょう!兄貴ッ!」


「……」


「ちょっと、なに顔赤くしてんですかタオ兄」


「い、いや、ちょっと」


幼さの残る子から元気よく兄貴と呼ばれてちょっとかわいいと思ってしまったタオが気を取り直して弟子を見る。キラキラと輝く目をしながらタオに向けられる視線は、再びタオの視線を逸らさせる。


「えーっとだな、お前さんは自分を革命家と言っていたらしいが、今の国王…革命軍とかかわりはあるのか?」


そういわれて、弟子は考える。


「うーん、ボクの『運命の書』に書かれてたのは、確かに王を打ち取ることが書かれてましたけど…」


ぺらぺらと自分の書を読み返す弟子は考えながら話している。


「あれ?国王を倒すのはエクスじゃなかったっけ?」


「えっ、あっ、あの…ボク…と、そう、革命軍で打ち取るってことですよ。アハハッ」


「つまり、本来のエクスの革命軍の一員だったってことか。すまんが、今から打ちに行くのは王じゃなくて革命軍のリーダーってことになるが、大丈夫だな」


「はい!師匠や兄貴についていきます!全力で!」


目をキラキラとさせてタオを見る。そのまぶしさに目がくらむタオ。

そして事の経緯を話したうえで、ともに城に向かうこととなった。


「ねぇ、シェインの弟子って言ってるけど、そろそろ名前聞かせてもらえないかしら」


「名前ですか!マキナって言います!よろしくです姉御!」

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