第2話 再開を目指して

レイナは森を歩いていた。タオには方向音痴と罵られていたが、自分はそうは思わない。自分は方向音痴なんかじゃない。人より少しだけ、ほんの少しだけ…違う道が好きなだけなんだ。


「…ごめんなさい、方向音痴です」


自分の考えに、思わず誰もいない中で謝ってしまった。


この想区に入ってすぐにメガ・ヴィランの群れに襲われ、エクスを鳥型のヴィランにさらわれた。そして自分たちも同様に怒涛のメガ・ヴィランの群れに成すすべなく引き離されてはぐれてしまったのだった。目の前の敵を倒すことに必死になった結果だ。敵の作戦は見事に功を成していた。


「みんな、無事だよね…」


仲間とはぐれてはや10日。森をさまよい、いつまで経っても人里にたどり着けない。ここまでくればこの迷子の能力もある種の才能ではないかと錯覚する。


「じゃなくて、本当にどうにかしないと…」


仲間を探そうと森の中を散策するが、ヴィランが現れては応戦する日が続いていた。1人では寝込みを襲われる可能性もあったため、ちゃんと休める暇もなく疲労はもう限界に近い。


バキッ―――。


物音に、条件反射に近い反応速度で構えをとった。


「ったく…本当にこっちの都合は考えてくれないのね…」


ヴィランが数体現れる。メガ・ヴィラン出ないことが救いではあるが、疲労困憊なレイナにとって窮地であった。


「とっとと片付けてやるわ…」


強がるが、身体は戦いを拒むように動いてくれない。そう言っていられない現状だが、それほど疲労している。


「クルル」


(逃げるしかないか…でも、逃げ切れるか…)


まだ導きの栞を使う余力はある。しかし、体力的にここで戦ったら後がないとレイナは危惧していた。


(ここを乗り切っても、次に敵が来たらアウトね…)


「クルルッ!クルルルッ!」


「って、考える暇も与えてくれないのね!」


「あらよっと」


ズシャッ――。背後からの何者かの一撃に、ヴィランの1体が崩れ落ちる。


「!?」


「お嬢さん1人に群がるなんて、紳士のすることじゃないっすねぇ。多勢に無勢、力を貸しますよっと」


「あ、アラジン!?」


突如現れたアラジンはそういうとヴィランを掃討し始める。ヴィランも挟み撃ちの状態に、アラジンかレイナ、どちらに立ち向かうか混乱した動きを見せる。


(アラジン、ってことはここは彼の想区?いえ、でもここは砂漠じゃない…それじゃあ…)


「クルルッ!」


「っ、考えるのは後にしなきゃ…」


導きの栞を使い、自身もヒーローとコネクトする。


アラジンは軽快な動きで敵の攻撃をかわし、次々とヴィランを倒していく。


(ここはアラジンの想区?でも砂漠じゃないし…だとすると…)


「おわっ!」


バランスを崩したアラジンに、背後からヴィランが襲い来る。


「危ないっ!」


「!」


バシュッ――――。ザンッ―――。


アラジンの姿は一瞬にして消え去り、大剣を携えた優男へと姿を変える。ヴィランの攻撃を大剣で受け止めたその帽子屋は、宙に浮かせたそれで背後のヴィランもろとも周囲の敵を薙ぎ払う。


「ヒャッハーッ!」


狂った声をあげながらヴィランを一掃する帽子屋は、嬉しそうに敵を屠っていく。

唖然とみているレイナに、帽子屋は目線を移して屠る嬉しさの表情とは違う微笑みを浮かべる。


戦闘が終わり、帽子屋は自慢の帽子を整えてレイナのもとに歩み寄る。


「エクス、無事だったのね!」


レイナが帽子屋に飛びつく。帽子屋は慌てた様子もなくレイナの頭をなでる。


「心配したんだから…」


「ここからまっすぐ、川に沿って歩いていくといい」


帽子屋はそういいながらそばを流れる川を指さす。


「え?エクス、何言ってるの?」


「しばらくゆっくり休んで、それから行くといい」


そう言われ、レイナの鼻元をあまい香りがくすぐる。それと同時に視界が歪み、意識が遠のく。


「エク…ス…」


安心と疲労、そして帽子屋の手元にある香草から漂うあまい香りにレイナは完全に意識を消失させる。


「おやすみ…川に沿っていくだけだから、道に迷わないようにね」



―――レイナが目を覚ましたのは、一夜明けた朝のことであった。

かけられた毛布を手にあたりを見回すが誰もいない。

少し前まで誰かがいたと思われる焚火の跡と、ヴィランと交戦した跡があった。

そしてしばらくしてレイナは彼の指示に従い川を下っていった。

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