第1話 想区での再会
それは、どこか遠くにある記憶
「ボクはこの物語に幕引きをするために存在するんだよ」
「この悪夢を終わらせよう」
そのコは言った。
誰だろう…
誰かはわからない。
でも僕は、このコを知っている…
――――沈黙の霧を抜け、エクス一行は森に出てきた。もうすぐ夜なのだろうか、日が沈みかけていた。
「っと、ようやく抜けたな。ここが次の想区か」
タオがあたりを警戒しながら武器に手をかけている。
「カオステラーの存在は…まだないわね」
「カーリーとロキが入ってきた想区だし、またカオステラーが出てくる可能性は高い」
いつものカオステラーの気配を辿っての想区巡りとは違い、今回はカーリーとロキを追っての想区への侵入であった。目的はカオステラーを作り出す、彼女たちの行動の阻止。それができれば悪夢が生まれることもなくなる。
「いつもどおり、この想区の事情把握から始めないとですね。まずはこの道を抜けてどっかの村に着けるといいのですが…」
「今度は何の想区だろう…」
エクスはそう言いかけて、何か気づく。懐かしい、その違和感に。
「ゴオオオォォオン!」
「っ!?」
叫び声にも似た、何度も聞いたことのある敵の声が一行に緊張感を与える。全員、すぐに『空白の書』を取り出す。
「ったく、毎度毎度飽きもしないでやってきやがる」
タオの愚痴の横で、エクスも気を取り直して周囲を警戒する。そして現れるヴィラン、そしてその後ろに大きな姿の群れを確認する。
「ちょっと待って、なんかいつもと違うような…」
「あれは、メガ・ヴィランの群れですか」
「おいおい、結構な数だぜ、厄介な…」
「仕方ないですね、ちゃっちゃとやっちゃいましょう」
いつものヴィランの群れ。ヴィランは想区の住人の『運命の書』が、カオステラーに書き換えられた姿。この想区にまだカオステラーがいないというレイナの言葉を信じるなら、このヴィランたちは間違いなく彼女―――カーリーたちの差し金だろう。
「おおぉぉ!」
ズシャッ―――。
みんなが力を合わせてヴィランを倒す。長い間に培った力は、メガ・ヴィランであろうと、ものともしないものに成長していた。この強力な敵にも立ち向かえる力を手にしたことに、エクスは過去の自分の思いを叶えられたことを実感する。
「なんか今回のヴィランの様子、おかしいですね」
「確かに、襲っては来るけど、何かを狙っているような…」
そう言った瞬間、新たなるメガ・ヴィランが姿を現す。鳥型のヴィランがエクスの肩をつかみ、宙へ舞った。
「しまっ…」
「新入りさん!」
慌ててシェインが弓を向ける、しかし他のヴィランの死角となり、阻まれる。
「このっ…」
剣を振りかざし、鳥型のヴィランを斬りつける。一瞬バランスを崩すも、斬りつける手に力が入らなかったためか鳥型のヴィランは無視するように飛び続ける。再び斬りつけようとするが大きく揺らされたことでうまく当たらない。そうこうしているうちに、レイナたちの姿が小さくなってきた。
(このヴィランたち…僕たちの分散を図っている!?)
「エクスーーーッ!」
「みんなっ…!」
焦れば焦るほどに攻撃は当たらない。そして、エクスはみんなとはぐれることとなった。
――――エクスが目を覚ましたのは目を凝らしても先が見えなくなるほど、夜が更けた頃であった。
(僕は…)
頭を押さえながら、必死に思い出す。あれから鳥型のヴィランを何とか倒した後、追いうちのようなヴィランの出現に応戦し、最後の1匹を倒し終えた際に力尽きたのだった。
(そうだ…みんなと合流しなきゃ…)
やがて目が暗闇に慣れてくる。身体は軋み、疲労はあるが思ったよりダメージは少ない。灯りは周囲の敵に気づかれる恐れがある。エクスはそう考え、宵の道を手探りしながら進むことにした。
(みんなは無事かな…。あれからどれくらいが経ったんだろう…)
考えてみればヴィランとの交戦後より記憶がない。身体の軋みやダルさからして、もしかしたらまる一日寝ていた可能性もあった。
(もしまる一日寝ていたんだとしたら、急がないと…)
繁みに隠れながら、辺りを見回す。鳥の鳴き声以外音はなく、危険な気配は感じない。しかし、エクスはそれ以上にとある違和感を感じていた。
(この森の匂い、それにこの道…もしかして…)
知っている。エクスはその森が懐かしいものと認識していた。
ガサガサッ―――。物音に反応し、とっさに木の陰に身を隠す。敵意や殺意などは感じられないことから敵ではないと思われた。その物音からは何かから逃げるような焦燥が感じられた。
「ハァッ、はぁっ」
息を切らせながら、走ってくるのは1人。どうやら若い女のようだ。確認できる範囲内では追手と思われる敵はいないようだが、逃げるように急いでいる。目を凝らし、よく見ると髪は長く、ドレスを纏っている。身なりを察するに、それなりに裕福な人のようだった。敵ではないのなら事情を聴くのも悪くない、とエクスは声をかける。
「ねぇ、君っ!」
いきなり声をかけられた相手は驚いたように立ち止まり、一瞬だけ警戒する。暗闇で顔ははっきりと見えないが、思った通り貴族のようだ。
「助けてください!」
「どうしたの?」
敵でないと思ったのか、女がエクスに飛びついた。疲労困憊だったのだろう、身を任せるように身体を預けてきた。
「いま、お城が大変なことに…」
「城?え?ちょっと待って…」
身なりは変わり、香水を使っているのか纏う香りも以前とは違う。あの頃とは違った雰囲気はあるがこの声をエクスが聞き間違うことはなかった。
「シンデレラっ!?」
「…エクス?」
暗闇の中で2人は顔を合わせる。間違いない、離れた期間は長く、変わったものも多くあるが、お互いに幼い頃から見知った顔だ。
「エクス!」
怯えを忘れ、今度は嬉しさのあまり抱き付くシンデレラ。エクスもそれをしっかりと受け止めた。
「シンデレラ、どうしたの?」
しばらくして、落ち着きを取り戻したシンデレラは今起こっていることをを話し始めた。
「あのね…私、王子様と結婚した後、王妃としての執務を勉強してたの。初めは慣れるのに大変だったけど、それにも慣れてきて今はそれなりに王妃としての振る舞いができるようになってきたの」
「うん…」
王妃になってからのシンデレラの話を聞いていると、エクスは本当に遠い存在になってしまったことを実感する。
「それで、何から逃げてたの?」
「…王妃として仕事の内容がわかるようになって、王子様—――今は国王様ね…暴政を企ててることがわかったの」
「なんだって!?」
「それを知ってしまった私はどうしたらいいのかわからなくなって、しばらく部屋に閉じこもったわ。そうしている間にも、国王様の計画はどんどん進んでて…誰かにこのことを伝えないといけないと思ってお城から逃げてきたの…」
「…急いでたところをみると、誰かに追われてた?」
「うん…。これでも私は王妃だし、兵士たちが国中を探し回っているわ」
「なるほど…」
エクスはうつむくシンデレラを見ながらそっと肩に手をやり、王子、国を相手に自分に何ができるんだろうと考える。
「あれ?」
エクスは思い出したように、間が抜けたような声をあげる。それは、自分がこの先、どうすればいいのか、何が起こるのかがわかるかのように錯覚する。
「ようやく見つけましたよ」
「!?」
自分を盾に、シンデレラを後ろにして剣を構える。先ほどまで一切の気配がなかったはずなのに、いつの間にか明かりもともさない兵士たちがエクスたちを取り囲んでいた。
「人探しに明かりもともさないなんて、おかしな兵士だな…」
「いえいえ、まずはこの国の…事情を知っておいてもらわないといけませんから…」
兵士たちが道を作るようにその人物をエクスの前まで通す。そして、暗闇の中で話すその人物にエクスは目を見開いた。
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