Episode 3 疑惑
一同は城に戻り、今は大広間に用意された豪華な食事にありついていた。
きらびやかな部屋に大きなシャンデリア。奥にはガラスの靴が飾られていた。
白いテーブルクロスが敷かれた上には彩り豊かな果物、こんがり焼かれた肉、湯気がたち食欲をそそる香りのスープなどが並べられている。
国王はグラスに葡萄酒を注ぎ、四人と楽しそうに話していた。
「そうか、君があの不思議な力が使える栞の持ち主か」
彼は、先の戦いで見た不思議な力のことをレイナに聞いていた。
「その力で、カオステラーとやらを倒して世界を救っているわけだな」
「はい。そして、調律を使って、想区と呼ばれる世界を元に戻しています」
「だから、彼女は調律の巫女って呼ばれてるんだ」
タオが横から口を挟んできた。
「皆、空白の運命の書の持ち主なのだな?」
一同は頷いた。
「そうか。エクスだけかと思ったが。他にもいるのだな。安心した。エクスが一人じゃないとわかって。本当に良かった」
しばら五人は食事を楽しみ、エクスとジェイクは昔話に花を咲かせた。
食事もひと段落したところで、ジェイクは宰相を呼び、指示を出した。
少しすると、清楚できれいなドレスを身にまとった美しい女性が現れた。
「シンデレラ……」
エクスは思わず言葉に出してしまった。
ジェイクの傍らに来た彼女をみんなに紹介した。
「彼女がこの国の女王、シンデレラだ」
そう紹介されると、彼女は片足を斜め後ろの内側に引きながら、もう片方の足の膝を軽く曲げて挨拶した。
「皆さま、この度は王国の危機を救っていただき、誠にありがとうございます。皆さまの許す限り、ごゆっくりとお過ごしください」
透き通ったやさしい声で、それでいて凛とした姿は、エクスの知っている昔のシンデレラではなく、まさに女王足るものだった。
「シンデレラ、彼が私の旧友であり、親友のエクスだ」
ジェイクは、シンデレラの挨拶が終わると、エクスを紹介した。
「そうでしたか。シンデレラと申します。以後、お見知りおきを」
エクスに改めて挨拶をしたシンデレラだったが、彼を覚えている様子は全くなかった。
「あ……はい。よろしくお願いします」
エクスはシンデレラが自分のことを覚えていないショックと動揺で歯切れの悪い返事となってしまった。
「しっかし、エクスも人が悪いよな。王様が知り合いだったら早く言ってくれよ。おかげで半日牢獄暮らしだったぜ」
タオはエクスの事を気にかけて、話題を逸らそうと話し出した。
「ほんとよね。おかげで、飢え死にしそうになったんだから」
レイナが冗談とも本気とも取れる言い方をした。
「あ……うん。ごめん、ごめん、彼と遊んだのって子供のころで、その頃は王子だってこと知らなかったから……」
エクスは突然の振りにどぎまぎしてしまったが、何とかその場を取り繕った。
ジェイクがエクスを一瞬威圧的な目で凝視していたことは誰も気づかなかった。
すぐに笑顔になったジェイクは立ち上がり、四人に労をねぎらった。
「さあ、今日はずいぶん疲れたであろう。各々の部屋を用意してある。何かあれば、使いの者に言ってくれ。レジスタンスのアジトが見つかれば、またその力を借りねばならん。それまでは、ゆっくり休んでくれたまえ」
そう言うと、彼は大扉に向い、四人を見送った。
四人はジェイクに礼を言い、それぞれ用意された部屋へと向かっていった。
外は雨が降り出していた。
エクスは眠れず、窓越しに降り注ぐ雨を眺めていた。
ジェイクの事、シンデレラの事、レジスタンスの事。
いろいろな考えが巡っては消えていった。
彼は夜風にあたるため、廊下を挟んだ向かいのバルコニーに出た。
「ジェイク……君は一体……」
静けさの中、独り言を呟き、エクスはため息をついた。
「何か悩み事でもあるのですか?」
不意に声を掛けられ、驚いたが、それが優しく透きとおった声の持ち主だとすぐにわかり、ゆっくり振り向いた。
「シンデレ……いや、女王様」
シンデレラを見てエクスは話を続けた。
「はい。いろいろ考える事があって……」
「そうですか……あまり無理をなさらないで下さいね」
「ありがとうございます」
彼女の気遣いが、エクスにはとてもうれしく、心が癒される気持がした。
少し沈黙が続いたあと、シンデレラは重い口調で話し始めた。
「実は、エクス様にお願いがございます」
「お願い……ですか……?」
「はい……。ジェイク様の事です。あの方が国王になられてから、ずっと何かに脅えているようなのです。初めは、悪い夢でも見てるのかと思ったのですが、最近なって、独り言も多くなり、幻覚さえ見えているようで、日に日に症状はひどくなる一方なのです。何に脅えているのか私にさえ話してもらえず、どうしたら良いか困っております。親友であるエクス様なら、もしかすると何か打ち明けてもらえるのではないかと思い、お話し致しました。お願いです。どうか、あの方を苦しみから救ってくださいませ」
シンデレラは潤んだ目でエクスを見つめていた。
その表情からジェイクを心配することが見てわかったエクスは、彼女に聞いた。
「女王様は……ジェイクの事をどう思っていますか? この国の事、今のこの世界の事をどう思っていますか?」
シンデレラは思いもよらない問いに少し戸惑いながらも、目を閉じてゆっくりと答えた。
「あの方はとてもやさしく、いつも国民の事を考えて、何よりもこの国がもっと良くなるように努力をされています。私はそんな国王の事を誇りに思い、そして、愛しています。この国も、この世界も……大好きです」
シンデレラは言い終わると澄んだ目でエクスを真っすぐ見つめた。
エクスは彼女の眼を見て感じていた。
この世界は本当にカオステラーが支配している世界なのか?
彼女が幸せそうに話す姿が今のこの世界の全てなのではないのか?
そう思えてならなかった。
しかし、カオステラーは確実にいる。それが、レジスタンスなのか、それとも他にいるのか。
脅えていたジェイクの事も気になる。
いくつもの問題を考えながら、フッとシンデレラに目をやると、そこには心配そうに見つめる彼女がいた。
エクスは一つ、心に決めた。
何があっても彼女を不幸にしてはいけないと。
そして、彼女に返事をした。
「女王様の幸せな姿を見て、安心しました。その願い、お引き受け致します」
エクスはそう言いながら、女王様に忠誠を誓うように、片方の膝を折り、もう片膝を地面につけ、お辞儀をした。
いつの間にか雨は止み、厚く折り重なった雲は流れ、無数の星と輝く月が夜空を照らしていた。
中庭には月の光が降り注ぎ、濡れた草木がキラキラと輝き始めた。
澄んだ空気がその輝きに美しさを与え、心地よい風が草木を揺らす。
そこはまるで、妖精たちが踊る幻想的な世界に舞い降りたようだった。
「まぁ、なんてきれいなんでしょう」
中庭の美しさにシンデレラは思わず感嘆の声をもらした。
「ほんと……とてもキレイだ……」
エクスは月の光に照らされたシンデレラを見て、思わずその言葉を口にしてしまった。
シンデレラはエクスに向かって笑顔を見せたが、その言葉の意味に気づくこともなく、しばらくの間、二人は幻想的な庭を眺めていた。
翌朝、昨夜とは別の広間で朝食をとっている一同に、慌ただしい動きがあった。
宰相は広間に入ってくると、ジェイクの傍で立ち止った。
「どうした。朝から何を騒いでいる」
宰相はジェイクに耳打ちしようとすると、その場で公表せよとジェイクが指示した。
「ハッ、つい先ほど、捜索隊からレジスタンスのアジトを突き止めたという報告がありました。如何致しますか?」
「そうか。ならば放っ置くわけにはいくまい。すぐに討伐の準備をせよ」
宰相に指示を出した後、ジェイクはエクス達を見回した。
四人もジェイクの顔を見て、頷いた。
すぐに、部屋へ戻り準備を済ませた四人は、入口中央の石畳に集まり、国王軍が出発するのを待っていた。
「いよいよカオステラーとご対面ってわけか。腕が鳴るぜ」
タオはレジスタンスのアジト討伐に気合を見せていた。
「結局、カオステラーの狙いはわからなかったけど、まぁ、いいわ。早く、この想区を元に戻して、次の想区に行かないとね」
レイナはすでに他のカオステラーの足取りを気にしていた。
国王軍がジェイクの号令と共に進軍を始めたころ、すでに太陽は真上まで来ていた。
思いのほか時間がかかったのは、ジェイクに例の発作が出たためだった。
ジェイクの傍らには、エクス、レイナ、タオ、シェインの四人もいる。
また、遠く離れた場所では、側近と近衛兵に囲まれたシンデレラがいた。
彼女はジェイクの発作がどうしても心配で、彼らに内緒でついて来たのである。
一同は城下町を抜け、畑などが目立つ農村地帯に出た。
「こんなところにレジスタンスのアジトがあるのか?」
タオは意外といった感じで、辺りを見回した。
彼の想像では、人里離れた場所で待ち構えていると思っていたため、少し肩すかしを食らった感じだった。
しばらくすると、農家が立ち並ぶ村に入った。
村の奥へ進むたび、ジェイクの具合は悪くなる一方だった。
平静を保とうとしているが、顔が少し青ざめている。
エクスはジェイクの具合が気になっていたが、それ以上に今進んでいる方向が気になっていた。
「このまま進めば、その先には……。まさか……」
国王軍は村の中心から少し離れた民家の前で止まった。そこには十軒ほどの家が密集しており、その中の一軒を軍が取り囲んでいた。
周辺の住民が何事かと家から顔を出したが、国王軍の異様な雰囲気に慌てて家の中へ隠れてしまった。
辺りは静寂に包まれ、空気が重かった。
「これでレジスタンスも終わりだな」
ジェイクは顔を青ざめながら言った。
そして、腰に差していた剣を抜き、切っ先を真上に上げると、前へ振り下ろした。
突撃の合図と同時に、兵士たちは扉を蹴破り、家の中へ勢い良く入っていった。
それからしばらく経っても進展が無いことにジェイクは苛立っていた。
「何をしている。レジスタンスのリーダーはまだ見つからないのか!」
隊長に問いだたしたが、良い報告はなかった。
「申し訳ありません。家の中を隈なく探しているのですが、中はもぬけの殻となっており、人がいた形跡がありませんでした」
「何だと!ここがレジスタンスのアジトではなかったのか!」
ジェイクの怒号が辺りに響いた時、一軒の家から一人の男が現れた。
男はニヤついた顔で、手を振り上げ、前に振り下ろした。
その瞬間、周辺の家々からヴィランが奇声を上げて飛び出してきた。
気付けば、国王軍がヴィランに取り囲まれている状態だった。
「ヤバイな……」
タオは一早く状況を理解し、冷静に判断した。
そして、包囲の一番手薄な場所を確認すると、書と栞を手にした。
両軍の数はほぼ互角だったが、奇襲をかけたレジスタンスにかなり分があった。
じわりじわりと包囲を狭ませ、逃げ場を無くしていく。
国王軍はレジスタンスの奇襲で混乱の最中にいた。
ジェイクもまた、その混乱に巻き込まれ、動くことが出来なかった。
「このままじゃ、確実に殺られる。とりあえず、退路を確保するために後ろの敵を蹴散らすぞ!」
タオの一声で四人は書に栞を挟み、光に包まれたまま敵の中へと切り込んでいった。
ジェイクも、国王軍も、混乱で動けない今、味方はタオ達四人のみ、一方敵は数十匹。圧倒的に不利な状況でも彼らは怯まなかった。
タオが盾で受け止め、隙が出来たところにエクスの剣撃。
シェインが矢の嵐で周りの敵を足止めすると、レイナの魔法で一気に敵を吹き飛ばした。
鬼神の如く蹴散らしていく四人にレジスタンスは成す術もなく、消えていく。
ジェイクも残っている国王軍を引き連れ、退路を確保したタオ達に感謝しつつ、村の中心まで戻ってきていた。
国王軍が体制を整える中、前線ではレジスタンスとにらみ合いが続いている。
やがて、レジスタンスの中からリーダーが姿を現した。
「ジェイクよ。そんなに俺が憎いか! ならば、望み通り正々堂々勝負してやる。俺は逃げも隠れもしない。さぁ、かかってこい!」
レジスタンスリーダーが挑発ともとれる言葉にジェイクも反応した。
「望むところだ!」
そう言うと、国王軍に向かってジェイクは叫んだ。
「よいか! 今から何人たりともこの者への手出しは許さん。この私が倒れるか、奴が倒れるか、どちらかの死をもって勝敗とする」
彼はリーダーに向きなおり、剣を抜き構え、また、リーダーもジェイクへ近づき、二人の決闘が始まった。
「いくぞ!!」
掛け声と共に、切り込んでいくジェイク。
寸ででかわすリーダー。
互いの剣技が体をかすめ、頬を切りさき、剣と剣がぶつかり合い、火花を散らしていた。
しかし、ヴィランはジェイクの隙を見て、じわじわと近付いている。
それを見たエクスは真っ先にヴィランへ向かっていき、国王軍に協力を求めた。
「ジェイクが戦っている間、ヴィランを彼の周りに近づけさせないようにしないと。みんな、力を貸して!」
エクスの声が戦場に響き渡った。
国王軍も、エクス達も、ヴィランをジェイクに近寄らせまいと懸命に戦っていた。
激しく打ち合う二人は、いまだ勝負がついていない。
もうどれくらいの打ち合いがされているのだろう。二人が肩で息をし始めた時、遠くで光るものをエクスは見逃さなかった。
ヴィランが矢を構え、今まさにジェイクを狙って矢を放とうとしていた。
「危ない!!」
エクスは叫ぶと、飛んできた矢の軌跡を読んで払い落した。
時間が止まっているようだった。
矢を払った瞬間、ジェイクもリーダーも、不測の事態に互い動きを止めエクスを見た。
が、次に時間が流れ出した時には、相手を仕留める一撃を同時に繰り出していた。
交わり、すれ違う二人。
互いの一振りが一つの命を奪った。
数歩進み、崩れゆくリーダー。
片膝を地につけ、剣で倒れることを防いでいるジェイク。
勝敗は決まった。
残党は散り散りになり、国王軍は勝利の声を上げた。
ジェイクに駆け寄るエクスはリーダーの顔を見て驚いた。
「この人って……」
エクスは驚いたまま、ジェイクの後ろ姿を見つめていた。
国王軍は勝利の余韻に浸りながらも、戦闘で傷ついた兵士と共に帰還、ジェイクも先の戦闘で負傷したため、すぐに城へ運ばれていた。
四人も国王軍に遅れながら、城へと急いだ。
途中、シンデレラを見かけたエクスは声をかけようとしたが、ジェイクの容体が気になり、そのまま城へと急いで戻ってしまった。
「女王様、いかがされましたか?」
側近は彼女の様子がいつもと違うことに心配していた。
先の戦闘の影響なのか、近くの風景を見て呆然としていた。
「女王様……女王様! お気を確かに!」
側近の声が大きくなると、シンデレラはハッと我に返った。
「大丈夫でございますか?」
心配している側近にいつもの笑顔で彼女は答えた。
「はい。大丈夫です。ここは、被害が無くて良かった……」
そう言うと辺りを見回して、歩きだした。
「少し、この辺りを見て回りたいのですが、よろしいですか?」
シンデレラは側近に伝えると、そのまま街並みを眺め始めた。
やがて、一軒の家を見つけると優しい目でその家を見つめていた。
彼女は窓際に行き、中をのぞいてみたが、 部屋は暗く、よく見えないようである。
玄関へまわり、ドアノブに手をかけたとき、傍にいた側近から呼び止められた。
「女王様、勝手に人の家に入るのは如何なものかと……」
「……大丈夫です。ここにはもう……人は住んでいません」
そう言って中に入っていった。
中は埃っぽく、もう何年も人が住みついていないことが見て分かった。
それでも、シンデレラは懐かしそうに部屋の中を眺めていた。
一通り見て回ると、側近にこの家のことをお願いしていた。
「この家を急いで掃除してもらえますか? なるべく早く。人が住めるくらいで構いません。お願いします」
そう言うと、外に出て、街並みを眺めながら、城へと戻っていった。
辺りは夕日が眩しく、すぐに日が暮れようとしていた。
城に戻ったエクスはジェイクの様子が気になり、王室手前の控えの間にいた。
一方、レイナもあることが気になって、自室で一人考え込んでいた。
「いやー、それにしても王様の一撃はかっこよかったな」
レジスタンスリーダーとの決闘で見せた最後の一撃を振り返って、タオはシェインと自室付近にある談話室で話をしていた。
「そうですね。王様の剣さばきはなかなかのものでした。それに、手にしていた剣もなかなか……。そもそも、ここのお城には興味のそそられる品々が多く、一度武器庫を拝見させてもらいたいと思っていました。出来れば今度、王様にお願いして見せてもらいたいですね……」
シェインの武器マニアのスイッチが入った時は、誰も手がつけられない。
おそらく、この城の武器庫に入ったら、2~3日は出てこないだろう。
「ウフ……。ウフフ……」
妄想中のシェインの雰囲気に近寄れなくなったタオは、エクスに王様の様子を聞きに行った。
「王様の様子はどうだ?」
「あ……、うん。大したことなさそうだよ。ただのかすり傷だって。大事をとって、今は休んでいるみたい」
「そうか。よかったな」
タオはエクスの肩をたたき、満足そうに頷いた。
だが、エクスは何かを考え込んだまま、再び黙ってしまった。
「後は、ここを調律して元に戻すだけか」
タオはそんなエクスの様子を気にもせず、これからの事をいろいろ考えていた。
そこに、レイナとシェインが二人の元に現れた。
「二人ともちょっといいかしら。調律の事なんだけど……」
レイナ声にタオが反応した。
「どうした?」
レイナは言い出し難そうに続けた。
「あのね……。調律が……出来ないの……」
「な……どういうことだよ!」
タオが驚いて声を上げてしまった。
「わからないわよ!あれから、何度も試したのよ?でも出来なかったの……」
レイナは不安と混乱で泣きそうになっていた。
「それにカオステラーの気配なんだけど、リーダーが倒された後も、気配が消えなかった。今もかすかに感じるの……」
「どういうことだよ……」
「では、他にカオステラーがいるってことですね。姉御」
「うん。たぶんね」
三人が話している中、エクスは思い立ったように、走り出した。
「おい、エクス!どこ行くんだよ!」
「ゴメン。ちょっと確かめてくる」
タオの呼びかけに、エクスは走りながら答えた。
「確かめるって、何を確かめるんだよ」
タオは、分からないことばかりの現状に頭を抱えていた。
「エクスは何かを知っているみたい。彼はこの想区の出身だし、時代も彼がいた時と同じだから、きっと何か手がかりを掴んだんじゃないかな。とにかく彼が帰ってくるまで待つしかないわね」
レイナがそう言うと、二人も納得した。
すでにあたりは暗くなり始め、夜が支配し始めていた。
エクスは走った。
城下町を抜け農村地帯の、さっきまで戦闘を繰り広げていたあの場所へ。
壊れた建物、くすぶり崩れかけている家屋、戦場の残した爪痕がそこにあった。
家に住人は居なく、あたりは静まり返っている。
エクスはそこから少し離れた民家がある場所へ足を運んだ。
「確か、ここら辺だったような」
そう思いながら、家々を見て回った。
昔の記憶を頼りに窓から様子を伺っては、見当違いだと次の家に行く。
そうこうして小一時間が経った頃、エクスは目的のものを探し当てた。
「やっぱり……そういう事だったんだ」
エクスの考えが確信に変わり、急いでみんなのところへ戻った。
「遅ーい。どこいってたのよ」
レイナは心配そうに言った。
「で、どうだった?何か掴めたのか?」
タオはエクスの帰還に安心しつつ、彼からの報告を待っていた。
エクスの顔は暗く、なかなか言い出す事ができなかった。
「ねえ、レイナ。カオステラーは倒さなければ、調律できないの?」
意外な問いにレイナも戸惑ってしまった。
「わからないわ。そんな事一度もやった事ないから」
「そう……」
レイナの返答にしばらく黙っていたエクスだが、意を決して話し出した。
「カオステラーだけど……多分ジェイクだと思う」
その言葉に皆唖然とした。
「どういう事だよ。あの王様がカオステラーだって言うのか。お前の親友なんだろ? なんでそんな事言うんだよ!」
タオが怒り口調でエクスに向かって言った。
「ごめん。でも、それしか考えられないんだよ」
「ふざけんじゃねぇ」
エクスの胸ぐらを掴み、今にも殴りかかろうとしたタオをなだめ、レイナはエクスに理由を聞いた。
「と、とにかく、どういう事か説明して」
タオが手を離し落ち着くと、エクスはゆっくりと話し出した
「ジェイクはもともと農民なんだ。さっき戦ったレジスタンスのアジトが彼の実家で、あそこの近くでよく遊んでた。それと、リーダーは彼の友達だった。僕の事イジメてたから良く覚えてる」
三人は驚いた。しかし、タオはそれでも認めようとしなかった。
「だからって、あの王様がカオステラーって証拠はあんのかよ。農民生まれの王子様だっているかもしれねぇだろ」
「それはないわ。ストーリーテラーの設定は絶対よ。彼が農民生まれなら一生農民のはず。この想区に農民生まれの王子様なんてありえないわ」
タオの意見はレイナによって完全に否定された
「そうですね。王子様は王子様。お城で生まれ育ち、一生をお城で過ごす。それがこの想区で決められた役割」
シェインも真剣な眼差しでタオを見つめて言った。
さすがのタオも二人の真剣さに黙ってしまい、エクスはまた静かに話を続けた。
「ジェイクが王様になった時からレジスタンスが現れたって言ってたよね。あれはきっと、彼が生み出した虚像なんだと思う。彼は農民出身だって事を皆に知られるのが恐くて怯えていた。それが疑念に変わり、レジスタンスを生んだ。そして、その疑いは友達にまで及び、結果、友達はリーダーにされ、周辺の住人をヴィランに変えしまった。カオステラーは他人の運命の書を書き換える事ができるから」
誰も何も言えなかった。もはやエクスの言っていることが間違いとは思えなかったからだ。
「さっき別の友達の家に行ってみたんだ。そしたら、その人の周りにはヴィランたちが集まってた。新たなレジスタンスがもう生まれていたんだ。きっと彼らを倒しても、また次のレジスタンスが生まれてくる。そしていつか城内にも疑いがかけられ、いずれこの想区は誰もいなくなってしまう」
「そして想区が崩壊する」
レイナは重い空気の中、一言呟いた。
沈黙が続いた。
「僕はジェイクがカオステラーなんて信じたくない。でも、もし彼がカオステラーだとしても、きっと助けられる方法はあると思う。それに、シンデレラからもお願いされたんだ。彼を救ってくれって。だから、明日、ジェイクと聞いてみようと思う。何が起きたのかを」
エクスはそう言って真っ直ぐ前を向いた。
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