Episode 2 再会
一同は列をなして街道を進んでいる。
シェイン以外は皆バツが悪そうに歩いている。
それもそのはずである。
彼女のおかげで、四人はすっかりお尋ね者になってしまったのだから。
「シェイン、どうしてくれるんだよ。これじゃ、オレ達がまるっきり犯人みたいじゃないか」
タオがシェインに向かって小声で話した。
「タオ兄、何をそんなにビクビクしているのですか? これで堂々と王様に会えるのです。もっと胸を張ってください」
そう言ったシェインの後ろから三人分のため息が聞こえてきた。
一同は手に鉄製の腕輪をかけられ、前後一列に鎖で繋がれていた。
町の人は何事かと物見のように集まってきて、コソコソと話をしている。
「あの人達が何を話しているか大体想像がつくわね」
「あぁ、間違っても良い話じゃねぇな。このまま、本当に牢獄直行ってことになったらヤバイな」
「っていうか、即刻処刑とかにならないわよね」
タオとレイナがブツブツ話していると、一番後ろからエクスが参加してきた。
「それはないと思いうよ。王様だってレジスタンスの事を聞きたいんでしょ? なら、僕たちから情報を聞いてくるはず。すぐには殺さないよ」
「そ、そうよね。王様だって、そんな無慈悲じゃないわよね」
「いや、それは、どうかな? もしかしたら、そのまま……かもな」
タオが親指を首に当てて横に引いた真似をした。
「ヒッ」
レイナが小さい悲鳴を上げた。
「大丈夫。そんなことになる前に、僕がシンデレラを呼んで説得するから。この時代ならまだシンデレラは僕のことを知ってるはずだよ」
エクスがレイナを慰めようと秘策を伝えたが、彼女はそれに否定的だった。
「それは難しいわね。私が前にこの想区を調律したでしょ? その時、みんなの記憶もリセットされてしまったの。正確には、調律した時に新しい記憶を上書きされたと言ったほうが良いかもね。」
「それじゃシンデレラは僕のことを……」
「ええ、覚えている可能性は少ないわ。残念だけど」
「そんな……」
ショックを隠せないエクスは、そのまま黙ってしまった
「そこ、何をコソコソ話している。真っすぐ歩け!」
衛兵に注意されしばらく一同は黙々と歩いて行った。
そうこうすると、白亜の城が近づいてきた。
遠くからは何度も見てきたが、昼間に近づいてみるのは今回が初めてだった。
「前は裏山から侵入したから分かりませんでしたが、改めてみると立派なものですね」
目の前にそびえ立つ城を眺めながら、シェインは感嘆していた。
「そりゃそうだ。なんといっても、かの有名なシンデレラ城だぞ。毎日何万人もの客が足を運んでる。もっとも、ここにはスーパースターはいないがな」
「タオ兄……。何を言っているかわからないのですが……」
大きな門の鉄格子が上がり、中に入ると、石畳が一本通っている。
突き当りには木で造られた大きな扉が待ち構え、左側の城壁近くでは衛兵が立ち、そばに下へ続く階段が見えた。
そこが牢獄へ続く階段であることは誰もが理解できた。
「このまま中央に行けば、王様とご対面ってわけか」
「はい。でも、左側の階段に向かえば、牢獄まっしぐらですね」
「そうならないことを祈るよ」
シェインの発言にトホホという声が聞こえてきそうなタオの言葉だった。
衛兵が上級兵に報告と指示を受けた後、四人を引き連れ、そのまま真っすぐ石畳を歩いて行った。
「よし。そのまま真っすぐだ。いけー」
タオが小声で、しかし、力のこもった声で呟いた。
みんながドキドキする中、衛兵はそのまま歩いて行く。そして、扉付近になった時、急に城壁へ方向を変えたのである。
「マジかぁー。そこは真っすぐ扉だろう。急に方向転換なんて、汚いぞ」
「いや、ここは、そう見せかけて、王様が偶然通りかかるとか。B級映画とかに良くあるシチュエーションです。いかにも作者が考えそうな事です」
「そうじゃなかったら、シンデレラが偶然通りかかって、まぁなんてかわいそうな人達なんでしょう。って言って私たちを助けてくれたり……」
「いやいや、ここは本当のレジスタンスが現れて、僕たちの疑いが晴れたり……」
みんなが訳のわからないことを言っている間も、もちろん、なにも起きやしません。
何やら喚いている一同ですが、そんなのお構いなしに階段を下り、あっさり牢獄へ。
物語の進行を勝手に想像して、あまつさえ作者の考えそうな事とか・・・当然の報いです。
「……で、これからどうするよ……」
薄暗い牢獄の中でタオはみんなに言った。
「どうって言われてもねぇ。この状態じゃ何もできないわよ」
レイナも困った顔をして、解決策を考えていた。
「いやー、こんなはずじゃなかったんですけどねー。うまくいくと思ったのですが……」
と言ったシェインにみんなのツッコミが入ったのは言うまでもない。
しばらく沈黙の中、グゥーというおなかが鳴った音がした。
「腹減ったなー」
タオが仰向けで寝ながら、力なく話した。
「ですね。囚人だからって、ご飯抜くのはどうかと思いますが」
「そうよね。悪いことしたからって、ご飯食べさせないとか、ありえなくない?」
シェインもレイナも食事が出てこない事に不満を言い、肝心な事はどうでもよくなっていた。
「いやいや、二人とも悪いことしたって認めちゃってるし。それより、どうやって誤解を解くかが先でしょ」
「そんなこと言ったって、もう半日もこのままよ? これじゃ、王様にも会えず、そのまま……」
シェインもレイナの意見に頷いていた。
エクスがまともな事を言っても、二人は聞き入れない。
悲観的になってしまった彼女たちを励ますのは、もはや温かい食事くらいなものだろう。もちろん出しませんけどね。そんなもの。
さらに時が過ぎたころ、カツン、カツンと誰か階段を下りてくる音がした。
それに気づいたのはエクスだった。
「誰かくる」
一同は耳をすました。
確かに階段を下りて来る音がしている。
螺旋になっている階段から、人影が見えてきた。
一同がゆれる人影を見つめていると、手にたいまつを持った、がっしりとした体格の男が現れた。
それを見てレイナ、シェインは、なんだという感じで座り、またうつむいてしまった。
タオもその男を少し見つめて、また寝てしまった。
エクスだけが何とか誤解を解こうと立ち上がり、格子のすぐ近くで男をじっと見ていた。
「お前たちが、王国に反するレジスタンスか」
男は静かに、だが威厳のある声で四人に話しかけた。
「フン。まだ年端もいかない者たちと聞いてきたが……本当にお前たちがレジスタンスなのか? 答えよ」
「あの、私たちは旅の者で、レジスタンスではありません」
「では、なぜお主たちが兵士を殺したと申したのか?」
「それは、間違いです。私たちが行った時には、すでに死んでいました」
エクスはその男に事情を説明した。
「そうか。では、お前たちは想区と呼ばれる世界を旅しているというのだな」
「はい。私たちは皆、何も書かれていない空白の運命の書というものを持っています。そして、カオステラーから想区の破壊を止めるために……」
「待て。今何も書かれていない運命の書と言ったな」
そう言うと男は、たいまつをエクスに近付けて、彼の顔を良く見えるようにした。
「まさか……お前は……エクスなのか……」
信じられないという感じで男はエクスを見ていた。
「そんなはずはない。あいつが生きていれば、俺と同じくらいの歳にはなっているはずだ。あいつなわけがない」
男は独り言を言いながら、目の前にいるエクスが自分の知っている人物か照らし合わせていた。
「お主、ジェイクという人物を知っているか?」
「ジェイク……」
エクスは少し考えて、ハッと思い出したように話し始めた。
「あ……はい。子供のころ、一緒に遊んだ友達です。家の近くで遊んだり、一本杉のところで背比べもしていました」
「一本杉で背比べ……子供のころ遊んだ友達……それは本当だな?」
「はい。良く覚えています。みんな僕の事をモブって言っていじめていたのに、彼は友達になってくれたんです。僕の親友です」
「そうか……」
「何も書いていない運命の書なんて関係ない。そんなもの自分で切り開くんだって。そう言ってくれた時、僕は凄くうれしかった」
エクスは親友の事を思い出して、嬉しそうに話していた。
そんな様子を見ていた男は目をつむり、俯いてしまった。
やがて、男はエクスに向かい、震えた声で言った。
「本当に、お前なんだな……」
目にうっすら涙を浮かべながら、牢獄の格子の間からエクスに手を差し伸べた。
「俺だ。ジェイクだ……ずいぶん歳を取っちまったがな」
一同はジェイクの計らいで、牢獄から出ることが出来た。
あたりは西日の輝きがまぶしく、夕暮れが近かった。
皆、狭い牢獄にいたので、あちこち痛くなった体を、伸ばしたり、ひねったりしていた。
ジェイクはエクスとの再開に喜びを表した。
「しかし、懐かしいな。お前がいなくなってどれくらいになる。あれから、俺もいろいろあったんだ。積もる話もある。お前たちを牢獄に入れた詫びと言ってはなんだが、ささやかな宴を開こうじゃないか。
その言葉にレイナが反応しないわけがなかった。
「宴ですってー。やったー、ご馳走よ!」
「姉御。はしゃぎすぎです」
「だって、ご馳走だよ。半日以上何も食べてないんだよ。もうお腹いっぱい食べてやるんだから」
四人は半日ぶりに味わった外の空気を満喫していた。
一同が中央の石畳に向い、城内へと続く大きな木扉の前に来た時、一人の兵士が彼らに向かって走ってきた。
彼はジェイクの前で膝まづくと、そのまま声をはり上げた。
「報告します。たった今、偵察隊より城の付近でレジスタンスと思われる者たちが、かなりの数で集結していると連絡がありました」
「なんだと?」
ジェイクは驚きはしたが、すぐに兵士に指示を出した。
「わかった。今すぐ国王軍を向かわせろ、私もすぐに行く」
続いて彼は宰相と思われる人物に出陣の用意すること、エクス達に部屋を与えることを告げた。
「エクス、悪いが宴は後だ。少しの間、中で待っていてくれ。なに、すぐに片づけてくる」
そう言うと、ジェイクは城の中に入ろうとした。
「ジェイク。僕たちも一緒に戦うよ」
ジェイクは驚いて、エクス達を見まわした。
「こう見えてヴィランとの戦いには慣れているんだ。足手まといにはならないよ」
エクス達の自信あふれる顔を見た時、ジェイクに笑みがこぼれた。
「そうか。わかった。ともに戦おう」
そう言って、城内のものに指示を出した。
「誰か、この者たちの武器をここへ」
ジェイクとエクス達が向かった場所は城の近くの開けた草原だった。
レジスタンスはかなりの数が集まっていた。
黒い子鬼、甲冑を着た鬼、羽をはやして空を飛んでいる鬼たちが辺りを埋め尽くしている。
こちらは国王軍、向いはレジスタンスリーダーと思われる人物とヴィランが睨みをきかしていた。
レジスタンスのリーダーは一段高い位置から国王軍に向かって声を張り上げて言った。
「国王ジェイク。お前の様な国王に用は無い。今すぐ王国を解放せよ!」
そう言うと、ヴィラン達が奇声を発しながら、押し寄せてきた。
「チッ、メガヴィランもいるのかよ。かなり本気らしいな」
タオが運命の書に栞を挟み、戦闘態勢に入った。
シェインとレイナもタオと同時に栞を使いヒーローの力を借りていた。
それを見ていたジェイクは驚いた様子でエクスに話しかけた。
「エクス、お前たちはずいぶん不思議な力を使うのだな」
「うん。でも、この力があるからヴィラン達ともやりあえる。みんなを守れるんだ」
そう言って、エクスは笑顔を向けた。
「エクス! お前も早くヒーローとコネクトしろ。すぐ傍まで敵が来てるぞ!」
タオの激に頷くようにエクスは運命の書を手にした。
左手に運命の書を持ち、右手に導きの栞を手にしたエクス。
スゥッと親指で表紙を弾じく。
暴風の如くページがめくられ、エクスの周りも風が巻き起こる。
バタつく衣服、乱れる髪。
不意に書の周りだけ風が止み、見開かれたページが光を放ち、露わになる。
風吹く中、光に照らされるエクス。
ページの中から四色の紋章が煌々と浮かぶ。
流れるように導きの栞を挟み、バンッと勢いよく運命の書を閉じた。
「ジャック、君の力を貸してもらうよ」
パンッと風が断ち切れ、瞬く間に書の光が彼を包み込んだ。
エクスが光に包まれている中、ジェイクは目の前のメガ・ヴィランを見て驚いた。
「なんだあのデカイ奴は。あんな奴倒せるのか?」
「大きさで勝負は決まらないよ!」
そうエクスが声に出すと、剣を片手に駈け出した。
まるで、巨人を相手にするかのように。
そのままエクスはメガ・ヴィランに真一文字の閃光を浴びせた。
ひるむメガ・ヴィラン。
すかさず、後ろに回り込み、数撃加える。
正面からはシェインの強烈な矢の嵐が迎え撃つ。
最後の一撃を繰り出そうとした時、エクスの背後にヴィランの影。
振り向くエクス。
迫る剣撃。
寸でで、受け止め、薙ぎ払う。
さらに数匹のヴィラン。
複数の剣撃に体が追いつかない。
殺られる!
エクスは本能的に感じ、スローモーションで剣の軌跡を追っていく。
だが、次の瞬間、剣の軌跡は消え、ヴィランは横たえた。
そこには剣を振り降ろしたジェイクの姿が。
「ひとつ貸しが出来たな」
フッと微笑した彼はさらにエクスに迫るヴィランを薙ぎ払う。
同時にエクスもジェイクの背後を狙うヴィランに一撃を与え、包囲するヴィランに互いの背中を預けた。
「これで、おあいこだね」
そう言うエクスも微笑していた。
交わる視線。
飛び交う剣技。
もはや、この場に言葉はいらない。
包囲網を抜けた二人は、互いにアイコンタクトした後、残りのヴィランを相手に縦横無尽に駆け抜けていった。
そう、昔遊んだ友と再びこの場所で、駆け抜けることを喜んでいるかのように。
日が暮れていく中、草原には勝利の声を上げる国王軍がいた。
皆、レジスタンスを撃退したことに喜び、勝利を称えている。
四人もそれに交わり、撃退できたことに胸をなでおろしていた。
「レジスタンスのリーダーはどうした?」
ジェイクが隊長の一人に聞いていた。
「ハッ、リーダーと側近の者は戦いが始まるとすぐにその場から離れていったのを確認されています。数名が後を追いかけたのですが、途中ヴィランの猛攻を受け、見失いました。申し訳ありません」
「そうか、仕方あるまい。すぐに捜索隊を結成し、奴らのアジトを探し出せ」
彼らの足取りを掴むため、ジェイクは軍を捜索に向かわせた。
ひと段落したところで、エクス達に近寄り、笑顔で言った。
「エクス、それに皆もよく頑張ってくれた。王国の代表として、心から礼を言う。ありがとう」
「王国の代表ッて……もしかして、あなたが王様?」
驚きを隠せいない様子で、レイナは大声を上げた。
「ああ、そうだ。私がこの国の王、ジェイクだ。紹介が遅くなって申し訳ない」
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