第69話シャルルの提案と皇帝テオドシウス

「ところで、テオドシウス様」

ほとんど黙っていたシャルルが、ようやく口を開いた。


テオドシウスは頷き、シャルルの次の言葉を待つ。

シャルルの次の言葉に、皇帝前の全員の注目が集まっている。

「出来ましたら、城壁建設の専門技術者を何名か、出来る限り早急に、隠密裏に集めることは可能でしょうか」

シャルルの言葉は意外なものであった。

皇帝も含め、全員が首を傾げた。


「確かに、先般の大地震で、かなり城壁が崩れているのは事実だ」

「しかし、それは修復すればいいだけのこと、何も、何人もの専門家を、隠密裏に集める等のことは必要ないのではないか」

全員が、そう感じている。


その後、シャルルは、アッティラにも声をかけた。

「その城壁専門家の集まりが出来たならば、是非、アッティラ様にも、ご参加いただきたいのです」


この言葉には、声をかけられたアッティラを始め、また全ての人間が驚いてしまった。

アッティラは、今はただ、「シャルルとの友情、恩義」に報いて、ここビザンティンの都を攻めないだけである。

本来、攻めることを目的にしている男に、守りの象徴でもある城塞造りに参加させるとは、何事であろうか、全員が腕を組んでしまった。



少しして、ようやく哲学者ヨロゴスがシャルルの顔を見た。

「まず、第一として、現在、地震により崩れている城壁の修復に、単なる修復以上のことを行う」

「そのために、専門家を数名呼び、議論を徹底的に戦わせる、より良い案を導くために」


「隠密裏というのは、最初はアッティラ対策と思ったけれど、アッティラ自身をその会議に参加させる以上は、そうではない」

「・・・つまり、それは官僚対策なのか?」

「何事も工事には予算が伴う」

「現実には予算を牛耳っているのは官僚だ」

「変な横やりを入れさせず、ただ純粋に城壁設計を行う、予算はその後なのか」

そこまでヨロゴスがシャルルに尋ねると、シャルルは大人しく頷いている。


「それで・・・最後のアッティラについては・・・」

アッティラは、笑い出している。

「つまり、このアッティラでも攻め落とせないような、城壁を作るというのか」

アッティラの言葉は図星だったらしい。

シャルルも笑ってしまっている。


皇帝テオドシウスも笑い出した。

「そんなことまでして、アッティラに何の得があるのか?」

ハルドゥーンも笑っている。

「アッティラにとっては、何の得もないではないか」


しかし、シャルルはその笑みを変えない。

言葉を続けた。

「そういう立派な城壁ができれば、誰も戦争で命を落すことが無くなります」

「戦争は費用もかかりますが、その分が浮きます」

「そのお金で、アッティラ様には、外からビザンティンを護っていただいてもいいのは」

「西のローマのようなことにはしたくないので」

そこまで言って、シャルルは少し間を置いた。


「本当に申し訳ありません、港からビザンティンの街を見た時に、そんな言葉が浮かびましたので」

「あくまでも、若輩者の戯れと聞き逃されても結構です」

「こんな恐れ多い皇帝テオドシスス様の御前に出られるだけでも、光栄至極なことなのに」

シャルルは、真っ赤な顔になってしまった。

つまり、シャルル自身が「言い過ぎであった」と判断してしまったのである。


「いや、かなり有益な話だ」

テオドシウスは、シャルルのほぼ謝罪のような言葉を否定した。

「その意見は採用する」

「それから・・・」

テオドシウスは、そこでニヤリと笑った。

御前に集まる書記官僚以外を至近に招き寄せた。

「これも、しかけだ」

その時、テオドシウス帝から囁かれた言葉は、本当に全員にとって驚くべきものであった。

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