第68話皇帝の御前会議
さて、テオドシウス2世は、先帝アルカディウスの息子にして、アルカディウスの死後、幼くして即位している。
即位当初は、ペルシア王ヤズィデガルド1世の保護の元、姉プルケリア、重臣アンテミウスの補佐を受けている。
また、先帝アルカディウスの時代に、領内の蛮族はほぼ駆逐していたが、フン族は絶えず国境付近を圧迫し、貢納を要求していた。
そのため、攻撃をちらつかせる異民族に対しては、「お金で事を収める」を旨として、今までは基本的に平和を保ってきた。
何より現実問題として、猛将ハルドゥーンの計略をもってしても、膨大する一方の異民族に対処は不可能と考えていた。
それでも、東部国境では、ヤズィデガルド1世の跡を継いでペルシア王となったバーラム5世との紛争となり、アルメニアをローマ・ペルシアで分割占領することになった。
また、西ローマ皇帝ホノリウスの死後、コンスタンティノポリスへ亡命していたガッラ・プラキディアの要請に応えて、ラヴェンナを強襲し、ガッラ・プラキディアの息子ヴァレンティニアヌス3世の即位を承認した。
さらにヴァンダル族のアフリカ侵攻には、2度に渡って援軍を送りもした。
もはや、西帝国は東帝国にとってみれば、足手まといに過ぎなくなったのである。
結局「宮廷人たち」は、テオドシウス帝とシャルル、アッティラ、遅れて到着したハルドゥーンとの面会には、一部の書記官僚を除き、出席がかなわなかった。
また、黒い帽子に、黒いマントをまとい、髭をたくわえた当地ビザンティンの聖職者も数名列席している。
シャルルの後ろにはバラクが控え、ヨロゴス一家も一歩下がり控えている。
「シャルル君とやら、長旅を御苦労である」
まず、会議の冒頭から、テオドシウス帝直々の御言葉である。
通例ならば、うやうやしくもったいぶった官僚たちが、司会をするのであるが、今の状況では致し方ない。
「いえいえ、お招きいただいて光栄に存じます」
「ただ・・・」
シャルルは、一旦は深く皇帝や聖職者たちに深く頭を下げた。
しかし、港での出来事を気にしているようである。
それをテオドシウス帝は見逃さなかった。
「ああ、シャルル君、それは気にしなくて構わない」
「それよりは、君には本当に失礼なことをした」
「彼らの振る舞いについては、本当に困っていた」
テオドシウスからの、直接の謝罪である。
これには、シャルルを含めて全員が、驚いている。
「テオドシウス様」
ハルドゥーンが、テオドシウスに跪いた。
「報告書につきましては、ここにございます」
本当に頭を下げ、報告書をテオドシウス帝に手渡す。
ここでも、「手渡し役」の官僚がいないので、直接になる。
「ふ・・・ハルドゥーン、さすがだな・・・」
「お前の読み通りに、退治ができている」
テオドシウス帝は、少し笑った。
「それから、アッティラ」
テオドシウス帝は、アッティラにも声をかける。
「お前が来てくれたから、ハルドゥーンの計略が成功した」
「来なかったら、シャルル君は牢獄、あるいは港で殺されている」
テオドシウス帝の感謝と、「読み」が語られる。
アッティラも頷く。
「確かに、この大恩人のシャルルをあそこで、牢獄にだとか、殺されるとならば、我々は黙ってない」
「ハルドゥーンからの手紙がなければ、今頃、このビザンティンは火の海、骸の山になっている」
アッティラの口からは、本当に恐ろしい言葉も聞こえて来る。
テオドシウス帝は、次に哲学者ヨロゴスに声をかける。
「かの有名なヨロゴス先生、本当に来ていただいて助かります」
テオドシウスは、ヨロゴスに素直に頭を下げる。
これも、官僚がいれば見られないことである。
特に書記官僚は、驚きの色を隠し切れない。
「いや、私はシャルル君に惚れて、ただついて来ただけです」
「ここでも、研究を続けさせてくれるということも魅力で」
「それで、私のような反体制派が、ここの宮殿に入れるとは・・・」
珍しくヨロゴスは頭を掻いている。
テオドシウス帝はヨロゴスのその言葉を引き取った。
「いやいや、反体制派だからこそ、見える部分もあるはず、私が責任を持って保護します。シャルル君と一緒にこのテオドシウスに有益な知恵をお授けいただきたい」
「まあ、それにしても、これほどの人材を引き付けるシャルル君とは、じっくりと話をしたいものだ」
「それに、一見しただけで、誰もがその価値がわかる素晴らしい可能性を秘めている」
「・・・それがわからない、市民を護ろうとせず私利私欲に走る役人などは、私は必要としない」
そこで、テオドシウス帝の眼が、厳しくなっている。
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