第23話 シャルルの涙
シャルルは、しばらく泣いていた。
そして、シャルルの泣く姿を見つめるハルドゥーン、メリエム、アッティラ、アエティウス及び取り囲んだ群衆も、いつのまにか静かになっている。
か細いシャルルの泣き声だけが、聞こえていた。
「あっ・・・」
メリエムが声を発した。
シャルルが、涙をぬぐい、ゆっくりと立ち上がった。
「シャルル・・・大丈夫?」
メリエムが心配のあまり、シャルルの背中をなでた。
「うん・・・ごめん・・・」
少し恥ずかしそうなシャルルの声。
メリエム
「うん・・・どうかしたの?みんな・・・心配している。ローマの人々もこんなに集まっちゃった・・・」
「うん・・・わかっていた・・感じていた」
「少し、みんなに話したいことがある」
シャルルは、まだ小さな声。
「わかった・・・」
メリエムはシャルルの腕を取る。
そして、二人でゆっくりと群衆に向き直った。
既に夕焼けが迫り始めている。
アウグストゥスの廟を後ろに、シャルルとメリエムの姿は、夕焼けを浴びて浮き上がっているように、群衆に見えている。
シャルルは、一旦紅い空を見上げた。
そして、何かブツブツとつぶやいている。
「うっ・・・」
そのつぶやき声に何かを感じたのか、ハルドゥーンの顔色が変わった。
アッティラ
「何かあったのか・・」
ハルドゥーン
「いや・・・シャルルとは、とんでもない男だ・・・」
アエティウス
「まあ・・・いい・・・まずは話を聞こう」
シャルルは眼を閉じ、静かに話し出した。
「アウグストゥス様の前に、カエサル様の話をしなければならない」
集まった群衆に少しざわめきが起きた。
しかし、すぐに治まった。
「カエサル様が、不覚にも、短慮の者たちにより元老院内で暗殺をされ・・・」
「もちろん短慮の者たちにも理屈はあった」
「ローマを一人の人間に独占させ、支配させることは、ローマの伝統にそぐわない」
「元老院主導の共和制こそ、ローマのあるべき姿であると・・・」
「確かに軍備を解かず、ルビコン川を超えたことは、ローマの法に反する」
「しかし、カエサル様がルビコン川を超えた瞬間に、ローマを逃げ出したボンペイウスをはじめとした「反カエサル派」にローマを護る気概はあったのか」
「数では圧倒的に有利なはずの、「反カエサル派」は、あまりにももろくカエサルの前に敗れ去った」
「そして、寛大なカエサル様は、全て自分を倒そうとした敵を許した」
「涙を流して命乞いをする「反カエサル派」を笑顔で、包み込んだ」
「圧倒的な力を持ち、寛大な人間に、人気が集まることは、当然ではないか」
「しかし、表面的な「屈服」しかできない愚昧な元老院議員たちは、カエサル様が、ガリアを平定した真の意味を理解できない」
「そして、巨大となったローマ帝国を一握りの、元老院だけでコントロールできると考えてしまう浅はかさ」
「ガリアを平定することで、ガリアをゲルマンからの防波堤とし続けるというカエサル様の今後の計画を理解しようとしない」
「ただただ、強大となったカエサル様の命さえ奪えば、共和制が復活し、「健全なローマ」が復活するという、このうえない短慮。」
「驚くことに、「反カエサル派」は、肉体の不可侵権という、神祇官特権を持つカエサル様を殺すことが、ローマ法において重大な犯罪であることも理解していない」
「自らは平和な首都で、快適な暮らしを送り、命をかけてローマの安定を築き上げたカエサル様を・・・あのような短慮で・・・」
シャルルは、満天の星を見つめた。
頬に涙がつたっている。
「う・・・」
アエティウスが、少したじろいでいる。
アッティラ
「どうかしたのか?」
アエティウス
「確かに単なる坊主でも、金持ちのボンボンでもないな・・・」
「うん・・・」
ハルドゥーンの顔も真剣になっている。
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