第14話 シャルルの異変
3日ほど、近くの街のローマ神殿跡で、バルバロイの回復を待つことにした。
食料や水は、フィレンツェの司教や、シャルルの実家の取引先より運ばせている。
バルバロイの集団のリーダーらしき男も、少しずつ笑顔を見せるようになった。
ジプシーの人々も、最初は恐る恐るではあったが、眼が不自由になっているバルバロイの人々の食事を手伝うようになっている。
「涙を流しながら、食べている・・・」
「今まで、追い散らす対象でしかなかったのだが・・・」
「あの涙は・・・」
ハルドゥーンが、驚いた顔をする。
「彼らも、シャルルの人柄に触れて、ホッとしたのかな・・・」
「ふんわりとした雰囲気で、包まれるって感じ・・・」
「これについては、民族の差が無い」
「それに、さすが、シャルルね・・・」
「運んでくる食材もなかなかのもの」
メリエムはうれしそうな顔をしている。
「うん、せっかくだから、これからずっと護ってくれる人たちだしさ・・・」
シャルルは、相変わらずこともなげに、語る。
「あなた、本当にそう思っているの?」
メリエムは、首をかしげる。
「私たちはともかく、バルバロイは信用ならないのよ・・・」
「凶暴だもの・・・」
「簡単に人を殺し、村を焼き討ちする」
「約束しても、本当にわからないのよ」
メリエムの顔は真剣である。
「うん、メリエム、確かに人の生死については、あまり気にする人々ではないことは知っている」
「それは、彼らが攻める対象の人であれ、護る同民族でさえ・・・」
「また、約束ごと、つまりルールより、力関係で行動を決める」
「アッティラの命令は、絶対なのさ、アッティラがルールを破れと言えば破る」
「人も殺めることもある」
シャルルは相変わらず冷静な口調である。
「そこまでわかっていて・・」
メリエムは理解できない様子。
「アッティラへの手紙の中で、人としての誇りという言葉を入れた」
シャルルは、意外なことを口にした。
「え?」
メリエムは、また理解できない。
「人としての誇りにかけて、この若者を信じます」
「あなたも、応えてくださいと、入れた」
シャルルの眼は遠くを見つめていた。
バルバロイの人々のダメージもほぼ回復し、シャルルとメリエムをハルドゥーンの集団が囲み、バルバロイの集団がその前後を固めるという隊列で、一路ローマへと歩みを進めていく。
いつのまにか、ハルドゥーンとバルバロイのリーダーとは会話をするようになっている。
二人の間には笑顔さえ見えている。
「案外、純朴な人たちなのです」
シャルルは、相変わらず柔らかな笑みを絶やさない。
ミラノからの道中と同じように、身体が弱った旅行者には薬を与えたり、食物も与えたりする。
次第に、旅行者の中で、シャルルの集団に加わる者さえ、多く出てきている。
「確かに、これだけの護りの中にはいれば、旅行者は安心だろうなあ・・・」
ハルドゥーンは、首をすくめ、感心している
突然、バルバロイの集団のリーダーの男が口を開いた。
「お互いの安全に自然に協力し合う形になっています」
流暢なラテン語であった。
「私はアッティラ様の部下、イルナックと申します」
「私たちは、シャルル様の御慈悲で命を救われました」
「このようなことは、今まで我らとローマの民、いや他の民との間でもなかったことです」
「殺すか、殺されるか、滅ぼすか、滅ぼされるかのどちらかであったのですから・・・」
「シャルル様がアッティラ様への手紙を託した男は、私の息子アラムです」
「彼にも幼い娘がいます」
「シャルル様の御慈悲を娘は、泣いて喜ぶでしょう」
「アラムは・・・人としての誇りにかけて、必ず目的を達します」
「アラムを信じてください」
「アラムを通じて、シャルル様のお話が、我が同胞に伝わります」
「我が同胞も信じてください」
「我が同胞全体で、シャルル様をお護りすることになるでしょう」
語ることは、整然とはしていない。
しかし、その顔は紅潮し、涙を流している。
「わかりました」
シャルルは、深く頭を下げた。
「是非、ずっと・・・一緒に・・・」
シャルルは、柔らかな笑顔でイルナックたちを見つめている。
イルナックの語った言葉は真実であった。
時折、他のバルバロイの集団に出会うこともあるが、襲われるどころか、逆に護衛を何人か提供したいとまで、申し出られるのである。
さすがに、あまりの多人数になることもあり、その申し出の半分を受け入れる。
また、ジプシーの集団とも出会うこともあり、その集団からも人の提供を受ける。
既に、バルバロイやジプシーの世界に、シャルルとハルドゥーン、イルナックたちの話は、広まっているらしい。
途中から、シャルルの一行に加わった者は、一般の旅行者や商用者を加えて、総勢は200人を超える状態になった。
「シャルル様には、人を集める何かがあるのです]
イルナックは、シャルルをほめる。
「我々もそれで、コロリと・・・」
ハルドゥーンも、同感、苦笑いをする。
「そんなに話し好きでもなく、ただニコニコしているだけなのに・・・」
メリエムもうれしそうな顔。
「体力は我々に比べれば、大したことはない。」
イルナックは、シャルルの歩く様子を見る。
「歌や踊りは・・・まあ・・・とても・・・評価に値しない」
ハルドゥーンは、また苦笑い。
「ただ・・・この人の腕に包まれていると・・・全て忘れちゃうの・・・」
メリエムは、顔を赤くする。
「問題は、食が細いことですかな・・・」
イルナックは、心配そうな顔。
「それが、体力不足にもつながるしなあ」
ハルドゥーンも、それには、また同感。
「他人の治療に熱心なのは、感心だけれど・・・」
メリエムは、シャルルを見た。
「ローマに着いて、疲れが出なければいいのですが・・・」
イルナックの目が厳しくなった。
「・・・ん・・」
ハルドゥーンは、シャルルの異変に気が付いた。
シャルルが、突然、道端の木に倒れこんでしまったのである。
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