魔王の国が儲かるワケ Ⅳ

「最初はサーブって言って自分の陣地と相手の陣地に一回ずつ落とす必要があるらしい。」

「その後は相手の陣地に一回だけ落とせばいいのね?」

 エストとミイトは卓球と呼ばれるスポーツのラケットを互いに握っている。

 小さな白い玉をミイトが、ラケットと一緒に持っていた。

「そうらしいな…。自分の陣地に落ちてきたら次に落ちる前に相手の陣地に返す。自分の陣地に一回も落ちずに外へ落ちると相手の失点らしい。真ん中の網は球が当たってもいいが、反動で自分の陣地へ球が落ちたら自分の失点と…。じゃ、取り敢えず始めてみるか?」

「いつでも、いいわよ。」

 リラックスした感じのミイトに、やる気で満々のエスト。

「よーし、じゃ行くぞ?」

 ミイトはボールだけを器用に離して上に軽く投げると、ラケットをボールに向けて振った、

 スパァン!

 と大きな破裂音がして、ボールが粉々に砕ける。

「…へたくそ。」

 エストが苦情を入れた。

「…これ、弁償しなきゃならんのかな?」

 ミイトが愚痴を入れながら、部屋の隅にある棚にしまってあった箱から真新しい替え球を取って、エストに投げ渡した。

「よーし、行くわよ…。」

 何処で覚えたのかエストが、腰をかがめて肘を曲げた状態でラケットを斜めに構えて、手に持ったボールに向かって振る。

 ラケットがボールに当たる直前に浮かす様にボールを軽く上に投げた。

 スパァン!

 またしても、破裂音が響くだけだった。

 彼女は筋力を魔法で増加させていたのだが、まだ不慣れな様子だ。

「意外と、力の加減が難しい競技ね…。」

「…だな。」

 二人の意見が合った。


 しばらくすると超人卓球が、そこでは繰り広げられていた。

 段々と力加減に慣れてきた二人は、遂には一秒間に八往復のラリーを続けさせるまでになっている。

 …何気に身体強化の魔法の練習になるなぁ…と、エストは思った。

「よっしゃ!」

 エストが追いつけない速さでミイトの返球が、彼女のコートでワンバウンドして外へと流れた。

 ミイトがラケットを持ったままの右手で軽くガッツポーズをとる。

 なんだかんだでマッチポイントを先取したのは、ミイトだった。

「くそぉ…次行くわよ!」

 エストは悔しそうだけど嬉しそうだ。

 しかし余裕が出てきたミイトは、慣れた感じで彼女の繰り出してくる球をポンポンと返球してくる。

 コートの左右へと揺さぶられて苦戦するエスト。

 彼女のおっぱいも浴衣の中で左右に揺さぶられていた。

 胸元が開いて白い下着が、ちらちらりと見える。

 ミイトのスマッシュが決まって、最初のセットはミイトが取った。

「温泉卓球のルールブックによると…セットを取られた方は、服を一枚脱ぐ必要があるらしい。」

 ミイトは真顔でエストに告げた。

 当然、そんなルールは書いて無い。

「そんなルールはありませんよ…。」

 いつの間にか扉の前に来ていたバドシが、呆れた様に口を出す。

「そろそろ食事の時間になるので呼びに来たのですが…何やってんです?」

 帯をほどいているエストに向けて尋ねた。

「いいわよ、そのルールで…見てなさいよ…?」

 …取り敢えず帯を一枚にカウントするエストは、ズルいなー…と思いつつ、浴衣の前が開いた下着姿の彼女を見て眼福なミイトであった。


 それから後は割とあっという間に勝負が着いた。

「汚ねぇぞ?自分だけ動体視力の強化魔法を使いやがって…。」

 パンツ一枚の姿になったミイトが、不満を言う。

「ふっふーん、勝てばいいのよ。」

 あれからミイトは一点も取れずに三セット全てエストのストレート勝ちだった。

「さぁ!最後の一枚を脱いで貰おうかしら?」

「え?俺は、いいけど…本当にいいのか?」

 自分の下着に指をかけながら、ミイトは尋ねた。

「…やっぱり、いらない。」

 風呂場で全裸を見られた仕返しをするつもりだったが、自分に何も得がない事に気が付いて断るエストだった。


 翌朝の温泉街のオープン記念式典。

 …正装をしたエストは、とても凛々しい上に綺麗だな…とミイトは思った。

 エストはカットする予定のテープの前でハサミを持ったまま、開場の時間を緊張しながら待っている。

 彼女の後ろには、国の内外を問わずに大勢の観光客が控えていた。

「我々が来る以前の彼女は、お世辞にも国民から慕われている王とは言えない状態でしたからね…。こうして重要な公務に出席して貰って少しずつ失点を取り戻していけば…彼女の容姿からいって父親以上のカリスマ性は直ぐにでも得られるでしょう。」

「まぁ…綺麗だもんな。」

 バドシの言葉にミイトも納得する。

「出来ればサウムにも出席して欲しかったのですがね…。私の商会がエストさんの後ろ盾である事は、この式典で示す事は出来ますが、救国の英雄の名声と人気に比べれば、まるで力が足りませんよ。勇者が彼女の後ろ盾である事を公の場で示せれば、この国の臣民の彼女への評価は一度に正反対になることでしょうにね…。」

 開場の時間が来て、エストがテープをカットする。

 拍手をしながら何となく彼女を遠くに感じていたミイトだったが、やがてエストは彼らの方へと走って戻って来た。

 彼女が退くと同時に観光客が、温泉街に次々と入って行く。

 エストはバドシと握手を交わすとミイトに嬉しそうに抱きついてきた。

 受け止めたミイトは、彼女が意外と華奢で軽い事に気付く。

 …ご苦労さん…と言いつつ彼女の髪をミイトは、そっと優しく撫でるのだった。

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