魔王の国が儲かるワケ Ⅱ
「結構、快適な乗り
馬車で共和国の北の
エストの故郷は雪の深い場所なので馬が使えない。
何に乗っているのかと言えば、全身が
結構な速度と振動で歩いているにも関わらず、
「この乗り物もエストさんのアイデアなんですよ。この乗り物を発明したお
バドシは我が事の様に嬉しそうに話す。
寒さに強いモンスターを利用した乗り物以外にも、表の
更に、この乗り物の長所は、その亀の様なモンスターの
共和国と違って北の魔王の国と帝国の間には高くて長い
帝国の主な輸出品は油や
そして海に面した共和国の海産物なども、格安の氷のお陰で保冷による新鮮な状態での運送が可能になり、エストの国や教国だけではなく他の国々にまで輸出する事が可能になっていた。
「…凄いな。エストの故郷は儲かってしょうがないだろ?」
ミイトは呆れた様にバドシの話を聞いてエストに尋ねた。
「え?…あ、まぁ、うん、その…。」
エストの返答は
ミイトが問いただすと
「この乗り物も出したのはアイデアだけで…。勿論その分のお金は、貰ったんだけど…。大型モンスターの
エストは、しょんぼりした顔で続ける。
「他にもね…。」
それは以前にもエストが、自分の故郷に
エストは商会支部に来ていたバドシを招いて、彼女が新しく建てた、とある物を作る為の
「どう?凄いでしょ?私の考えた新商品。」
そう言ってエストが工房内でバドシに見せた物は、白く
「何ですか?これ?…中に何か
「いい?よく見ててね?」
エストは、お湯が
塊は、お湯の中で溶け出して良い
エストが、お
お玉で皿に盛られたシチューを食べてバドシは、その美味しさに
「簡単に言うとね。うちの氷のおかげで共和国からの新鮮な魚や肉が、保冷したまま輸入可能になったから、ここでシチューにして凍らせた物が、この白い氷の塊なの。シチューは、お湯で戻す事を考えて少し濃い目に作ってあるのよ。これを
エストは笑顔で一気に捲し立てた。
「素晴らしいですよ、エストさん。これは流行ります。今までは
バドシが手放しで
「
「ううん。先ず最初にバドシに見せてから意見を貰って改良できる所は改良して、商会支部で大々的に売り出して貰おうと思っているの。」
…そうですか…とバドシは含み笑いをしたが、エストには単純に儲かる事に喜んでいる様にしか見えなかった。
それは、ある意味では間違ってはいない
それから数日が経ったある日のこと。
共和国に戻ったエストは、
「ちょっと!バドシ!例の
バドシは、にこやかにエストを出迎えるとシレッと言い訳を始める。
「危なかったんですよ?エストさん。あの後でエストさんが、なんの
「でも…だったら私の名前で登録してくれても良かったのに…。」
「こういう登録はスピードが命ですよ。事実、私が登録した数時間後に別の人が同じ内容で登録しようとしていたという情報もありますから…。エストさんに連絡して登録書類を本人に作成して貰ったり
バドシの説明にエストは、完全に黙ってしまう。
バドシは更に追い討ちをかける様に説明する。
「まぁ、どちらが権利を持っているにしろですね。結局は北の魔王の国の自然な寒さを利用して作らざるを得ない商品ですから…私が新たな工房を建てる際も作業者は、全員を現地の魔族から雇う事になるでしょうし、儲けた分は貴女の国の
バドシはニッコリと微笑むとエストに手を差し出す。
エストは項垂れたまま相手の手を握ると項垂れたまま帰宅の
その後、エストの建てた工房はバドシの商会支部が一流の料理人を商品開発に雇って新しく建てた工房に
「大丈夫なのか?北の魔王の国は?」
話を聞いたミイトは、呆れるしかなかった。
…完全にバドシに食い物にされていやがる…としか感想が出てこない。
「我らが女王様、
バドシは
「大丈夫といえば大丈夫なのかな?爺やが、しっかりしているから…。」
途端にバドシが持っていたコップに力を込めたせいで
「本当に、あのクソカタツムリ…爺や殿には色々な意味で勉強させて貰ってますよ…。」
バドシは笑いながら眉間に
北の魔王の国でバドシの商会支部が、
当然ながらバドシを含む商人達は、
まだまだ新たな王に代わって間もない
しかし、冷凍食品事業も調子が良く原材料をあちこちから輸入しているバドシは、そう簡単に納得するわけにはいかなかったのである。
「関税率が高くなると結局は輸入品の
バドシは、そう言って爺やを説得しようとした。
「一時的に
爺やは
…こいつ、取り
「自国の税率を下げてまで関税率を上げたら、
「先程も申し上げた通り我が国は、前国王を
…
「我々としてもバドシ殿に
確かにギリギリ納得できる範囲ではあるのだが…この引き上げ率は、まるでエストを
また、ある日のこと。
温泉がエストの国に湧いた事を聞きつけたバドシは、即座に周辺の土地を購入する為に動いた。
しかし、主に国が所有している土地が殆どで、また内務大臣と
「なぜ購入が出来ないのですか?!」
「法律が
バドシの質問に爺やは、表向きは
「バドシ殿には一定期間の土地の貸し出しという形を取らせていただきますが…宜しいですかな?」
「…もうそれで良いので
バドシは
条件はギリギリ商会にとって十分な利益を出す
そう、またしてもギリギリなのである。
「いかがでしょうか?もちろん気に入らなければ、お引き取り頂いて結構ですよ?他に、もっと
爺やは触覚を左右に振っていた。
きっと笑っているのだろう。
バドシは…こんな、御友達価格があるかっ!…と書面を破り捨てたい
…本気で暗殺してやろうか?この糞カタツムリ…とも思ったが、この優秀な内務大臣兼国王代理を失ったら、エストの国は以前に逆戻りして何れ
そうすると今までの
ただ彼は、また
「本当に
笑っているバドシの目は、笑ってはいなかった。
ミイトは若干引いている。
エストはバドシの横目が自分を睨んでいる様な気がしてビクビクしていた。
やがて、乗り物は
真新しい玄関に
彼女達は全員が魔族だった。
爺やも一緒にいてエスト達を出迎えてくれた。
「爺や!ただいま!」
「お帰りなさいませ、姫様。」
エストの元気な挨拶に触覚を振って答える爺や。
「お世話になります。」
「こちらこそ、今回は宜しくお願い致しますね。」
深々とお辞儀をするバドシに触覚を垂れて返す爺や。
「ウィーッス、世話になるぜ。」
「…チッ!」
…あるぇ?今なんか舌打ちが聞こえたぞぉ?…と訝しがるミイト。
…というか何処に口があるんだ?…とミイトは考えた。
「いらっしゃいませー!」
並んでいた女中達が、エスト様御一行に向けて一斉に御辞儀をする。
元気良く分け隔て無く出迎えてくれる彼女達にミイトは、心の底から癒された。
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