魔王の心が折れそうになったワケ Ⅱ
「こっちを見ないで!」
部屋の
先程ミイトが彼女に着替える様に
ミイトは慌てて後ろを向くと…エストの地が出て来たのは安心して落ち着いて来た為だろう…と納得する事にした。
「事の
ミイトに言われてエストは、元婚約者の魔族の顔を思い出すが、すぐに頭を振って自分の考えを否定する。
彼が得意なのは
必ず
「それで?これから、どうするんだ?腕輪は外したし羽根を使って帰るのか?」
「やむを得なかったら、そうするつもりだったんだけど…。こうなったら盗賊のアジトに行って連れ去られた隊商のみんなを助けるつもり…。」
「ここら辺の盗賊のアジトなら情報は掴んでるから教えられるけど…一人でも大丈夫か?」
ミイトは、それなりに心配して尋ねてくれていた。
…
「大丈夫よ。魔法封じの神器である腕輪は、もう私の物だし魔法が使えるなら
「
内偵と聞いてエストは、ミイトに質問をした。
「私が、この砦に
「直接は内偵に関係してたわけじゃないが…帝国の商会にバドシに恩がある奴がいてな。内偵の協力をしてくれてたんだが…共和国の商会の仕事を受けた隊商が、一つ
エストは顔を真っ赤にして俯いて…ごめんなさい…とだけ呟いた。
「単独の仕事の時は、なるべく口にする物は自分で用意したものだけにしろって…俺は
「…
自分の水筒に水があったのに相手の飲み物が、美味しそうだからといって
「まぁ、そんな
エストの頭を今度は、ぐりぐりと撫でるミイト。
少し強めに抑えられる感じの撫で方に片目を瞑ってミイトを睨むが、少しだけ
「
「ならば、その協力者とやらの名前と
ミイトは
エストは声のする方から見てミイトの、やや後方に素早く下がる。
目が慣れて男の顔が次第に明らかになって来た時に、ミイトは驚きの声をあげた。
「
「イン様!」
指を切られて両手を後ろで縛られた男が、いつの間にか
「し、侵入者です!助けて下さい!」
インと呼んだ羅刹に報告すると男は、
その瞬間…男の胸に剣が突き立てられる。
彼は胸に刺さった剣を
インと呼ばれた羅刹は、片手に待った
その中からは大きな
人型では無い魔族の首だ。
「貴様が本国から送った捕虜の
エストは首の顔に見覚えがあった。
魔貴族の一人である事は間違いなかったが、数回会っただけの人物で元恋人とは無関係だった。
「まぁ
羅刹が、そう言った瞬間にエストの横を通り過ぎる物体があった。
それはミイトの左腕だった。
いつの間にか男の胸から剣を抜いた羅刹が、視線だけをミイトに向けて立っていた。
何が起こったのかすら、エストには理解が出来なかったが、どうやら一瞬の内に羅刹が、ミイトの左腕を肩から斬り飛ばしたらしい。
エストは
吹き飛ばされた左腕を
その様子を横目で眺めていた指を斬り落とされた男は、最後に
「ミイト!ミイト!しっかりして!」
エストは必死に叫びながら回復魔法を掛け続ける。
効果は徐々に現れてミイトの出血は止まって表情も落ち着いて来た。
「いいぞ…治療する事は認めてやろう。そいつには、まだ聞きたい事があるからな。言っておくが結界なぞ俺の前では無力だというのは先程で理解しただろう?無駄な事はしない事だ…。」
羅刹は
確かにミイトが男を羅刹と呼んだ時に
エストは相手の
そんな彼女の喉元に刃が、
「女…そのままで良いから聞きたい事がある。お前達の主人の名前と内通者の名前を答えろ。」
「私は、そこで死んでいる男に連れられて、ここにやって来たのよ…。この人とは知り合いだけど詳しい事までは知らないわ。」
嘘を付いたらバレる。
そう思ったエストは
「なるほど…では男の方に尋ねよう。もう既に話せる程度には回復しているのだろう?…言え、先ずは内通者の名前と
ミイトは
だが彼は
「…女が死ぬ事になるが?」
羅刹はエストの喉元にあてていた剣を僅かに引いた。
ミイトは大きく目を見開いて羅刹を睨んだが、少しだけ
「駄目よ、ミイト…。話してしまえば結局は、二人とも殺されてしまう…。」
エストの首に剣が、より強く押し当てられた。
ミイトもエストの言う事を理解はしていたが、彼女が殺されるかもしれないという
羅刹はミイトに改めて尋ねる。
「言え…お前は誰に頼まれて帝国にいる?」
「俺だよ。俺。」
どこからともなく聞き覚えのある声がした。
羅刹が
青い光の
「
一瞬で剣を縦に両手で構え
エストは荷物とミイトを抱えると
羅刹は彼らを斬り裂こうと
そのまま二人とも外へ出た後に互いに離れて間合いを取る。
「
羅刹は、そう尋ねた。
「何の話かな?俺は、そちらの兵士が盗賊を使って
サウムは、そう切り返した。
「それこそ何の話だ?
だがサウムは
「
良かった…隊商のみんなは、サウムに助けられて解放されたんだ。
エストは、ほっと安堵して胸を撫で下ろした。
「なるほど…では女だけを連れて、とっとと帰りたまえ。男は、こちらに引き渡して貰おうか?」
「何故だ?彼には今回の仕事を手伝って貰うために先に帝国に行くように頼んだだけだが?」
「その男には我が帝国への内偵の疑いがある。」
「
「証拠はないが…
「女狐?」
サウムが右手の義手で握る剣からミシミシと音がした。
「どうぞ、
「…引き篭もり?」
…呪いを受けて病気がちな外出の難しい帝国の神帝の事だろうけれど、
羅刹もまた鬼の様な形相を見せると深く屈んで剣を構えた。
サウムは自然体のまま剣を肩に軽く
先に仕掛けたのは羅刹だった。
エストが羅刹が動いたと思った瞬間には、彼はサウムのすぐ正面にいた。
彼らの腕から先は、あまりの速さに消えている様に見え、激しくぶつかり合う音だけがエストの耳に届く。
エストはミイトから覚えるようにと言われていた
義手は今までの物とは
"あれがミスリル製の義手と義足?完成していたのね…。"
エストは羅刹と
羅刹の下から
羅刹は、その流れのままにサウムの喉に向かって突きを入れて来た。
サウムは右手の義手で持ったまま弾かれた剣の柄に左手を
羅刹は、その攻撃を後方へと
斬られた服の
紋様は
「
羅刹は胸の斬られた傷を手で抑えて
サウムは首に一筋の傷を負い少しだけ血が流れている。
慌てて、しかし十分に注意しながら、エストが近付いて回復魔法を掛けた。
サウムの受けた傷が、ほぼ瞬時に塞がっていく。
「エスト…羽根を使ってミイトと一緒に先に帰れそうか?」
「
神器の羽根を使って他の者達と共に飛ぶ為には、使用者以外も意識をしっかり
使用者が気絶した者の手を握っても、
「
「
「俺も覚醒は使えないし
サウムは少し考えるとエストに言う。
「エスト…悪いが頼みがある。」
エストは
サウムに注意しつつも羅刹は、視線だけを彼女に向ける。
彼女は両手を天に向けて呪文を唱える。
氷が彼女の両手の先から作られ、それは
みるみる内に大きな岩の様な氷が、彼女の頭上に出来上がってゆく。
「あの程度の
羅刹はサウムと睨み合いつつ尋ねるが、サウムは何も答えない。
…俺が避けた所を狙うつもりだろうか?あの程度の氷塊如きを破壊するのは
羅刹の思考が纏まる前にエストが、氷塊を投げてきた。
しかし、それは羅刹のいる場所とは、まるで違う方向へと飛んで行く。
「何処を狙って…?」
羅刹は疑問に感じたまま氷塊の行方を追うと、氷塊は
羅刹は
砦の中には先程殺した男以外にも、ミイトが気絶させて縛り上げた兵士達がいる。
あのような巨大な氷塊が、砦に
中にいる者達は無事では済まないだろう。
羅刹は砦へと落下してくる氷塊に向かって跳ぶと、それを思いっ切り
氷塊は上空に向かって
「よくも!」
砦の屋上に着地した羅刹は、エストに向き直ると、彼女は既に
高速で
羅刹は高温をものともせずに
だが、視界が
「…姑息な手をっ!」
羅刹は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます