魔王と王女が仲良くなったワケ Ⅵ

 真夜中にバドシの店の隠し部屋でサウムは、彼と酒をみ交わしていた。

「古代竜を討滅できたのは、新しい魔王の力に寄る所が大きいという噂を商会のネットワークで流しています。流石に手足の一部を失った貴方の弱体化の噂は、めぐるのが早くて対処が出来ないので…。貴方が弱くなっても教国と共和国には、勇者より強いかもしれない現魔王が味方していると、帝国に思わせる事が出来ると良いのですがね…。」

 バドシは溜め息をついた。

「今日の活躍を見る限りだとバレるのは時間の問題かもなぁ…。」

 サウムは疲れた様に呟いた。

「姫様はエストをおとりにするようで何だか申し訳ないと、おっしゃってはいましたけどねぇ。」

 そう言うとバドシは、酒を飲んだ。

「そこら辺は何かあったら、すぐにミイトか俺に連絡して欲しい。彼女に何かあったら亡くなった彼女の父親と…生きているけど例のカタツムリにも申し訳が立たない。」

 サウムもバドシと一緒になって酒を飲んだ。

「まぁ、私も彼女の事は大好きだから善処ぜんしょはしますけどねぇ…。」

「珍しいね、お前が色恋沙汰いろこいざたになりそうなんて…。」

「色は色でも黄金色こがねいろですけどね。お金のなる木ですよ、彼女は…。」

 バドシは、なーんとなくイヤラシイ表情をしてしまう。

「話は変わりますけど、どうしますか?」

 バドシが尋ねるが、サウムには流石にその言葉だけで彼の言いたい事は理解できない。

「教国の国王の事です。」

 バドシは目を細めながら続ける。

「彼を暗殺するなら、いつでも我々の商会が…盗賊ギルドが助力じょりょくいたしますよ?」

「…バドシ、君とは友達のままでいたい。滅多めったな事を言わないでくれ。」

 サウムの答えにバドシは、心外しんがいだと言わんばかりの顔をする。

「友人だからこそですよ?国王の心のやまいは深刻です。我々は逐一ちくいちストネ様を介して貴方の仕事の動向を彼に報告しています。エストの件も含めてね…。しかし、ミイトから聞きましたが謁見の間で国王陛下は、貴方に何と仰いましたか?」

「エストの事は聞いていないと仰られたな…。だが国王は高齢こうれいだし物忘れをする時もあるだろう…。」

 サウムは楽観論らっかんろんを唱えたが即座にバドシに否定される。

「教国から共和国にある私の商会へと精神を安定させる効果のある薬品の発注が続いています。しかも、徐々に強力な効果と副作用のある危険な物へと注文が変えられているのです。国王の心の病は明らかに良くない方向へと進行している筈です。古代竜を生きたまま解剖して研究するとか、魔帝を復活させて使役しえきし帝国に対抗するとか、その様な妄執もうしゅうに取りかれてるのが良い証拠ではありませんか?魔帝の封印の解除方法を知っている彼に万が一にでも、本当に封印を解除されてしまったら…手遅れですよ?」

 サウムは渋面をして絞り出すように答える。

「陛下が亡くなればストネが悲しむ…。」

「ストネ様も、もう十分に大人です。事情が理解できれば事後なら納得してくれる筈です。なんでしたら彼女だけには事前に相談しても…。」

血染ちぞめの花嫁衣装はなよめいしょうなんて彼女には似合わない…。」

花婿はなむこの衣装は血だらけなのに…ですか?」

「バドシ!」

 サウムは流石に大声を出してしまった。

 バドシは少しだけ冷静になるとサウムを制して話を続ける。

「…申し訳ない。少し酔いが深くなってしまっている様です。ですが、国王の精神が限界に近いとすれば、ストネ様の心への負担も大きいはずです。先ほどの教国へ搬入している薬品は、国王以外の使用者もいる事を考慮が出来ない量ではありません。」

「彼女は、そんなものに頼るようなヤワな女性じゃない。」

「あるいは、そうかもしれません。ですが教国の平穏へいおんが非常に綱渡つなわたりな現状を打破だはするには、現国王に一刻も早く退位していただいて貴方に新王になっていただくのがベターなのですよ。」

「敵とはいえ、俺は人を殺し過ぎた。王になったとしても、国民は畏怖しか感じないだろう…。ましてや現国王が不審死ふしんしげた後に即位した怪しい新王を…誰が支持すると言うんだ?」

「その事の何が問題なのですか?確かに貴方は民衆に怖れられている。しかし、同時にうやまわれてもいます。足りない分はストネ様の人気で十分におぎなえる。妄想と狂気に満ちた老人に比べて圧倒的な力を持ち外敵がいてきから自分達を守ってくれる若き新王…どちらが国民に支持されるかは明白めいはくでしょう?」

「…だが、それも俺に力が戻ればの話さ…。」

「…それは…そうですが…。」

 二人は、そこまで捲し立て合うと少しだけ疲れた様に互いに溜息をついた。

「せめて羅刹だけでも殺しておくべきだったなぁ…。」

 サウムが物騒ぶっそうな事を言った。

「休戦協定を結んだ今となっては、もう手遅れですよ。こちらから破ったとなると他の列強国れっきょうこくに言い訳が出来ません。過去の奪還と開放の戦争ですら他国から見れば単なる侵略行為しんりゃくこういですから…。暗殺しようにも相手が羅刹では難しいでしょうしね。羅刹に比べたら教国の国王の暗殺のやり易そうな事といったら…皮肉なもんですよ。」

 バドシが話を続ける。

「一応…貴方の弱体化の噂を聞いた帝国に動きがないかどうかをミイトに内偵ないていして貰うつもりではあるのですが…。」

「危険過ぎないか?」

「ミイトは元々は帝国にある村の出身ですから、彼以外に適任てきにんがいないのですよ。…消去法です。」

 バドシの報告は、そこで終わりだった。

 今度はサウムがバドシに自分の事を伝える。

「ミスリルの義手と義足の一回目の試験は、明日おこなうけれど…調整には、まだまだ時間がかかるだろうな…。」

「頼みのつなはそれだけなんですから、なるべく早くお願いしますよ?」

「俺に言われてもなあ…。」

 サウムは、ぼんやりと窓の外の満月を眺める。

 とても綺麗な夜空だった。

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