魔王と王女が仲良くなったワケ Ⅴ
馬車に戻ると既にミイトが、黄色いブヨブヨの中でゴーガーといびきを立てながら横になって眠っていた。
サウムとエストは仕方がないのでミイトの向かいの席に隣同士に座る。
馬車が走り出して
「エストは西の魔神に関して誰から、どのくらい教えて貰ったんだ?」
エストは、やや緊張して答える。
「ミイトからは名前だけ…。ストネからは昔の帝国と教国の間で起こった戦争で敵からサウムが、そう呼ばれていたって…。東の羅刹って強い人と対等に渡り合えたからだって…。」
「羅刹と対等か…。話が
サウムは
「順を追って話すか…。」
サウムは昔の事を思い出しながらエストに語る。
「
サウムは、その魔帝の呪術に関する説明に入る。
「呪いは身体を
サウムは魔帝の封印時の話題に
「ストネが生まれて何年か
「そこまでは?」
「数年くらい
サウムは少し話し方を悩んでいる様だったが意を決した表情を見せる。
それでも、エストとは目を合わせようとはせずに窓の外を見ながら語る。
「結果は教国軍は敗れ去って僕らの両親達は、首だけになって還ってきた。羅刹と呼ばれる、たった一人の男の仕業で…。」
エストは息を飲んだ。
「教国は帝国に
「共和国から依頼された仕事?」
「まったくの
エストは驚いて目を丸くする。
そんな様子にサウムは、少しだけ微笑んだ。
「自分の両親達が負けるとは思っていなかったから…悲しみよりも驚きの方が、先にあったのを覚えている。その次には泣いているストネを見て、怒りが込み上げてきた。ちょうど教国にいる帝国軍が、ストネ達を
サウムは事も無げに言った。
「教国を解放して難民だった人々も戻ってきた。国王もストネも王宮に還ることが出来た。でも俺は、そこで満足は出来なかった。父さん達の
エストは頭から外して
「結果は
サウムは馬車の座席に深く座り直す。
顔を上に向けて疲れたような表情を見せるが話は続いた。
「だが俺は徐々に羅刹との戦いに
自嘲気味にサウムは微笑む。
「自分の成長に反して、帝国軍は
少し
「俺は教国や共和国の人々から勇者と呼ばれる様になった。父さん達は魔帝を封印して勇者と呼ばれたけれど、俺は大量に人を殺して勇者と呼ばれる様になった。こんなにも内容が違うのに呼ばれ方は一緒なんて
サウムはエストの方を向いて笑う。
「もうすぐ、羅刹の首に手が届くという実感を
その話をする時のサウムの表情が、何処か
「護衛は俺一人だけでストネは、帝国に
馬車はガタゴトと音を立てて揺れていたがサウムの話の内容のせいかエストは、静かな雰囲気を感じていた。
「そんな俺に、ストネは懇願してきたんだ。どうか、もう怒りを
サウムの横顔からは後悔と
エストは彼を、そんな気持ちにさせてしまうストネの事を尊敬すると同時に
「彼女の
サウムは少しだけ
「羅刹は帝国からは何があっても出られない。それは彼を神帝が側から決して離そうとしない為だ。後に分かった事だが、神帝は魔帝に呪われているらしい。病気がちになってしまった神帝は、羅刹に常に側にいる事を要求してくるし、羅刹は神帝の
「だから、魔帝の封印を解いて復活させる事には反対なのね。」
サウムは頷いた。
「せっかく封印されている者を解いて、また封印するしかないなら結局は
「その為の古代竜の研究…。」
サウムは肩を竦めて笑う。
「そのせいで俺が使い物にならなくなったんだから
ある程度の纏まった話をし終えたサウムにエストは、手を重ねたまま寄り添って感想を
「サウム…今の話ね、私には正直に言って想像すらできない
そしてエストは
「だから二人が、ゆくゆくは結婚して…もしもサウムが教国の王様になったとしても…三人で一緒に暮らせる道もあると思うんだけど?」
エストは身体を密着させて下からサウムを覗き込む様に色っぽい視線で見つめた。
「え?それって、まさか…?そこまで俺の事を…?」
サウムはエストの言葉の意味する所を理解して驚いた。
彼女は自分は二番目で良いと
女性としては、かなりの
サウムは口を右手の義手で覆うと自然と顔が
「…ゴメン…教国は
「…そうなんだ…少し残念だな。」
エストは寂しそうにサウムの答えを受け止めた。
「もし教義が違っていたら…私の提案を受け入れてくれたかな?」
その質問に、どう答えるべきなのか?
サウムは真剣に悩んでしまう。
「ごめん…冗談。タラレバ話はやめようね。有り得ない
エストは軽く片目を瞑ると目的地に着いた馬車を降りた。
「一つだけ訊いていい?これからもサウムの事を好きでいて良いかな?」
「…もちろん。君が俺に
今度はサウムは、しっかりと返事をした。
エストは馬車に上半身だけ戻すとサウムに顔を寄せて頬にキスをして踵を返し走り去る。
サウムは彼女の唇が触れた場所を確かめる様に頬に手をあてた。
「あーららー、いーけないんだー。王女様にチクっちゃおうかなー?」
ミイトが薄目を開けて半笑いしながらサウムに声を掛けた。
ミイトが途中から
「やめてくれ…ああ見えて意外と嫉妬深いんだよ、彼女は…。」
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