魔王と王女が仲良くなったワケ Ⅱ

 エストの勇者代行宣言は、聞いていた国王に白い目で見られる結果となった。

 彼はある事情から魔族をこころよく思っていない。

 教国には大昔から魔族と人間が共に暮らしていたが、その昔は魔族が人間から…少し前までは人間が魔族から…差別的な冷遇れいぐうを受けていた。

 国王は、その少し前の時代を生きてきた人間だったので、自国はもちろん他国の魔族であってもこのんではいない。

 北の国の魔族であるエストにとっては、ほぼ八つ当たりに近い状態になっていた。

 エストの勇者代行宣言に関しては、国王だけでなくミイトも顔を覆って片眉かたまゆり上げ、サウムは呆気あっけにとられた様に口を開けてポカンとしていた。

 …自分は、そんなに可笑おかしな提案をしたのだろうか?…エストは急に不安になって来たが頑張って宣言を続ける。

「私は以前サウムに助けられた北の国の魔王の後継者です。彼は困っている私を助けてくれました。討伐対象だった私を殺せば済むだけの話だったにも関わらずです。私は…それ以来サウムを尊敬していて彼の弟子になりたいと懇願こんがんし、今は見習いという形で勇者の仕事を手伝わせていただいております。その彼が逆に今は困っている…。私は彼の力になりたいのです…。」

 エストが言い終わると一人分の拍手が聞こえてくる。

「素晴らしい御考えですわ。」

 王女が子供の様に目を輝かせて、はしゃぎながら賛同の意を表明した。

「それでは貴女あなたは亡くなられた北の国の魔王様の御息女ごそくじょでしたのね?貴女御自身は一体どのような力をお持ちなのですか?」

「先日に運搬中の古代竜が、目覚めて街中で暴れ出した時に、体内に薬が僅かに残っていたとはいえ一時的に眠らせる事に成功したのは彼女の功績こうせきです。また、サウムの手助けをして最終的に古代竜の死の呪いを防いだのも彼女でした。彼女がいなければサウムは生きてはいなかったでしょう。」

 意外にも乗っかってきたのは、ミイトだった。

「ちょっ…まっ…ミイト…?」

 サウムはわるノリしかけてる従者を止めようとした。

「まあ!…それでは彼女はサウムの命の恩人ではありませんか?」

 王女は、さらに嬉しそうに話した。

 エストの目は王女とミイトの間を行ったり来たりしながらキョロキョロしている。

「サウム殿?そのような報告を共和国からは受けてはおらぬが?…北の現魔王だと?」

 国王は少しだけ目を丸くしてエストを見つめながら尋ねた。

 周囲の視線にさらされて落ち着かないエストは、段々とオロオロし始めてくる。

「は?はぁ…なにせ急に決まった出来事だったもので…。」

 サウムは真実を伝えている筈なのに何故か苦しい言い訳っぽく聞こえる。

「正直に申し上げまして彼女と一対一の勝負であれば自分は、勝てる自信が全くありません。彼女が羅刹に対抗できるとも以前のサウムより強いとも言いませんし、封印されている魔帝の代わりになるとも思えませんが、今の弱体化しているサウムよりは、必ずや御役に立てる事でしょう…。彼女の強さは本物です。」

 ミイト的には嘘も誇張もない真実を話したつもりだったが、エストは一対一のくだりで…よく言うわ…というジト目視線をミイトに送った。

まことか?」

「はぁ…エストは強さとしては前魔王には遠く及びませんが、彼女がいなければ古代竜の討滅は確かに不可能だったかも知れません。」

 国王のいにサウムは、微妙な表情で返しつつもキッパリと言い切った。

「いかがでしょう?お爺様?今は、起こるかもしれない不測の事態を恐れて魔帝の封印を解く危険をおかすよりも、サウムの普段の仕事を彼女に頼んで不測の事態が起こりうる様な予兆よちょうがあれば、また対策を練るという事にしては?」

「うむむ…ストネよ…お前が、そこまで言うのなら…今しばらくは様子を見るとしよう…。」

 王女の進言で国王の腹は、どうやら決まったらしい。

 サウムは魔帝の復活を避けられて内心ホッとしていた。

 エストはサウムの婚約者である王女の名前がストネだという事を初めて知った。

 ミイトは自身の悪ノリの過剰かじょうな演技に酔っていた。

 結局、エストの勇者代行の提案は認められて軽めの仕事から引き継ぐ事が決まった。

 謁見の間から出た後にサウムは、ミイトの両肩を右手の義手と本物の左手で掴んで恨みがましい目線で小言を言う。

「エストが今の俺より役に立つと自分で言い切ったからには、ミイト…お前がエストの面倒を見るんだぞ?俺は、ミスリルの義手と義足がキチンと完成するまで休暇きゅうかを頂くだけのつもりだったんだからな?」

 ミイトは自分が墓穴ぼけつを掘った事を理解すると後悔した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る