第3話

魔王と王女が仲良くなったワケ Ⅰ

「冷たくて美味し〜い。」

 エストはラフな格好でカキ氷を食べている。

 共和国の季節は夏。

 暑さが本格化する時期に差し掛かっていた。

「食い過ぎで、また腹を壊しても知らねぇぞ?」

 ミイトが同じ様にカキ氷を食べながらエストの腹部を見て言う。

 エストはスプーンをくわえたままで、カキ氷のうつわ胡座あぐらの中心に載せて両手で胸を隠した。

 またまた、胸の谷間が誇張こちょうされて返って扇情せんじょう的なポーズになる。

「そこは見てねーよ。」

 …ワザとやってんのか?コイツは?…そう思いながらもミイトは、エストの誤解を解こうと言い訳をした。

 そんな二人の前に、バドシが現れて話し掛けてくる。

「試食品なら幾らでも有りますから遠慮しなくていいですよ。」

 ここはバドシの盗賊ギルド…つまり商会が、試験を兼ねて経営している飲食店の店内である。

 衛生面を考慮されて保冷用限定だった北の魔王の国の氷を飲食などに利用する為に、バドシは共和国から許認可きょにんかを得ようとしていた。

 既に成分の分析調査などのテストはクリア済みで、この店舗では最終試験である顧客こきゃく相手の試食と試飲が行われている。

 許可が得られれば氷を利用した食べ物や飲み物を飲食店で提供する事が可能になり、実績が出来れば他国でも同様の許認可を得やすくなって、バドシの商会はもうかりエストの国も注文でいそがしくなるという計画だった。

「私の故郷の氷は、今までだって品質的には何の問題も無かったのになぁ…。」

 エストが残り少なくなったカキ氷に果物の果汁で作ったシロップを追加で掛けて、混ぜながら愚痴った。

「その土地の水に合う合わないとか有るしなぁ。俺も他の国で生水なまみずを飲んだら、当たってエラい目に遭った経験があるから、そういう可能性も考える必要があるんじゃないのか?」

 ミイトが推測した答えを、バドシが即座に否定する。

「いえいえ…エストさんの国の安価な氷を飲料用にまで拡げて販売しようとしたら、飲料用の高価な氷で市場を今まで独占していた、高位の魔術師達から猛反発を喰らいましてね。まぁ、既得権益きとくけんえきの抵抗という奴です。」

「ふーん。」

 エストは下らないとでも言いたげに鼻を鳴らした。

「大きな声じゃ言えませんが色々と御役所に根回しして、ようやっと最終試験にまでぎ着けたんですよ。まぁ、ここまで来れば通過儀礼つうかぎれいというか…販売を許可する前の儀式みたいなもんですけどね。食中毒みたいな事故でも起きない限りは、ぐに市場に流通する事になりますよ。」

 バドシは、やれやれといった風に説明した。

「それじゃ原産国の姫君が、自国の氷を喰って腹を下した事実はせといた方がいいんじゃないのか?」

 ミイトが笑いながら突っ込む。

 エストは…なーにようー…とかブーたれつつもカキ氷を完食した。

「でもそれじゃ私達の国の氷が、彼らの仕事を奪った事になるのかしら?」

「そんな事は気にしないで良いんですよ…。そもそも高位の魔術師達にとっては、魔術の研究こそ本業であって、氷作りなんて弟子にやらせる小遣い稼ぎの副業みたいなものなんです。魔王の貴方みたいに巨大な氷の槍を作れる魔術師なんて伝説級ですし、小さな氷をチマチマと作るだけで生産力が低いから必然的に高価になってただけですよ。彼らの収入に大きく影響するような事はありません。」

 エストの質問にバドシが、手をひらひらさせながら答えた。

 彼は彼女のからになった器を見て…美味おいしかったですか?…と尋ねてきた。

「久し振りに祖国の水のにおいを感じて美味しかったー。…でも教国の王宮で頂いたアレが、一番だったわね。」

「アレ?」

「ああ…アイスクリームの事ですか?」

 エストは自分が勇者代行宣言をした日の事を思い出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る