第3話 フェアリーサークル
エクス 「これが噂に聞く『時の妖精たちの輪』だね」
金色の糸の様に細く長い長い髪に青い瞳の妖精たちは、みんな同じ顔をしている。硝子の様に冷めた瞳が四人を見下ろして取り囲んだ。妖精たちは一斉に唇を開けると謳いだす。
美しい旋律と共に四人の足元が歪み、まばゆい光に包まれた。
レイナ 「次元が動いている! はぐれないように手をつなぎましょう」
エクス 「!! 」
圧倒的な光の渦に堪らず、エクスは目を瞑った。頭の中まで白く塗り替えられてしまうような強い光の渦だった。
エクス 「何か遠い夢を見ていた様な気がする」
エクスは瞳を彷徨わせた。まだ頭の芯がぼんやりしている。
タオ 「夢じゃねぇぜ? 」
タオがにやりと笑って見下ろしていた。
エクス 「ここは? 」
白く高い塔の中に四人はいた。視界には真っ青な海が広がり、白い帆を立てた沢山の船が浮かんでいる。
シェイン「大航海時代に出たようですね」
エクス 「わぁ~!! 大航海時代! 」
船を見下ろしながらエクスは満面の笑みを浮かべた。
エクス 「かっこいいな」
レイナ 「嬉しそうね」
エクス 「男のロマンだからね」
船には色とりどりの衣服を纏った船員たちが乗り、港は活気と希望に満ち溢れている。
レイナ 「航海技術が村を活気溢れる都市へと成長させたのね」
シェイン「とてもあの寂れた村だったとは思えないですね」
タオ 「それが歴史というものさ」
エクス 「カインは何処にいるんだろう? 」
タオ 「都市の発展に貢献した有名人だろ? 酒場にでも行って聞いてみるか」
シェイン「タオが行きたいだけじゃないですか? 」
タオ 「バーカ、情報収集は酒場でするものと、今も昔も決まっているだろ」
エクス 「海の男たちにも会えるかも…」
四人は期待に胸を膨らませながら酒場を訪れる。しかし酒場で待っていたのは逞しい体つきをした異形の者達であった。
エクス 「なんでヴィランが!? 」
レイナ 「物語が随分と歪んでいるようね。ヴィランしかいないわ」
タオ 「船を走らせていたのもヴィランかもな」
ヴィラン達は一斉に振り向くと、襲い掛かってきた。
シェイン「今のところ、まともな人間に一人も会っていませんね。お婆さんは魔女そのものでしたし…。ああいう人をリアルに魔女というんだと思います」
タオ 「本当にそうだな」
ヴィランを叩きのめすとエクスはため息をついた。
エクス 「カインはこの街の何処にいるのかな…」
レイナ 「物語では『海の博物館』を寄贈して、さらに都市の発展に貢献したという話になっているわ」
エクス 「博物館に行けばいいんだね。あれじゃないかな? 」
タオ 「ん? 」
タオはエクスの指さした方向を見つめた。青色に塗られた大きな建物が建っている。入口には船の帆を模したオブジェが飾られている。
タオ 「いかにもそれらしい建物だな」
レイナ 「行ってみましょう」
酒場を後にしてからも、ヴィランは次々と襲ってくる。
エクス 「気のせいかな? 建物に近づくほどヴィランが増えている」
タオ 「気のせいじゃねぇな」
レイナ 「物語では、船を発明したカインは財力と名誉を手に入れて美しいレディーと結ばれるの」
タオ 「男の夢のような話だな」
青い建物の入り口は船のデッキの形をしており、鉄製のプレートには『海の博物館』と飾り文字が刻まれている。ここは海の博物館に間違いなさそうであった。しかし建物の中は静まりかえっている。
エクス 「こんにちは」
入口の戸には鍵がかかってなかった。エクスは中に入る。
船のミニチュアの模型や図面や望遠鏡、地球儀が所狭しと並べられている。
シェイン「天体観測もしていたんですね」
エクス 「航海するには必要だからね」
エクスは夥しい紙の束に目を細めた。
エクス 「うわっ…」
資料の中から破かれた肖像画を見つける。美しいレディーと紳士の姿が描かれているのだが、ちょうど顔のところを真っ黒なペンキで塗り潰されて、二人は引き裂かれている。
エクス 「カインはレディーと結ばれなかったのかな…」
シェイン「そのようですね」
レイナ 「しっ…黙って! 歌声が聞こえる」
微かにしか聞こえなかった歌声が徐々に大きくなってくる。
??? 「カイン様は夢を見ていらっしゃいます。永遠に硝子の森に囚われたのです」
ふわりふわりと妖精たちが現れ、四人の周りを囲み周りだした。妖精たちの歌声が鼓膜を震わす。
エクス 「次元が歪んでいく…ああっ…!」
意識が光に飲み込まれていく。
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