第4話 ギフテッド(年齢不詳)と

久しぶりだな


ええ、まあ。それにしてもこうして先輩とお酒が飲めるとは思いませんでした


大事な高校時代の後輩だからね。一緒に生徒会までやったじゃないか。


相変わらず不遜な喋り方ですね。


悪いがこれが私だ。


相変わらず身長が低いままですね。


......悪いがこれが私だ。


テーブルの上に学生証置いておいてくださいね


どうして?


俺が小学生に酒飲ます変態だと思われるからですよ


ふん。堂々としていれば意外と何も言われないものさ


自分にはその権利がある、ですか。ずいぶん向こうに染まって帰ってきましたね。


よしてくれ。いたのは一年だ。それだって後半はサボってばかりだったし


だからってこんな大学に入らなくてもよかったと思うんですよね。先輩だったらもっと上行けたでしょう


郷里が恋しくなったんだ


そんなもんですか


そんなもんだよ。ところで、MARIについてだが。


だれですかそれ


知らないとは言わせないよ。あれは君の入れ知恵だろう。


どうして、そんなことわかるんですか


まがいなりにも一年いっしょにいたんだ。それくらいわかる。そもそもMARIはうちの学生だろう。それも君と同じゼミだ。


よくわかりましたね、というかあいつと会ったことありましたっけ


いや、直接はない。でも、ほら最近構内で君らが言い合いしてる時にすれちがったろう?


あ、ああー。あの時ですか。ゼミ後ですね。教授の小言のことごとくをとりあげてどっちが悪いのかを殴り合って決めてました。


小学生かね君らは。ま、とにかくその時の声を覚えていたわけだ。ネットで話題になっていたのを聞いたらすぐにわかった


さすがギフテッド


よしてくれ。私は普通だよ


普通の人は飛び級で大学行くとかそういう話とかは無縁ですよ


だから私だって断ったろう。無縁だったからね


縁を切ったっていうんですよそれは。それにしても普通、ですか。高校生のころから先輩そればっか言ってましたね


卒業して海外に行って、普通へのあこがれは却って強くなってしまった。両親や担任はそういうものへの未練を私からなくそうとしたんだろうけどね


別にその人たちも間違ってないと思いますけど


ああ。もちろんだ。彼らは私の人生が最大限よくなるように計らってくれたんだろう。それだけは感謝している。でも、


人生の生産性を最大化することがそのまま幸せにつながるとは限らない、と


ああ、だから進路としても院に進むことなく就活をしようと思うんだ


先輩工学部ですよね? だったら院進するのが普通なんじゃないですか


お、そうなのか。普通は難しいな


研究室で話題になりませんか。そういうの。


所属する研究室にいるのは私一人だけなんだ。自分で作った研究室だから当たり前といえばそうなんだが。


そういうとこ無駄に壮大なのも変わってませんね。お友達は?


いるにはいるんだが。彼らは講義ノートを貸した途端どこかへ消えてしまうんだな


先輩それ


テスト期間が終わればジュースとかおごってくれるから私は満足だ


先輩それ友達じゃないです


失礼な。彼氏だってつくった私だというのに


おお。先輩の恋人ですか。どんな人なんです?


ふふん。同じ学部のきわめて普通の人だよ


うれしそうですね。言ってみたかったんですか、そのセリフ。


もちろんだとも。見てみたいかい


写真でもあるんですか


あるよ。携帯の中にたくさん入ってる。


ぴろりん


おっと言ったそばからメールだ。九時半には帰ります、と。


同棲してるんですか


いや、そんなことはないが?


じゃあどうして帰宅時間なんて


聞かれたものだからね。普通は答えるだろう?


大事にされてるんですね。


ぴろりん


あ、またメールだ。大学近くの居酒屋だよ、と


ははは。心配されてますね。俺と二人で飲んでることは知らせてるんですよね?


もちろんだとも。高校時代との後輩と二人で飲むと。普通はこういうことをはっきりさせるべきだろう?


......それ、いつ言ったんですか?


え。今だが?


ぴろりん


また来た。今電車に乗った? ふうん。彼もどこかに出かけるのか。ずいぶん突然だ。何か急用でもできたんだろうか。


まあ、男にはそういうときってあるんですよ。なんというか、無性に飛び出したくなる瞬間ってやつが。


そんなもんかね。


ぴろりんぴろりん


あ、まただ。


あの


ぴろりんぴろりんぴろりんぴろりん


なんだい


ぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりん


彼氏さんとメールってどれくらいするんですか?


変なことを聞くやつだな。そうだな。今は19時だが、今日はこれまで200通くらいかな。普通だろ?


普通、ですね。普通、だと思います。ええ


ぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりんぴろりん


おーメールだ。大学近くに来たそうだよ。この近くに用事でもあるのかね。


そうだと思いますよ。どうです? 帰りは一緒にしたら


ああ、それもいいかもな。普通っぽくて。でも君、彼の用事がそうタイミングよく済むとは限らんだろう。


済むと思いますよ


ほう。私にわからないことが君にわかるのか。


こればっかりは確実です


どうしてそう言える?


あの、話すのはいいんですけど交換条件いいですか


何でも言ってみたまえ


今からこう、すべてをお話しするわけですけど、それが済んだから俺帰ってもいいですか。できれば早急に


どうしてだい? 六時からの三時間飲み放題セットを予約したのは君じゃないか。

最近は変な奴としか酒飲まないから普通の飲み会ができるぞーと息巻いていたのを忘れるほど私は酔ってないよ


もう、普通の飲み会じゃなくなっちゃんたんで。


なに。こんなに普通な私と飲んでいるのにか。


ええ。まあ。あとかえってカメに餌あげないと。


まだあのカメ飼ってるのか。


はい。それで、話していいですか。どうしてそういえるのか。


どうしてすぐに彼の用事が済むのか、だな


そりゃあ


それは?


ガラガラッ!


ここに来るからですよ!


???


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どうしたの。


ああ。お前か。悪いが今日は殴り合ってやれるほどの元気はない。


死体蹴りするような趣味はない。また今度にしてあげる


身長負けてたのまだちょっと根に持ってるな? そんなヒール履きやがって。


おかげで何回もこけた。


それはお前が飲んでるからだな? ここは共同研究室だ。その瓶を早くしまえ。


うん。


あ。その小奇麗なハンドバッグにしまうんだな。


なにか?


いや、お前がいいんならそれでいいんだ。じゃ、俺は寝るから。


徹夜したの? そんなしんどい課題は出てないはずだけど。


あーまあな。ちょっと教育方針についてな。


君、まさかその年で。相手はあのサークルクラッシャーの?


違うから。今は寝かせてくれ。頼むから


......


あー分かりました。ビールはジョッキ半分まで。揚げ物一皿につき、必ずサラダはつけますから。はいー。それはもう。間違いなく。歯も磨かせます。

門限も守ります。うーあー。


......むー

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