第3話 カクテルとアル中アイドル 後編

よーし。相談に入る前に少し確認するぞ。



お前は俺に相談がある。それは自分がやってるネットラジオに来た「友達の作り方を教えてください」というお便りの回答をいっしょに考えてほしいってこといいんだよな


この時間、むだ


うん相談相手に対してあまりにも辛辣すぎるなお前は。で、なんだっけ? それを俺に持ち掛けた理由ってのは


あなたがあのサークルクラッシャーと一緒にいるとこをよく見るから


それさっきも聞いたけどさ、直接の理由にはなってないよな


友達(広義)の作り方に詳しいでしょう。


ちょっとまて何か不穏な感じがするぞ。


でも間違いじゃない。


確かに人間関係を壊すには壊せるだけの関係を先に作る必要があるからな。その辺の人より壊した数が多い俺には一日の長があるかもしれないな。ってこら


ノリツッコミがくどい


辛辣!


早く答えを頂戴


頂戴ってお前ね。お前への相談なんだからまずはお前の考えを申してみよ。


......


ないんかい。


一人で思いつくならあなたなんか呼んでない


そういうとこだと思うんだよなあ、お前のそういうとこがあ


何か


いえ別に。ま、いいや。少し聞きたいんだが。相談者のプロフィールとかってわかるのか。


うーんと。お便りフォームによると14歳の女の子となっている


ふーん。女の子ならお前が一人で考えた方が。あ


そういうのはもういい。話が進まない。


あとひとつ。お前はどうしてこのお便りに答えようと思ったんだ


どういうこと?


お便りなんてほかにもいっぱい来てるだろ。お前が答えられないこれ以外にもさ。だったらこれを採用しないで「休日はなにしてるんですか」みたいな軽いやつにしろよ。


......それにもこたえられない


おうそうか。実は少し予感してた。


でも、理由は言えると思う。


言ってみ。


その女の子は多分今つらくてしょうがないんだと思う。親にも先生にも相談できなくて現実に居場所がない。だからネットに助けを求めた。悩みを答えてくれるネットラジオに。


だったら別にお前が答える必要はないかもしれないな。それこそほかにラジオは無数にあるわけだし。その女の子も他のやつらにもお便り送ってるかもしれないし


でもそれは確かめようがない。事実は私のところにお便りが来た。それだけ。多分絶対に答えてほしいからこそ、わたしみたいな零細配信者にお便りを出したのだと思う。


そうか。


だからこそ、私はこの求めに応じたい。彼女が寄せてくれた信頼に報いたい。


ま、所詮ネットのお便りだからな。そんなやついないかもしれないけどな


それでもいい。むしろそういう女の子がいなかったのならそっちの方がいい


......その優しさを十分の一でもいいからこちらに向けてくれませんかねえ


え?


いえ別に。ともあれお前の思いは分かったよ。それ踏まえてもやっぱりお前の答えをその子にあげるべきだと俺は思う。


でも、私ひとりじゃ。


だから答えを考えるまでは一緒にやってやるよ。


そう。


おう。それでお前はどう思う? どうしたらその子に友達ができると思う?


分からない。


それはどうして


私自身が他者を必要としたことがない。幼いころからしようと思ったことは大抵一人でできた。


寂しくはなかったのか。


寂しくなかった。でもそれは家族が存在していたからかもしれない。


家族は必要としなくても存在してくれる他者、か。普通は家族がいても友達って作りたいもんだけどな。


......


ああ悪い。言い過ぎた。でも、そういう意味では経緯はどうあれ俺を頼ってくれるのは光栄だね。何せ今まで誰にも頼ったことはないんだろ


少なくとも意識的には。で、あなたはどう思う。どうしたら友達ってできると思う。


さあな。


どうしてそんなこと言うの。


そのままだよ。友達ってつくるものじゃなくて自然にできるものだからな


ちっ。


お前やっぱそういうとこだよ、お前のそういうことがさあ。


そういうことが、なに?


いえ別に。てかこのくだりやりすぎたな。もういいや。


真面目にやって


はいはい。ま、でも俺もそういう意味では他者を意識的には必要としなかったのかもな。お前の言う家族と同じで必要としないのに存在してたんだからさ


そう


でもやっぱり友達は必要だよ。現にお前は自分一人では至れない答えにこうして近づきつつある。


友達......?


え?


え?


うん。ごめんな。俺の思い上がりだったな。かなりショック。ここにあるテキーラ、全部いただくな。ちょっと記憶飛ばしたいから。


えっと、あの。そういうことじゃない。私友達ってどういうことかわからないから。こういうのでも友達っていうのかなって


あ、ああ! そういう、そういう「え?」なのね。ああ、よかった。一緒に酒飲んで相談にまで乗ってそれで友達じゃねえってなったら俺どんだけ嫌われてんだと思った。あー死ぬかと思った。


なるほど。これがともだち


そうだこれが友達だ。って顔近づけるな。そんなに珍しいもんか


はじめて。はじめてのともだち。


近い近い近い。そして酒臭い。


あなたも


そりゃあそうか。そういえばお前酒めっちゃ飲んでたんだっけ


そう酔ってる。今の私は酒に酔ってる。素面ならこんなこと言わない。


そうかい。話はそれたが、大体わかったきたんじゃないか


そう?


ええ......


冗談。うん、多分答えられると思う。だからもう帰って


うん。お前がいいならそれでいいよ。うん。


......ありがとう。


え?


なんでもない


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先輩先輩先輩先輩先輩


なんだよ、うっとおしいな。


あのニュース知ってる?


ニュース? ああ、あの長谷川君が失恋のショックで講義棟の廊下をペンギンみたいに滑ったっていう話か? 腹に油塗って。でもあれはガセだ。講義棟って部分が。本当は大学前の車道でやったんだ


そっちも気になるけど、そうじゃないわ。MARIよ、MARI


ま、MARI。だれだそいつ。せ、先輩は知らねえな


知らないの? 先輩ださいわ。率直に今一番熱いネット配信者よ。いえ、もうアイドルねあれは。ずっと大ファンだったんだけどとうとう日の目を見たの! 彼女の発言で今ネットは大騒ぎ。


それでそいつはどうすごいんだ


彼女のやってる配信に深夜ラジオやってる芸人がふざけてお便りを送ったらしいの。14歳の女の子のふりして。キモイわよね。ま、それはいいのよ。


いいのかそれ。置いといていいのかそれ


ここからがすごいのよ。普通だったら「同じ趣味の子を探してみて」とか「自分から積極的に声をかけてみよう」とか腐ったこと言うでしょ? 


それは腐ってんな


芸人もそういう「いかにも」な発言を期待して、あわよくば自分の番組でネタにしようとしたらしいんだけど。MARIは違ったのよ。まさしく女神だわ。


女神ねえ。そいつはなんて?


「自分から無理して誰かを必要としなくていい。友達がいない自分を責めないで。それでも友達が欲しかったら、あなたが誰かを必要としているとき、周りをよく見て。そのとき近くにいてくれる人。その人が友達」だって。感動的だわ。あたし実際に泣いちゃったもの。五時間くらい。


お前には特に響いたかもな


うるさいわよ先輩。それを聞いた芸人はもう号泣しちゃって、放送中に泣いて土下座したらしいわ。そのまま打ち切りになればいいのに。


いちいち辛辣だな


当たり前よ。私の女神を試したんだから。ああ、でもMARIってどんな人なのかしら。わたしと同じ大学生ってことしかわからないのよ。


へえ。


それで今回の答えも一人じゃわからないから友達と相談したって。


ふうん。


今回のことを通して自分も友達の大切さに気付かされたって言ってたわ。


ほう


あんなに女神なMARIの友達なんだからその友達もさぞ素晴らしい人なんでしょうねえ。ねえ先輩?


いや、意外と屑かも


ねえ先輩!


あ、ああ。そうだな。多分そいつはどうしようもないくらい馬鹿でそれと同じくらいお人よしなんだろう。全く




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